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Netflixこそが映画館の救世主なワケ 〜人間の「"不便"を愛す」という心理〜



「休みの日は…"ネフリ"かな。」

仕事柄、同世代にして世界の様々な国と地域で活躍するアーティスト達と巡り合うことも珍しくない。そんな彼らと世間話をしていると、決まって話題に上がる"休日の過ごし方"。閉鎖的な時間が続く中で、誰しもが自分なりの息抜きの方法を模索しこの1年を過ごしてきた。そんな中でも「Netflixで映画を観ること」を1番の趣味にあげる人が多い。

近頃は、Netflixを利用していないという人の方がレア的存在として扱われる世の中なのだ。経済効果と影響力は凄まじい。そんな中、映画館が無くなってしまうかもしれないと心配になっている人もいるだろうか。

「便利」と「想い出」の共存を心理学という観点から考えていく。


「ゼロ広告」という世界イチの広告塔

日本でも話題のドラマが一大ブームを起こすと、その波に乗って関連企業や登場する役者らによる経済効果が一定数見込まれる。それが世界規模で話題作を送り出し続ける配信サービスとなると、その影響力は計り知れない。2020年10月23日、Netflixはアニャ・テイラー=ジョイ主演のドラマシリーズ『クイーンズ・ギャンビット (The Queen's Gambit)』を公開した。アニャは、孤児時代の葛藤から薬物依存症に苦しむ天才チェスプレーヤー、ベス・ハーモンを演じている。

昨年末までに約6300万人がこの作品を視聴。アメリカの大手通販サイトeBayでは、チェス関連グッズに関する問合せが250%あまりも増加。オンライン・チェスサイト『chess.com』のプレイヤー数も5倍に増えた。「チェスのやり方 (How to play chess)」がGoogleの急上昇検索ワードの世界1位になったかと思えば、アメリカ人作家ウォルター・テヴィスによる1983年発表の原作『The Queen's Gambit』は、約40年の時を経てNYタイムズ誌が掲載するベストセラー本に選ばれた。

広告を一切流さないことで有名なNetflixだが、世界中のマーケティングやブランディングの業界から一目を置かれる、唯一無二の“アド・パワーハウス(宣伝広告の役割を担い社会に大きな影響を与える地位にあるメディアやコンテンツのこと)”を確立することが出来たのか。

例えば2016年から続くNetflixの大人気シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界(Stranger Things)』では、カンザス計画としても知られるコカ・コーラの味変バージョン“New Coke”を作中に度々登場させ、米国内でのリバイバルを図るコカ・コーラ社とタイアップした。このように、Netflixにはコマーシャルが一切無い代わりに、作品が大ヒットするとたちまち作中に登場したアイテムが注目を浴びる。

多くのマーケターが、いわゆる『デジタル・プロダクト・プレイスメント』や『ポーズアド(Huluなどで用いられている動画を一時停止している間に画面に表示される広告のこと)』のような新しい広告フォーマットを導入し続ける配信サービスこそが、最も重要な広告のチャンスになっていると口を揃えて言う。

もし仮にクイーンズ・ギャンビットがチェスメーカーからの提供を受けていたり、登場キャラクターが特定のブランド衣装に身を纏っていたとしたら、それらの企業の業績は今頃どうなっていたことだろう。


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