屋上

何処かの屋上
男が二人、のんびり煙草を吸っている
空はとてもいい天気

「昨日行ってきましたよ」
「お、まじっすか、どうでした？」
「滅茶苦茶美味かったです」
「えー、え、何食べました？」
「味噌食いました」
「あー味噌いいっすねぇ」
「滅茶苦茶美味かったです」

さっきから向かいのビルの屋上で男がトランペットを吹いている
タキシードに身を包み、演奏を中断して取り出した煙草に火を着ける

「ちょっと明日行ってこよう」
「入口分かりづらいんで気を付けて下さい」
「あーなんかそれテレビで見ました」
「裏の裏みたいなとこにあるんすよ」
「裏の裏？」
「なんか、裏の裏の裏みたいな」
「全然分かんない」

向こうから見慣れない飛行物体が飛んできて向かいのビルの屋上に着陸した
男は煙草を口の端で咥えながら、しゃがんで靴紐を結び直している

「煙草一本貰ってもいいですか？」
「あー全然」
「ありがとうございます」

「そう言えばさっき大丈夫でした？、なんか、すごい」
「あー、はい、全然」

物凄い煙を吹き出しながら飛行物体が二つに割れていく
男は行く末を見守りながらまだ吸える煙草をローファーの爪先ですり潰す

「なんだったんすか？」
「なんか、行き違っちゃってたみたいで」
「あー」

赤いドレスの綺麗な女がスロープを優雅に降りて来る
開いた胸元から取り出した煙草
男はマッチに火を着けて、真っ赤な口元にそっと差し出す

「そう言えば爪先さんあれみたいっすね、今月で」
「え、なんすかそれ？」
「あれ、知らないっすか？」
「辞めちゃうんすか？」
「いやなんか、横にあれするみたいです」
「えー」　

赤い女と黒い男が向かいのビルの屋上で陽気なダンスを踊っている
二つに割れた飛行物体は重低音に合わせて膨らんだり戻ったり
空はとてもいい天気

終わり