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決めたのは私だったんだ

7月の終わり、私の勤務する中学校も夏休みを迎えた。
先生たちは夏休みも部活指導や授業日に出来ない仕事で忙しいが、いつもよりはややゆとりがある。
職員室の雰囲気も心なしかやわらいで、ゆったりした空気が流れている。

私の仕事(司書)は生徒がいないとそこまでやることがない。蔵書整理をしたり、データの整理をしたりと、こちらも普段よりゆったりと仕事をしていた。

そんな夏休みのある日。
昼休みに、隣の席のM先生(同性で同世代)と話していた。
年が近いこともあって、M先生とは時々雑談をする仲だった。しかし、私は半日しか勤務しておらず、M先生も忙しくてなかなか職員室に戻ってこないため、ゆっくり話すのは初めてだった。

「あおい先生は、どうして先生を辞めようと思ったんですか?」
ふいに、M先生にきかれた。
(ちなみに、私が元教員であることは初日の自己紹介で話している。隠すことでもないと思ったからだ。)
「私だったら、この仕事辞めるのもったいないなぁって思って、躊躇しちゃうんですけど、よく決断されましたね。」
苦労して教員になったというM先生。
純粋に「すごい!」と思ってくれている彼女の言葉に、私は少し気恥ずかしくなった。

「実は、教員してるときに病気をして。このまま仕事をすると命に関わるからって、家族に辞めるよう説得されたんです。だから本当は私辞めたくなくって。」
私はM先生が思ってくださってるように決断力のある人間じゃないんです、そう思いながら話した。

「でも、退職届を書いて出されたのは先生ご自身でしょう?辞めるって決めたのは先生じゃないですか。」

M先生の言葉にハッとした。
周りからの説得や影響はあったけれど、最後に辞めると決めたのは、私なんだ。

もしあの時、仕事を辞めていなかったら。
私は自ら命を絶っていただろう。

もしあの時、仕事を辞めていなかったら。
夫と結婚できなかったかもしれない。
この地で司書をすることもなかったかもしれない。
M先生に出会うこともなかったかもしれない。
今、私の手にある生活は、喜びは、存在しなかったかもしれないのだ。

辞めざるを得なくて辞めた仕事。
どうしようもなくて辞めたはずなのに、私は知らず知らずのうちに自分の人生を選んでいたのだ。

M先生の迷いのない言葉が、私の過去を救ってくれた。

私はちゃんと自分で決めて生きている。
だからきっと大丈夫。
密かにM先生からエネルギーをもらった昼下がりだった。

#あの選択をしたから

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