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自動販売機

何処かの自動販売機
若い女が一人、ディスプレイを眺めている
通り過ぎて行く酒屋のトラック
ゆったり

と、気配を感じて振り向く女、男が一人立っている

「あ、すみません」

慌てて横にずれる女

「あーどうぞどうぞ」
「いやあの、まだ全然決まってないんで」
「大丈夫ですよ全然」
「いやほんとあの、どうぞ」
「いいですか?、じゃあ」
「はい」

男は軽く頭を下げると、前に出て来て小銭を投入する
青く点灯するボタン
ぽちん、ごとん

手を伸ばし、取り出し口の扉を開けてもう片方の手を差し込む男

「!?」

と、男はそのままするすると取出し口の中へ入って行く
何とも無しに見ていた女は目の前の事態にただただ目が離せない
頭、胴体、お尻、右足、左足、ぱたん


静まり返る自販機
酒屋のトラックがゆったり通り過ぎて行く


「すみません」

「すみません」

ふと何かが耳に飛び込んできて我に返る女
振り返ると外国の男がにっこり笑って此方を見ている

「はい」
「あの、動物園てどこですか?」
「動物園?」
「はい」
「あーごめんなさい、私ちょっとこの辺の人間じゃないんで」
「これっくらいのパンダがいます」
「ごめんさない、ちょっと分かんないです」
「そうですか」
「そーりぃー」

外国の男はにっこり笑うと自販機でコーラを買って去って行った
背中を見送る女、再びゆっくりと自販機の前にやって来る

変哲もないディスプレイ
意を決し、慎重に小銭を投入していく
ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん


終わり






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