玄関

何処かのマンション
今日は朝からあいにくの天気
支度を済ませた男が一人、玄関のドアを開ける
がちゃ

どん

と、開けたドアが何かにぶつかる

「あ、ごめんなさい」
「あーすみません」

外から声がして男は慌ててドアを引く
様子を窺いながら、今度はゆっくり開けていく

どん

「あ、ごめんなさい」
「あーすみません」

と、まだそこにいて再びぶつけてしまう男
慌ててドアを引き寄せる

「すみません」
「ごめんなさい、ちょっと、すぐ終わらせますんで」
「大丈夫ですよ」

男はドアノブを握ったままその場で暫し待機する
隙間から聞こえてくる強めの雨音
駅まで濡れずに着けるだろうか

ざーざーざー

ざーざーざー

ざーざーざー

「もう大丈夫ですか？」
「ごめんなさい、ちょっと、すぐ終わらせますんで」
「あ、はぁい」

スマホをちらり
リビングをちらり

ざーざーざー

ざーざーざー

ざーざーざー

「もう大丈夫ですか？」
「ごめんなさい、ちょっと、すぐ終わらせますんで」
「あ、はぁい」

空き瓶をちらり
バナナをちらり

ざーざーざー

ざーざーざー

ざーざーざー

「もう大丈夫ですか？」
「ごめんなさい、ちょっと、すぐ終わらせますんで」
「あ、はぁい」

靴ひもをちらり
ドアノブをちらり

ざーざーざー

ざーざーざー

ざーざーざー

ざーざーざー

終わり