銀行員から見たUXリサーチ
本記事は、Japan Digital Design Advent Calendar 2023 の22日目の記事になります。
はじめまして!Japan Digital Design(JDD)の安井です。
Advent Calenderも22日目、街も完全にクリスマスモードとなり、年の終わりを感じています。
本記事では、三菱UFJ 銀行からの出向者として、銀行業務と体験設計業務の両方の経験から、銀行業務の特徴と、UXリサーチが銀行業務にどのように役立つか、という点についてご紹介します。
自己紹介
私は三菱UFJ銀行から出向して、現在JDDのExperience Design Divisonで体験設計案件のプロジェクトマネージャーの仕事をしています。
三菱UFJ銀行では主に法人取引を担当しており、融資や国内外の決済、資金管理など、いわゆる銀行業務に幅広く関わってきました。
2023年5月にJDDに出向し、UXリサーチからUIデザインまで、体験設計のイロハを日々勉強しながら業務を行っています。
出向者の具体的な業務内容などは、以下の記事などが詳しいので、よかったら見てみてください。
銀行業務の特徴
まず最初に、銀行員の仕事の特徴についてお話ししたいと思います。
ざっくり言いたいことは、銀行業務の性質上、正確性への要求水準が高いために、ひとつの意思決定に関わる人数が増え、結果としてユーザーとの接点が少なくなってしまうケースがある、という内容です。誤解が無いようにあえて記載すると、これらの特徴は銀行が信頼・信用を守るために必要なものでもあり、このような宿命的な課題にどう取り組んでいくことができるかを考えたものです。
1. 正確性への要求水準が高い
普段の生活の中で銀行に関わる機会といえば、まずATMやインターネットバンキングなどの預金、決済取引が多いのではないでしょうか。
仮に給料日に給料が正しく入金されていない、間違った口座に送金されている、などの事態が発生すると生活への影響も大きく、大変なことになってしまいます。
そのようなトラブルを防ぐため、システムは重厚長大ですし、またオペレーションも基本的に銀行員が単独で行うことはできず、上司や先輩がダブルチェックするような仕組みが徹底されています。
正確性が要求されるのは、預金や決済だけにとどまりません。
融資にしても、同じく法人へのファイナンス手法である株式投資などに比べて、失敗が許されない傾向があると思います。
きわめて単純化した計算ですが、例えば金利が0.8%だとしたら、1年間で100件中1件でも返済されなかった場合、それだけで赤字になってしまいます。
そのため、融資の場合も「複数人での判断を経て、失敗のないよう慎重に業務を行う」という基本的なスタンスは変わらないように思います。
上記のような事情から、伝統的な銀行業務では正確性への要求が強く、なるべく失敗しないことに重点が置かれる傾向にあります。
2. 1つの意思決定に関わる人数が多い
銀行業界では、「平仄をとって」という言葉を聞く機会が多いです。
先ほどオペレーションを複数人で行うことは述べましたが、部署間の調整が多いことも銀行業務の特徴だと思います。
というのも、銀行、特にメガバンクのような金融グループの展開するサービスは幅広く、また融資や国内外の決済といったひとつひとつのサービスは相互に緊密に連携しています。
さらにコンプライアンスや規制対応、リスクマネジメントが求められるため、バックオフィスの部署も数多く存在します。
そのため、正確性を維持したまま手続やシステムに変更を加えたり、新しいことを初めようとするには、影響範囲をしっかりと特定し、範囲内の様々な部署と調整をする必要が出てきます。
結果として、一つの意思決定に関わる人数が増え、内部での調整に時間がかかることも多いです。
関係者が多くなると、それぞれの立場からさまざまな意見が出ることになるので、合意形成をいかに早くスムーズに行うかが、業務の変革におけるカギだと感じています。
3. ユーザーとの接点が少ない
これまで述べてきたように、日々の仕事の中に占めるオペレーションや内部調整の割合が大きいと、相対的にお客様と接する機会が少なくなります。
「営業」と名の付く部署の中でも、ユーザーと接する機会が限定的な銀行員もいます。
そのため、日々の業務の中で、自分の仕事がどのようにユーザーの役に立っているのかという視点を十分に検討する余裕が無く、結果として大事な決定の際に、「ユーザーがどう感じるか」という視点がぼやけてしまう場面もあるのかなと感じています。
