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着物知識その1 「正絹という考え方」

ここでは、意外と誰にも聞けない!という初歩的な着物の話を書いていきます。

第一回目は「正絹という考え方」です。

昨今、メルカリやラクマなどのフリアアプリでも着物を買う方が増えてきています。

しかし、販売している方の中には、着物のプロもいれば素人もいる。

意味を勘違いしたまま購入したり、売ったりしてトラブルになるなどが目立ちます。

そんなトラブルの中でも多いものの一つに「絹じゃなかった!」「洗えるっていったのに洗ったら縮んだ!」などのいわゆる「生地の材質」によるトラブルがあります。

実は、中古品を購入する場合、着物の着合わせなどよりよっぽどこっちのほうが大切なのです。

そこで、今回は「正絹」について書いていきます。

まず、この「正絹」という言葉を9割以上の人が「絹」のことを指すと思っています。

しかし、これは間違いです。

「正絹」とは呼んで字のごとく

「正しく絹を使っている」です。

つまりどういうことかというと、この正絹とは都合の良い言葉で、

「その製品を作るにあたり、作り手側が必要とされる分の絹を使っている」

という表現なのです。

これはどういうことかと言うと、たとえば礼装用の袋帯にはだいたい金糸と銀糸を使っています。

たとえ帯の下地になる布が絹だとしても、金糸や銀糸で刺繍などをしていた場合、その製品は100%絹です!とは言えませんよね?

となると、呉服屋などは説明するときにいちいち「下地は絹で、刺繍は金糸、銀糸をつかっています」とか説明しなくちゃなりませんよね?

※今は素材の%表示は義務付けられてますが、当時はありませんでした。

となると、売る側もめんどくさいんですよ。

そこで都合の良い言葉が「こちらは正絹です」なんです。

聞こえはいいし、お客は勝手に「正絹なら絹100%かな」という勘違いはするし、説明する側は楽なんです。

ただし、これが悪質な呉服屋やメーカーだと絹を5%、残りをアセテートなどの商品の事も「正絹」と歌ったり、反物に正絹紬って書いて、絹が10%しか入ってないという商品を「正絹です」と売ってたんです。

これはお客が勝手に勘違いしたんだからいいでしょ?という理屈ですね。

※それで現在はしっかりと%表示するようになりました。まあ、これも海外で着物を縫製させた時代に増えた悪質行為なので、まあ仕方ないといえば仕方ないのかも。

ちなみに10%しか絹を使ってなくても、メーカーなどが「いやこの製品を作るために必要な分の絹は使ってますから」と言い張ってしまったらおしまいなんですよね。

ということで、「正絹」とは必ずしも100%絹ではないと覚えてください。

そして次は正絹の判断によるトラブルのポイントです。

着物を売る方の大半はどうやって材質を見分けてるのか?

1 繊維を燃やして確かめる。

2 手触りで確かめる

3 たとう紙に正絹と書いてある

4 商標に正絹と書いてある

上記の4つになります。

しかしこれ、実は確実なものはどれもありません。

まず1番

繊維を燃やす場合はだいたいしかわかりません。これが95%絹で5%ポリエステルならもし1本だけ糸を抜いてしまって燃やした糸がたまたまポリエステルなら、慣れてる方なら「あれ?手触りは絹なのにポリエステルの燃えるにおいがする」と不審に思い、なんどか試して「これは絹とポリの交織だな」と理解しますが、素人なら最初の段階で「あ、ポリか」となってしまいます。

次に2番

手触りだとこの道40年のベテランでも確実にはわかりません。でもこのレベルだと「おそらくアセテート40%ぐらいかなー」とかわかるみたいで、あとで%を調べてみるとアセテート30%ぐらいの交織だったりします。つまり、こんなベテランでもそのぐらいなので5年そこらではまず90%絹、10%アセテートぐらいだとわかりません。特に東レシルックの胴裏の最上級だと、絹かポリエステルか判断に苦しむ人が多いです。

