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美容室での出来事

ここ数年、年を越す前に美容室に行き、身なりを整えて新年を迎える、ということを続けていた。そうしないと気が済まない、ルーティンというやつを私も多少は持っているようだ。

仕事を辞めて半年。今日が何曜日なのか?というところまでいってはいないが、たった四日間しかないことが多かった年末年始休みを有意義に使おうという頭はなくなっていて(無限に休みだから、である)、美容室の予約をとろうとした日には画面の予約表はすべて✕印で埋め尽くされていた。地元でも人気も美容師だったことを忘れていた。仕方なく、年明けにしようとスマホを置いた。

のが年末の話。年が明けて、気持ちを奮い立たせようと再び美容室の予約画面を開く。1時間だけ○印になっているその日に予約をし、二ヶ月ぶりに美容室へ向かった。

年末はお世話になった友人の送別会イベントで久しぶりに飲み明かした
数年振りに一人で紅白を見て、初日の出を拝んだ
九十九里浜の日の出


地元のカリスマ美容師

コロナ禍で、ずっと通っていた都内の美容室に行くことをやめ、地元の、車で行ける範囲にある美容室はないかと職場の後輩に何の気なしに話したら「めちゃくちゃ良い人いますよ!」と二人も同じ美容師さんを紹介してきた。これは間違いないだろうと、その人を訪ねたのが今の美容室に行くようになったきっかけだ。はじめは正直「いけすかねぇ~男だな」と思っていたけど(いわゆる遊び人に見えたから笑)、こちらの悩みや要望を汲み取る技術はピカイチで、結局コロナ禍が終息した今も通い続けている。話を合わせてくれるというより、お互いに話したいことをひたすら話せるから、私は今となっては結構心を開いているつもりだ。

去年の11月頃、「私写真展やるんですよ」って話をしたら、「え?写真撮る人だったの?知らなかった!実は俺も撮るのよ」と、まさかの趣味が写真撮影のドライブだという。チャラさに似合わずかっちりした美しすぎる写真を撮っていた(失礼をお許しください)。「スマホなんだけどね」とは言うものの、迫力のある美学のある写真ばかりで結構驚いたし感動した。美容師という仕事柄だから、なのかもしれない。画面にきちんと整って入っている景色が、素人とは思えないレベルだった。

その日は写真展前だったので、自分としてもいつもと違う、サラリーマンじゃできない髪色や髪型にしたくてそれを伝えると「私、クリエーターなんです、がテーマね!」と勝手に楽しそうに納得して切り始めていた。仕上がりはもちろん文句無し。気づけば何十年ぶりの前髪が出来上がっていた。

「前髪はないほうがいいよ~」と大学時代の友人の誰かに言われたあの日から、前髪を作ることをやめた。でも、カリスマ美容師の手にかかれば、そんな呪縛からも解放され、なんなら「え?私こんなに顔が小さかったっけ?」と錯覚を起こすほどの仕上がり(実際はそんなことはない)。案外、そうやって人に言われたり自分で思い込んで「こうしなくちゃ」「ああはしないようにしよう」と決め込んでることも、もう一度見直してみると新たな世界が広がるのかもしれないと思った。少し前に同じようなことがあった。でもそれはどんなことか忘れてしまったのでここには書けないけど、たしかに、思い込みはやめようと思ったエピソードがあった。これで二度目なのだから、もう確信に変えても良い頃だ。

クリエーターです!がテーマの髪型

話を戻そう。年明け、つい数日前行ったときには「暗めの色にしてほしい」と伝えたら、美容師さんは残念がっていた。「気持ちは乗らないけど就活始めてるから履歴書に貼る写真撮らなくちゃだし。面接にいつ呼ばれても良いようにと思って」と話すと、「え?だってクリエーターなのに?写真やっていけば良いじゃん」と真顔で言う。こっちの気もしらないで、と言いたかったが、あの人は何も間違ってない。だって私がやりたいことは、髪を真っ黒にしてする仕事じゃないとわかっているからだ。

やりたいこと。やってみたいこと。
お金はたくさんほしい。安定と安心もほしい。

せっかく辞めたサラリーマンなのに、また怖くなってきてサラリーマンに戻ろうとしている。でも、エントリーしても履歴書を書いてても気持ちは上向かない。心が一番わかってる。

「髪色、ハイライトは少し残しておいたからね。嫌でしょ?真っ黒になるの」と美容師さん。真っ黒ではなくアッシュやカーキやグレーが混じったような色になった(これも要望どおり)。てっぺんが少しだけ明るい。二ヶ月後くらいには隠したハイライトが出てくるだろう。
その頃、私は決められているだろうか。ハイライトをそのままにするか、またハイライトと隠すか、を。


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