UXリサーチについて
ここまで銀行での仕事についてお話してきましたが、今度は打って変わって、出向してから経験したUXリサーチについてお話しできればと思います。
1. UXリサーチの手法
UXリサーチとは、平たく言うとユーザーの体験(=UX)に関する調査のことです。目的や、集めるデータの種類に応じて、代表的なものだと以下のような手法があります。
個別の手法についての詳しい解説は、すでに様々な記事があるのでそちらに譲りますが、基本的にはいずれの手法も、「ユーザーがどういうものを求めているのか」を解き明かしていくための方法だと理解をしています。
2. ユーザビリティテストについて
上記の手法の中で、一例としてユーザビリティテストを簡単にご紹介したいと思います。
ユーザビリティテストは、ユーザーのニーズに関する仮説に対し、実際にユーザーの方にサービスを触って頂くことで検証していく手法です。
テストに参加したユーザーには、サービスを触る中での「ここはわかりづらいな」「これは嬉しいな」などの感想を、独り言のように発言してもらいます。
司会役はテストの導入をするとともに、ユーザーの行動や発話を見ながら、どこで迷ったか、何を感じたかなどを掘り下げてヒアリングしていきます。
記録係は、ユーザーがどんな表情をしていたかや、どこのボタンを押そうとしたかなどの行動を観察して、記録していきます。
上の図だと記録係は一人となっていますが、自分の経験だと、撮影しているユーザーの姿をTeamsなどでストリーミングしたりして、プロジェクトの関係者も含めて気になる点を挙げていくことも多かったです。
上記のようなユーザビリティテストを行うことで、サービスを利用する上で迷うポイントや、ユーザーが不満を感じる点などのインサイトを見つけることができます。
銀行員がUXリサーチを経験して感じたこと
次に、銀行員として自分がUXリサーチを行う中で感じたことをお話しします。
ひとことで言ってしまうと、UXリサーチを用いることで、銀行業務が宿命的に抱える「意思決定に関わる人数が多い」「ユーザーとの接点が少ない」といった弱点を克服できるのではないか、ということです。
1. 意思決定がスムーズになる
これまでUXリサーチを行ってきて感じたことは、UXリサーチの中で得られる「ユーザーがこういうものを求めている」というインサイトは、比較的どんな立場の人からも納得しやすい、という点です。
銀行業務でよくある複数部署間の調整といった場面では、どうしても関係者それぞれがポジショントークとなり、議論がすれ違ったり、あらぬ方向に行ってしまったりしがちです。
一見遠回りなようにも思えますが、クイックにUXリサーチを行い、そのインサイトを基礎として議論を進めることで、関係者が多くともスムーズな意思決定が可能になるのではないかと感じています。
2. ユーザーの視点を獲得できる
もう一つ感じたことは、UXリサーチの結果に触れたり、調査に同席したりすることで、自分の業務がどのようにユーザーの役に立っているのか、実感を得ることができるのではないか、という点です。
実際に、自分が経験したユーザビリティテストでは、同じ銀行員に調査を見てもらったり、ユーザー役として調査に参加してもらったことがありました。
その中で銀行員から「ハッとさせられる」「こういうことを考えないといけないな」などのコメントを聞くことも多かったです。
日頃内部での仕事に忙殺されていたとしても、UXリサーチに触れることで、ユーザー目線を取り戻すことができるのではないかと感じます。
おわりに
ここまでUXリサーチの有用性を述べてきましたが、実際のところまだまだ銀行員にとって、日常業務の1コマとしてUXリサーチを行うところからは遠いです。
自分のような出向者が懸け橋となることで、よりカジュアルにUXリサーチを実施できるようなカルチャーを築いていきたいと考えています。
銀行を取り巻く環境は日々大きく変わっていますが、やはり社会のインフラとして、銀行の担う役割は大きいと感じます。
UXリサーチをはじめとする体験設計を取り入れることで、よりユーザーにとって使いやすい銀行を実現できれば、大きな社会的インパクトを生み出せると信じています。
最後までご覧いただきありがとうございました。
Experience Design Division
Daiki Yasui
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