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『不変前提』


前回は変動前提がパフォーマンス上の課題に対して行うべきことの選択に大きな影響を及ぼすことを考察した。

▶︎前提条件の影響
前提条件の違いは「やるべきことの優先順位」を完全に変えてしまう
▶︎変動前提
前提条件の中でも変化するものを指す
例)対戦相手、天候など



Vol.1




今回は、『不変前提』について考える。
不変前提は、その競技をやる上で”変わらない”前提条件である。
例えばサッカーならば、ボールを足で操る制約があること、など。



■変わらない前提条件

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不変前提は、天候や対戦相手によって変わってしまう変動前提よりもかなり大きな影響をパフォーマンスに与える。
変動前提が主に戦術や準備に強く関与するのに対して、不変前提は身体操作や身体づくりにかなり深く関与するからだ。


▶︎変動前提
主に戦術や準備、心構えに強く関与する
▶︎不変前提
主に身体操作や身体づくりの方向性に深く関与する


不変前提について掘り下げていく。
自分がやっているスポーツにおける前提条件の中で、変わらないものはいくつ挙げられるだろうか。



変動前提と比べて、不変前提はやや列挙が難しかったと思う。
しかし不変前提は変わらない前提であるため、その競技をやっている間は使い続けることができる。
ここではサッカーを例にとり、サッカーの不変前提を考える。



■サッカーの不変前提|高重心な人々が作った競技

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諸説あるが、サッカーはイギリス発祥とされている。
だからイギリス人が生み出した競技を、日本人がやっているという構図である。
もちろん対比の上での話だが、イギリス人は高重心系、日本人は低重心系。
それぞれ、心身ともに。

▶︎不変前提1
サッカーはイギリス発祥(諸説ありつつ)
イギリス人が生み出した競技を日本人がやっている構図
▶︎不変前提2
イギリス人は高重心系
日本人は低重心系



心身ともに高重心というのはどういうことか、どうやって見分けるのか。
それは「いつでも素早く動ける状態」を保っているかどうかである。
例えばわかりやすいのは椅子生活であること。
地べたに座っている状態と比較すると、どちらが素早く動けるかは明確である。
重心が低い位置にあるのと高い位置にあるのとでは、物理的に後者の方が移動には有利。
*欧米人ももちろん地べたに座ることもあるものの、基本的には地べたに腰を下ろすことは日常的ではない。



動きについては、高重心系は膝よりもまず股関節を優先的に動かす傾向がある。
股関節が優先的に使えている方が移動、特に高速移動には断然有利に働く。
それに比べて低重心系の身体操作では膝を曲げる動きの優先度が高い。
*もちろん、これらは高重心と低重心を比較した場合の傾向であり、股関節を使えている選手であれば股関節が優先的に曲がるし、欧米でも股関節がうまく使えない選手はたくさん出会ってきた。




そして腕も様々な役割を持って大活躍する。
日本人が腕を使う場合、まず下半身をどっしり安定させてから使おうとすること多し。裏を返すと下半身がどっしりしないと腕が十分に扱えない。

▶︎高重心系の特徴
いつでも素早く動き出せる状態を保つ
高速・広範囲・高頻度方向転換に有利な動き
腕が様々な役割を持って活用される
▶︎低重心系の特徴
どっしり安定を重視する(感覚的にも好む)
動かない動かされないのに有利な動き
瞬間的に間合いを詰めるなど短距離・短時間の動きは得意
腕を使うときはまず下半身をどっしりさせたがる



■サッカーの不変前提|元々は遊びである

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(儀式から発展した競技もあるが)サッカーを含む多くのスポーツは元々は遊びから発展している。
元々は遊びということは、「楽に、楽しく、うまくできる」、という条件が満たされなければなかなか浸透しない。
厳しく訓練しないとうまくできないものは遊びにはならない。
イギリスで相撲や柔道という”遊び”は決して生まれない。

▶︎不変前提3
高重心系の人々が作った遊び=スポーツは、必ず高重心系スポーツである。
例)サッカーは高重心系スポーツである



■相撲で低重心を教えているが、サッカーでは?

ここまでの3つの不変前提を踏まえて、もう一度。

サッカーを日本人がやるということは、
高重心スポーツを低重心民族がやるという構図である。



我々はこのことをかなり重要視しなければならない。
高重心系である欧米の人が、日本の相撲部屋に入門して力士になる場合。




まず重心を低くできることが強く要求される。
かなり強く要求される。




四股踏みやテッポウという稽古を使って、ひたすら「低重心系の動き」を鍛錬する。
どっしり安定をひたすら鍛え上げ、徹底して獲得させる。
相撲のテクニックは、それからやっと学べる。




相撲における不変前提は低重心であること。
だから、高重心である外国人が相撲をやる場合は、まず低重心を獲得させる。
それからテクニック。
なぜなら低重心が全てのテクニックが効果を発揮できるための前提だから。
低重心で動けることが、相撲という競技の前提だから。

低重心系のスポーツで使われるテクニックは、低重心でこそ有効に使える




これが高重心系の人々が、低重心系スポーツをやるという状況。




”とにかく体重が重ければ”勝てるわけでは、ない。
このことが高低重心の問題を顕著に表している。




我々はこのことをかなり重要視しなければならない。
サッカーの不変前提は高重心。
日本人は低重心。



重心システム(高重心系、低重心系)が異なる競技をやる場合は、まずなるべく早急にその競技に適合した重心システムを獲得するのがパフォーマンスアップへの近道。



いや、近道というより、必須。不可欠。



ここをすっ飛ばすと、「同じメニューなのに得る成果が全然違う」という現象が起こるだろう。
ここをすっ飛ばすと、「同じトレーニングなのに彼らだけがサッカーが上手くなる」という現象が起こるだろう。



なぜなら、彼らが作ったサッカー用の練習メニュー・トレーニングには「低重心の人々がやる」という前提が含まれないからであり、「低重心を高重心に変える」という作用を含まれないからだ。




外国人力士が相撲をやるときに「まず重心を低くせよ」と絶対に習うのに対して、
サッカーをやる日本人選手に「まず重心を高くせよ」と指導しないのはなぜ?



もちろんこれらのことはいちいちデータを取って検証した話ではない。
*ここでいうような高低の重心システムについては最新の測定環境でも測定できないとの回答を受けている。




しかし、学校の数学で習った証明問題のように、A=Cを直接的に証明する材料がなくとも、
A=B
B=C
が証明できれば

A=Cは成り立つことを我々は知っているはずだ。




文化的背景を踏まえた重心システムを、いくつもの要因から複合的、階層的に捉えたら、これは明確に言える。



***



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中野 崇 @nakanobodysync

YouTubeTraining Lounge|”上手くなる能力”を向上
Instagramhttps://www.instagram.com/tak.nakano/
1980年生まれ
フィジカルコーチ・スポーツトレーナー・理学療法士
JARTA 代表
株式会社JARTA international 代表取締役
イタリアAPFトレーナー協会講師
イタリアプロラグビーFiammeOroコーチ
ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ|2017-
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う
JARTA:
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