見出し画像

日本に、まだ、帰らない

ずっと日本で幸せに暮らすことが私の夢だった。

このブログの背景になっている、渋谷の夜景を見た日のことを思い出す。
あれは、初めて海外移住する何日か前、当時の恋人と最後に会った日のことだ。あれからもうすぐ4年になる。

ずっと海外に移住することが夢だった。東京で私ができることはすべてやって、それでも私は満たされないから海外に行くのだと思っていた。
でもあの日、渋谷の夜景を目にして思ったことは、私はこの土地で幸せに生きたかった、ということ。私はやっぱり東京が好きで、あの土地で自分らしく生きられる方法をずっと探していた。
もっとがんばれるんじゃないか、あと少しここで粘れば、分かり合える人たちと出会えるんじゃないか。そんな果たされなかった望みがこみあげて、この景色を見ながら静かに泣いた。

あれから3年以上がたち、今年また節目を迎えた私は、良くも悪くもタフになった。そして今月、やはり私はまだ日本には戻らないという決断をした。
次にどこに行って何をするのか、プランはまだない。
でも、まだ日本に戻らないで海外で暮らし続けることが私にとって必要だと感じた。

日本で幸せに暮らすのが夢であることは変わらない。
でも、今もし帰ったとしてもその夢は果たされないということがわかっているからだ。

今回の移住からそろそろ半年になる。
海外移住のキラキラ期、ブルー期を過ぎて、安定に入ってきた時期。
最近は泣くこともめったになくなった。

久々に電話した母がなんか今日元気ないんじゃない、と言い、私はいや、忙しいだけ、と答える。本当に、忙しいだけなのだ。
最近、電話が減ったなと思い履歴を見てみると、最後の通話は1か月前だった。私からかけることも、母からかかってくることも用事がない限りほとんどなくなった。
履歴を見て、さびしいようだが、ほっとしている自分がいた。

疎遠になる、ということは決して悪いことではなく、お互いに自分の人生、目の前のことに集中しているだけなのだ。
離れていても家族や友達との絆が保てるのはもちろんすばらしいことだが、人は現実以外の場所では生きられない。
日々の楽しいことやつらいことを遠くの家族や友達に共有しても、彼らは今、私の近くにいて、必要な時にそばにいてくれるわけではない。
そういう意味で、毎日のように日本の家族や友達に電話するのは現実逃避のように私は感じる。

自ら海外に行く人は何かしらの目標を達成するために行くわけで、海外移住中は限られた時間の中でその目標に集中する時間だ。だから、たくさんの努力、自分と向き合う時間、自分の殻を破る勇気、そして時には孤独も必要となる。

今の私は、困ったときは自分で解決するなり周りの人に頼るなりすることができて、やりたいこともある。母も、私のいない生活に慣れ、仕事も落ち着いてきて、ずっとやりたかった趣味をやっと始めた。
お互いに、お互いのいないところで新しいスタートを切ったばかりだ。

やっと、こんないい距離感ができたのに、今もし日本に帰ったら、お互いに生活を乱すことになってしまう。
だから、いつか帰りたいと思ってはいるけれど、それは今じゃない。
結婚してまた家族の関係性が新しく変わるころになったら、もう日本に帰っても大丈夫と思えるかもしれない。

こうして、どんどんと日本が遠くなっていく。
遠くなるというより、本来の距離にもどっていくと言ったほうが正確かもしれない。大昔、海を越える手段が船しかなかったころの距離感に。

悲しいけれど、これはお互いを尊重するのに必要な距離なのかもしれない。
とにかく今は前を向いて、自分の役割を果たすことと、幸せをつかむことに集中して生きたい。

(2023年、3月末)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?