アパート
とあるアパート
男がコンビニから帰って来ると二階から二階が無くなっている
辺りを見回してみるが何処にも見当たらない
と、そこへ男が一人やって来てドアの前でポケットに手を突っ込む
「すみません」
振り向く男
「あの、二階に住んでる者なんですけど」
「はい」
「これ、二階って」
「二階?」
「あの、無くて、二階が」
「あー、 あ、え?」
出て来て二階を確認する男
「ほんとだ、全然気付かなかった」
「さっきまであったんですけど」
「最近多いっすね」
「あ、そうなんですか?」
「最近なんか多いっすよね」
「すみません、自分先週引っ越してきたばっかで」
「あ、そうなんすね」
「よろしくお願いします」
がちゃ
と、男の部屋の隣のドアが開いて背の高い女が出て来る
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
女はにっこり笑ってお辞儀を返しながら駅の方へと出掛けて行く
その背中を暫し見送る二人の男
「滅茶苦茶綺麗っすよね」
「綺麗でしたね」
「多分一人なんすよ」
「あ、えー」
「あ、二階」
余韻を終えて振り返ると二階に二階が戻って来ている
「いつの間に」
「全然あれなんですね、音とかしないんですね」
「確かに」
「すみません、ありがとうございました」
「なんもしてないっすけど」
「いえ」
「それじゃあ」
男は軽く頭を下げると鍵を開けて部屋の中へと入って行った
それを見届けて二階を見上げる男
ゆっくりと階段を上がって行く
とん、とん、とん、とん
がちゃ
男が部屋の前まで来ると隣のドアが開いて髪の長い女が出て来る
「こんにちは」
「こんにちは」
「あ、すみません」
振り向く女
「あの、今ってずっといました?」
「はい?」
「あ、いやあの、今ってずっと中いました?」
「はい」
「え、どこ行ってました?」
「はい?」
「あ、いやあの、今って、どこ行ってたんですか?」
「ずっといましたけど」
「あ、じゃなくてその」
「すみません急いでるんで」
女は頭を下げて無理やり会話を終わらせると逃げるように去って行く
男はその背中を見送って自分の部屋のドアに鍵を差し込む
「あ」
そう言えば引っ越しの挨拶がまだだった
男は荷物をソファに置くと再び出て来てドアに鍵をかける
とても綺麗な人だったから蕎麦よりもカステラの方が良いかもれない
終わり
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