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駐輪場

とある駐輪場
女が一人、きょろきょろ辺りを見回している
たまに人の出入りがあるがみんな知らんぷり

と、そこへやって来た女が女に気づいて声をかける

「どうしたの?」
「あ、いや、自転車がどっか行っちゃって」
「どの辺に停めたの?」
「ここです」
「あら」
「鍵かけてたんですけど」
「どんな自転車?」
「丸くて後ろがとんがってるやつです」
「色は?」
「ピンクです」

辺りを見回す女
似たようなのが並んではいるが、案の定どれも後ろはとんがっていない

「この後なんか予定ある?」
「予定?」
「ちょっと見てきてあげる」
「え、あ、そんな、大丈夫です」
「大丈夫大丈夫」
「いやほんと、交番行くんで」
「すぐ戻るから」

女はちょちょいと設定を弄くると、にっこり笑って飛んでいってしまった

「此方は防災板橋です」
「今日午後二時頃、成増南三丁目付近で八十五歳の女性が行方不明になっています」
「身長163センチ、白髪で、銀色のボディ」
「心当たりの方は板橋中央警察署までご連絡ください」

残された女はポケットからスマホを取り出して何とは無しに時間を見る
17時32分、何を食べて帰ろうか

「すみません」
「あ、ごめんなさい」
「あ、すみません、そこ」
「あーごめんなさい」

女子高生をやり過ごして座れそうな場所を探す
駐輪場のライトに明かりが灯った

と、五分もしないうち女が空から戻って来た

「ごめんなさいすごい混んでて」
「すみません」
「今日土曜日だったのね」
「そうです」
「あなただったわよ」
「え?」
「自転車」
「え、私?」

女は記憶を探ってみるが心当たりが見つからない

「ちょっと急いでるみたいだったけど」
「どこ行くとかって言ったりしてました?」
「喋っちゃ駄目なのよ」
「あ、そうか」
「そのうち返しに来るでしょ」
「ですかね」
「これ、お饅頭」
「え?」
「よかったら食べて」
「あ、ありがとうございます」

女は一通り喋り終えると満足気に駐輪場を去って行った
女は結局また一人駐輪場で饅頭を片手に今度は自分の帰りを待つ
18時まで待って来なかったら、今日は諦めて歩いて帰ろう


終わり

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