AI(CHATGPT/Dify等)を活用した業務設計・AI開発:本の出版を実例として④
1.業務設計・AI開発の背景
前回の記事では、私が「就職氷河期」時代を生き抜きコンサル業界で経験を積み、その後出版した書籍「図解版・就職氷河期にコンサルティング業界へ入った父親が、娘に伝えたいこと」を背景に、AI(特にCHATGPT)を活用して書籍企画プロセスの業務設計・再構築に挑戦していることを紹介しました。
この書籍執筆を通じて培った知見やビジネス戦略、業務改善ノウハウをもとに、出版企画の初期段階からAIによる業務支援を実現するため、Difyなどのツールを用いてLLM(大規模言語モデル)を活用したプロセス可視化・自動化に取り組んでいます。
前回は「0-1 アイデア出しブレスト」という初期テーマ設定タスクに焦点を当て、Difyでのアプリ開発アプローチと実行例を示しました。今回は、その続編として、0ステップ全体(0-1~0-5タスク)やペルソナ(著者、編集者、アシスタント)設定をより具体的に説明するとともに、0-1から0-5へと拡張するDifyアプリ構築の詳細をお伝えします。
2.業務フローとペルソナ設定:"ステップ0:初期テーマ仮設定"の全体観
"ステップ0:初期テーマ仮設定"は、書籍企画プロセスの最初のフェーズであり、「本の大まかなテーマをどのように固めるか」に関わる一連のタスク群から構成されます。具体的には以下のようなタスクが定義されています。
0-1 アイデア出しブレスト:
著者の専門知識や興味をインプットとして、書籍テーマ候補を複数(3~5案、実装では10案以上も可)生み出すタスクです。
例:AIビジネス、DX戦略、AI導入成功・失敗例、リーダーシップスキルなど0-2 専門分野・実績整理:
著者の経歴や得意領域を洗い出し、著者が強みを発揮できるテーマ範囲を明確化するタスクです。履歴書や過去実績資料を分析し、「この著者はAI分野で豊富な経験がある」「特定の業界でコンサル成功事例が多い」など、強みをマップ化します。0-3 出版社要望ヒアリング:
出版社やエージェントのニーズを確認するタスク。例えば、「ビジネス層に向けて新しいテクノロジー分野の入門書が欲しい」「来年の秋に出版したい」など、マーケットや刊行スケジュール的な要求を整理します。0-4 類書簡易チェック:
Amazon等で同種の書籍を調べ、既存市場にどれほど類似コンセプトがあるかを確認し、市場の飽和度や競合状況をメモします。「同じ分野の本が既に多数ある」「意外と類書が少なく、新規性がある」など、差別化要因を検討する基礎資料となります。0-5 テーマ候補絞り込み:
ここまでで集まった複数の候補アイデア、著者の専門分野、出版社要望、類書の状況を総合的に判断し、有望なテーマを1~2に絞り込みます。
これら0-1~0-5タスクは、著者・編集者・アシスタントといったペルソナ(役割設定)によって補完されます。
著者(Author):自身の経験・知見からアイデアを供給し、執筆の核となる存在。
編集者(企画担当者):市場分析、コンセプト策定、USP確立、構成案検討、販促計画など企画全体をマネージ。著者が出したアイデアを整理・磨き上げ、読者ニーズと市場性を踏まえた明確なテーマに落とし込みます。
アシスタント:資料整理やリサーチを行い、編集者や著者が即活用できる情報を整える裏方役。
この"ステップ0:初期テーマ仮設定"では、著者がアイデアを出し(0-1)、アシスタントが類書調査(0-4)、編集者がニーズ整合性や市場性チェックを行い(0-3)、最終的にテーマを絞り込む(0-5)といった協働が想定されています。
これらのペルソナやタスクの流れを明確化した上で、DifyによるAIアプリ構築が行われます。
3.Difyを用いたアプリ開発:0-1”アイデア出しブレスト”から0-5”テーマ候補絞り込み”へ
前回の記事では、0-1「アイデア出しブレスト」単体のタスクをDify上で構築する方法を例示しました。具体的には、ユーザーが著者専門性・興味分野を入力すると、DifyがGPT-4へプロンプトを渡し、10案程度の書籍テーマアイデアを生成するシンプルなワークフローを紹介しました。
しかし、0ステップ全体を俯瞰すると、0-1は単なるスタート地点に過ぎず、後続の0-2 専門分野・実績整理~0-5テーマ候補絞り込みタスクでは、さらに情報収集や分析が求められます。
0-2 専門分野・実績整理~0-5対応AIアプリ例:
入力:0-1アイデア出しブレストで生成したテーマ案(BOOK_THEME)、著者履歴書(RESUMES)、参考URL(REFERENCE_URLS)
Document-extractorツールを用いてRESUMESファイルをテキスト化し、LLMに著者経歴要約(0-2 専門分野・実績整理)を指示。
専門領域マッピング(0-2 専門分野・実績整理)で著者の強みと関連ジャンルを可視化。
Jina_readerツールで参考URLのページを取得し、経歴補足情報をLLMに提供。
Tavily SearchツールでAmazonでの類書検索(0-4類書簡易チェック)を実行、日本・米国市場の類書状況をLLMで分析。
これらの結果を踏まえ、テーマ候補絞り込み・著者視点(0-5-1)とテーマ候補絞り込み・編集者視点(0-5-2)のLLMプロンプトを用意し、アイデアを再評価。
最終的に有望テーマを1~2個選び出し、選定理由や市場性、著者強みを要約して出力。
