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サッカーのための減速能力の話

サッカーのゲームスピードの上昇に伴い、サッカーを構成する各要素も同様にスピードの上昇が生じている。
戦術がそのように進化している。
選手たちの能力の向上がそれを可能にしているとも言える。

W杯決勝戦のパス本数は1966年から2010年で1分あたり11本から15本に上昇

スポーツ科学者ギャレス・サンフォード

激しいプレッシングの重要性はどんどん高まっており、戦術が要求するスピードでプレーできない選手は戦術から外されていく。

このような傾向のみならず、そもそもサッカーの競技特性上重要度が高いのが『スピードに関わる能力』である。
今回はそのスピードに関して『サッカーの』という枠組みをつけて考えてみようと思う。



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特に急加速能力は重要度が高い

スピードに関わる能力とは、加速、最高速度、スプリント回数、走行距離などすぐに思いつくものも多いだろう。(そしてこれらはGPSなどで計測できるような数値化しやすいものでもある)
おそらくこれらの項目を無視できるサッカー指導者はいないだろう。
この中でも特に加速力は、狭いエリアで瞬時にボールを奪うことが要求される現代の傾向ではより重要度が高いと言える。

いかに短い距離で急加速できるかはサッカーパフォーマンスにおける要求度は非常に高い。

どのように発揮するかは今は別問題として、能力としてのこれらの重要性は間違いなく必要と言える。
しかし『サッカーの試合でスピードを活かす』ために、もし欠落してしまうと上記のスピード関連項目が台無しになると言っても過言ではない3つの能力が存在する。



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①急減速能力

”サッカーにおける”スプリント能力は必ず減速とセットと考えなければならない。
ボールへの関与度が高ければ高いほど減速との関係値は高くなる。

サッカーにおける全てのスプリントは急減速を前提としたものである必要がある。

すでに減速能力を重要視してトレーニングしているというケースも多いだろう。
ハイインテンシティゲームでの急減速能力の重要性はさらに向上しており、単に”停止線”で急に止まれるというだけではその減速能力はゲームでは有効化しない。
どういうことかと言うと、多くの減速のための動作学習トレーニングは止まるために止まっているからである。
視線は停止ポイントを凝視し、腰を落とすことで重心を下げ、足で踏ん張って地面との摩擦を上げて慣性に逆らう。このように動きの自由度を失ったまま”ピタッと”止まる。



サッカーにおける減速動作は、目的があるはずだ。
その目的は決して止まることではなく、多くの場合『減速中または減速直後』のプレーにある。ハイスピードから急減速してトラップ→シュートなどである。
サッカーという全体構造のいち要素としての減速動作は、決して他の要素と独立はしていない。



詳細は戦術動作アプローチでの『サッカーにおける加速・減速構造の講義』に譲るが、止まるときの状態を考慮されず止まることを目的としたトレーニングの積み重ねで得た動作パターンは、サッカーでは有効でないだけでなくむしろその学習が不利に作用することすら考えられる。



いずれにせよ言えることは、減速という動作は加速動作以上に身体にかかる負荷が大きく、この類の負荷は筋力を鍛えたり力任せでどうにかなるシロモノではない。
なので全身においてどれだけ減速要素を数多く生み出せるかが急減速能力の向上の鍵となる。
すなわちこれは筋力領域というよりも身体操作領域と言える。
減速動作とりわけ急減速動作は身体操作能力の影響が非常に大きい。
急減速できないプレイヤーは、スピードを上げにくい。”止まれない”からだ。



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②ハイスピードでのターン

ハイスピードのまま、または急減速を伴って方向を転換する動作。言わずもがな近年のサッカーでは急減速と同じレベルで重要度が高い。
地面を踏ん張って脚力で強引に曲がるパターンのターンでは、サッカーで要求されるターンにはならない。理由は”止まるための減速トレーニング”と同様だ。
踏ん張った時点で負荷は非常に大きくなり、動作的にも”何もできない時間”が生じる。
ハイスピードでのターンは構造としては①と似ている。減速要素はその下部構造として位置付けられる。
もちろん腕や肩甲骨、体幹操作において(その結果生じる重心コントロール含めて)両者には差異がある。
詳細は戦術動作アプローチの講義に譲る。



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③ハイスピードと多要素の同時発揮

ここは上記の2つとは少し抽象度が異なるため並列には扱えないが、サッカーではハイスピードでの動作と同時に様々な要素を実行しなければならない。
状況把握と予測、ボールコントロール、コンタクトなどがこれに該当する。
同時に様々なことを並行して実行する能力のことを『アブレスト能力』(アブレスト;並立)と呼んでトレーニングの対象として扱っている。
負荷としてはタスクの複雑さが該当し、その他にも環境や身体的制約などで引き出していく。
アブレスト能力はサッカーに関わらず多くの競技で必要とされる能力だが、サッカーではとりわけハイスピードとの並立の重要度が高い。

競技の複雑度が上がれば上がるほどアブレスト能力の要求度は高い。
水泳やバーベル挙げ、陸上競技などの構造にはさほど要求されない。

これらに限らずスプリントに関わる全ての要素は、『サッカーの』という前提がついた瞬間から全て、『相手よりも/邪魔されながらの』という冠が必要であり、これこそがサッカーのトレーニングたる最低条件である。

「サッカーの」という前提を無視した瞬間から、トレーニングで得たものが試合で発揮できるかどうかがその選手のセンス次第となってしまう。
チーム全体のことを考えると、かなりトレーニングパフォーマンスとしては低い。



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サッカー戦術動作アプローチ

チームとして実現すべき戦術を実行するための動作構造を『戦術動作』と名づけ、戦術動作の理解を通して戦術実行レベルの向上につなげるための学習プログラム。
トレーニングの方法はほぼ出てこない。
指導者は、選手を守るために、選手の努力を守るために、”専門家”以上にあなたの戦術における身体の動きの構造に詳しくなる決意をしなければならない。
これはサッカー指導者のための『フィジカルの取り扱いマップ』である。

次回はそのトレーニングがどれだけ有効か否かを見極められる『目』のお話





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全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 
YouTube :Training Lounge|”上手くなる能力”を向上
Instagram:https://www.instagram.com/tak.nakano/
Twitter:https://twitter.com/nakanobodysync

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1980年生
戦術動作コーチ/フィジカルコーチ/スポーツトレーナー/理学療法士
JARTA 代表
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う
イタリアAPFトレーナー協会講師
ブラインドサッカー日本代表 戦術動作コーチ|2022-
ブラインドサッカー日本代表 フィジカルコーチ|2017-2021
株式会社JARTA international 代表取締役

JARTA
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