3番

たとう紙に亡くなったおばあさんが正絹と書いていたから~とかありますが、この判断は基本「論外」です。というのも、売った相手が悪質だったら嘘言って買わせてる場合もあります。

そして4番

商標とか布に「正絹」と書いてある。これがなぜ危険かというと確立的には1,2,3より一番安全な判断と言えますが、実は着物には「偽物」が存在します。この偽物とは産地が違うのにその産地のものとそっくりに作ってあるなどがあります。そういった着物の場合は、実は商標なども嘘の場合があります。かなりベテランの方なら着物の手触りや模様を見て「あれ?この産地はこんな模様は作ってないはずだが?」とか「あれ?この着物、産地は〇〇と書いてあるが、手触りがいつもよりざらつくな・・」とかで判断可能ですが、これは直接、問屋とかを何十年もまわって見てきた人だからできる判断です。もし、偽物だった場合、正絹も98%絹で2%ポリエステルという場合も十分考えられます。

たかが2%なんてそんなことするほうがめんどくさくないか?とか考えてる方もおられるでしょう。

でも考えてみてください。

当時は反物を10万本とか生産してたんですよ?

そのうちの1万本でも100%絹と98%絹でのこり2%の絹を節約するとどれだけ儲かりますか?

だから、十分可能性はあるのです。

と以上、正絹の考え方を書いていきましたが、では、USED着物とかを買う場合にどうすればよいのか?というところを書いておきます。

一番は繊維を燃やして確かめてもらうことでしょう。

逆に繊維を燃やしても判断できない方が売ってるものを購入する場合はもし絹じゃなかったとしてもあきらめてください。

(言い方は悪いですが、今でも着物を新品で買うとけっこうかかります。また今流通しているUSED着物だって、当時の方がけっこうお金を出されて作っているものがほとんどです。安く買えるだけありがたいものです)

ただ、いちいちコメントやメールなどで「燃焼実験して確かめてください!」とお願いするのも失礼です。

となると、やはりレビューを見て購入する相手を確認するしかないと思います。

なお、1,2,3,4の項目ごとに正絹で間違いがないかを%で表すと

1 90%

2 30%(これは確かめた人の経験値によるので変動しますが、素人に毛が生えた程度の人でこのぐらいの確立です)。

3 20%(そもそもたとう紙に正絹だの大島紬だの書いている時点で基本的には自分では着物の事をよくわからない方が買ったと見ていいです。なので呉服屋や問屋、行商人の言う通りをたとう紙に書いていると思いますし、そもそも、その中身が長い管理の際に入れ替わったことも考えられます。

4 90%(まあ、だいたい商標があるものはしっかり絹100%が多いです。そもそも偽物の大半は高く売れる部類の着物ですので、ケチらなくても十分儲かりますから。正規であっても偽物であっても絹100%が多いです。しかし一時期、大量に生産していた時代のがあって、比較的安い着物でその時代のは多いです。たとえばメルカリで言うなら平均3000~6000円で取引されている程度の質の着物によく正絹と書いて交織が見られます。ただ、よほど悪質じゃなければ5%とか2%の混ぜ物なので、まず誰にも気づかれないでしょうし、着てても違和感はほとんどありません)

とまあこんな感じです。

長くなりましたが、「正絹の考え方」は以上にします。

■今回のまとめ

・正絹とは絹100%ではなく、その製品を作るに必要な部分に絹を使っている絹製品のこと。

・着物が絹100%であるかどうかは数十年着物を扱っているベテランでも判断が難しいものもある。

・手触りが麻っぽかったり、サラサラしすぎててもコーティングだったり絹糸の製法によってそういう手触りのものもあるので、素人判断できない。


という感じです。

特にUSED着物を扱うには、売る側にも購入する側にもそれ相応の知識が必要です。

今後もいろいろと書いていきたいと思います。




着物の基礎知識を裏の話も含めて記事にしています。初歩の初歩から裏話まで。飾り内容無しの本音で書いています。よろしくお願いします。