このように、0-1アイデア出しブレストから、0-5テーマ候補絞り込みへと段階的に処理を進めるためのワークフローをDifyで構築すれば、ユーザーは初期アイデア出しから専門領域確認、類書チェック、テーマ絞り込みまで、複数のステップをスムーズかつ自動的に実行可能です。
従来なら、担当者が手動でリサーチ、要約、比較検討していたプロセスが、Dify上のワークフローとしてツール呼び出し(document-extractorでレジュメ解析、tavily_searchで類書情報取得)、LLMによる即時分析・比較、テンプレートtransformでの出力整形を組み合わせることで、半自動化・省力化されます。
これによって著者・編集者が最終的なテーマ決定をする際には、すでにAIが必要な材料を整理し、比較可能な状態に整えています。人間のクリエイティビティや判断力は依然として不可欠ですが、その判断に至るまでの情報収集や検討プロセスが大幅にスピードアップ・品質向上する効果が見込めます。
4.実際のアウトプット
4.1.筆者の情報
レジュメとインターネット情報より筆者の情報を文章でまとめてくれます。
4.2. 類書簡易チェック
テーマに即して検索ワードを作成し、それを利用し、日米のアマゾンの情報を検索し、レポートを作成します
4.3.テーマ候補絞り込み
著者及び編集者の視点でテーマの絞り込みとコメントをアウトプットできます。著者と編集者にて、選んだテーマが異なっていて、多面的な評価ができているかと思います。
テーマ候補絞り案(筆者)
テーマ候補絞り案(編集者)
5.開発結果と考察
DifyとLLM(GPT-4等)の組み合わせにより、0-1~0-5タスクの一部または全体をサポートするアプリを構築することで、書籍企画初期段階の業務効率化と質的向上が実現可能であることが確認されました。具体的には以下の効果が期待できます。
効率化:
従来、人手で行っていたアイデア発案(0-1)、著者経歴分析(0-2)、類書検索・分析(0-4)などの情報収集・整理作業をAIで自動化あるいは半自動化でき、時間・労力を削減します。品質向上:
LLMによる多面的なアイデア創出や網羅的な市場分析によって、より多様で比較可能な候補テーマを取得可能。人間が見落としがちなトピックや読者層を提示し、より戦略的なテーマ設定につなげられます。透明性・再現性:
各タスクのインプット・アウトプットを明確に定義し、Difyのワークフローで可視化することで、プロセスを後から振り返った際にも「なぜこのテーマが選ばれたのか」を説明しやすくなります。
一方で、以下のような課題・改善点も浮かび上がりました。
プロンプトチューニング:
LLM出力はプロンプト設計に大きく依存します。テーマ数や詳細度、出力フォーマット等を微調整する必要があります。ユーザーインタラクション:
自動生成されたアイデア・分析結果を著者や編集者がどのように活用し、フィードバックループに組み込むか(たとえば良い案をピックアップし、再度分析させる等)を検討する余地があります。範囲拡大:
今回は0ステップ中心でしたが、1ステップ以降の市場・読者ニーズリサーチやUSP確立(2ステップ)、構成案作成(3ステップ)など、さらに広範なタスクへ拡張できます。
これらの考察を踏まえ、さらなる最適化や実務への定着を視野に入れた取り組みが期待されます。
6.今後の展望
本記事では、書籍企画初期フェーズ(0-1~0-5)をDifyアプリとして実現し、LLM活用による自動化・半自動化手法を概観しました。今後は以下の方向性を検討できます。
ステップ全体への拡張:
今回は0ステップにフォーカスしましたが、1ステップ以降(市場・読者ニーズ徹底リサーチ、コンセプト策定、目次構成、販促計画)へも同様のAI支援を展開し、書籍企画~制作~発売までのプロセス全体を一貫してサポートするエコシステム構築が可能となります。ユーザーUI・UX改善:
DifyのGUI上で、ユーザー(著者・編集者)がインプットを手軽に行い、途中出力を直感的に参照しながら判断できるインターフェースを整えます。たとえば、候補テーマごとに「お気に入り」ボタンを設け、再検討用プロンプトに反映させるなど、ユーザー主導の対話型プロセスを実装可能です。高度な分析・評価:
LLM出力に加え、定量的な評価指標を組み込むことで、テーマアイデアの潜在市場性や読者満足予測を算出する試みも考えられます。たとえばSNSトレンド分析結果を組み込み、LLM回答に定量的データを添えて意思決定を補強するなど、複合的なアプローチが可能です。セキュリティ・品質管理:
データ出力の妥当性確保やノイズ軽減、ファクトチェックなどを強化することで、LLMベースの分析精度や信頼性を向上します。また、外部ツールとの連携におけるエラー処理やログ管理を充実させ、実務運用に耐える基盤整備を行います。
7.まとめ
Difyワークフローで0-1アイデア出しブレストや0-5テーマ絞り込みまで統合することで、従来属人的だった書籍企画初期段階のプロセスが可視化・半自動化・効率化され、AIと人間が協働してより良いテーマ選定に導くアプローチが形になりつつあります。
この取り組みは、書籍出版領域に限らず、商品企画、サービス開発、人事研修プログラム設計など、あらゆるビジネス分野でのアイデア創出・選定プロセス改善に応用できる可能性を示唆しています。