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SUITE FURNITUREはこうして生まれた。~それぞれの苦悩~

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Photo / Michinori Aoki (Light)


12/5より販売が開始された板金製の家具『SUITE FURNITURE』


このシリーズは社内発のプロジェクト『EETAL』から生まれた製品です。

この製品はいかにして生まれたのか、開発背景をプロジェクトメンバーに聞いてみました。


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左から機械加工の山田さん、溶接の増冨さん、塗装の松本さん、聞き手の木下です。


1.楽しみよりも不安が大きかった

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増冨:
なんか緊張するな…。

木下:
緊張しないでください(笑)。今日はよろしくお願いします!これまでの歩みを写真にまとめてみました。

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松本:
懐かしいな…。

増冨:
こんなことあったねぇ。

木下:
このプロジェクトのきっかけを私から簡単に話します。わたしは入社して初めてうちの工場を見た時、びっくりしました。

なぜかというと、誰しもが普段何気なく目にしている製品、社会の当たり前になっている製品が、この工場で生まれていたからです。

そのとき漠然と「この技術を生かして何か新たな付加価値を創り出せないかな」と思い、具体的にこのプロジェクトを立ち上げました。

当社のコアとなるミッションに、”ものづくりの技術をいかして、社会に新たな価値を提案する”というのがあるので、このプロジェクトはぴったりだと思いました。

そして最初のパートナーに清水久和さん(プロダクトデザイナー)を迎え入れて始めました。



松本:
今までにない発想だったから、率直に楽しそうだなと思いました。

増冨:
そうだねぇ。まずデザイナーさんと一緒に仕事するって今まで無かったことだから、楽しみと思いつつ、不安の方が大きかったかな

松本:
いや、楽しみしかないでしょ。

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増冨:
まぁね…。進んでいけば楽しさに変わっていくんやけど、最初は不安の方が大きかったですよ。

松本:
うちは技術を持っているけど、BtoBで、世間一般の人に評価されることないじゃないですか。

自社商品だとしっかり発信できるし、評価されるかもしれないからモチベーション上がりますよ。

山田:
いつもはお客さんから図面をもらって指示通りに、正確に作るけど、これはまずどうやってカタチにしようという所からやけんね。

楽しそうやった。不安は別になかったですけどね。

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木下:
早速、最初のキックオフミーティングで、スツールのデザインを見ましたね。

松本:
そもそもスツールって何?って思いました(笑)。椅子とどう違うの?みたいな。

山田:
でもあのデザインは見たことないものだし、斬新やなと思いました

木下:
具体的にどうやって作っていくか、という話しになったとき、意見が活発に飛び交いましたよね。この材質がいいとか、板の厚みは何ミリがいいとか。

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松本:

やっぱりずっとやってきてるから、感覚的にわかるよね

増冨:
そうね。座るものだから強くなきゃいけないけど、ある程度の軽さは必要。逆に軽すぎると弱くなるから…って、いろいろと考えましたよね。

さっき松本さんが言ったように、ちょうど良さそうな厚みとか材質は、感覚的にわかりますね。

山田:
あと加工のしやすさとかコストとかも。


2.とりあえず、やってみよう

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増冨:
でもね実際、カタチにしてみないとわからん部分があるけん。このプロジェクトで何度も言ってきたけど「とりあえず作ってみよう」と。

木下:
すぐに試作を作りましたね。初回の試作見た時、正直「あれ?もうできたかも…」って思いました(笑)。特に難しくなかったですか?

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山田:
割とすぐカタチになったね。手探りな感じで、何度かはやったけど。

木下:
座面の曲線部分もわりとすぐに?

山田:
そうね、3回目くらいでしっかりデザインに合わせられたと思ったけどね。



増冨:
設計の人がちゃんと曲げやすいようにジョイントをつけてくれたりとか、作り始める前の段階で、全員でしっかり話し合ってたけん、すんなりいけたんじゃないかな。

松本:
なんかチームでやってるって一体感ありましたね。

木下:
当たり前かもしれませんが、あの画面上でみたデザインが、ちゃんとリアルなカタチになるって改めて驚きました。

増冨:
曲げ加工からちょっとずつ立体的になっていくけど、図面にほぼほぼ近くなるのは溶接後なんで。そのカタチになる瞬間が見れるのは、溶接の醍醐味です。

松本:
よかとこ取りですよね。だってカタチにできるんですもんね。

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増冨:
よかとこ取りけど、叩かれどころでもあるけんね(笑)。

山田:
最初、カタチになったときは感動したね。溶接が終わった段階で、工場内の通る人みんなに、「座ってみて座ってみて」って声かけてた(笑)。

木下:
あぁやってましたね。みんな反応よかったですよね。

山田:
「おぉいいね、いけるいける」ってみんな言って。

木下:
スツールを初めて塗装したとき、何か難しかった点ありましたか?

松本:
いや、ないですね。(即答)

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一同:
かっこいい…(笑)

松本:
いや、気を付ける点は色々ありましたけど、そんなのは当たり前のことなので。別に難しくはなかったです。

木下:
初めて色がついた試作品を、メンバーみんなで囲って見た時は、嬉しかったです。

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松本:

嬉しい。誕生した!って感じ。

増冨:
色でものすごく印象が変わるから、色塗ってあるの見るとやっぱわくわくするよね。


3.わからないと、技術者としては最低よ

木下:
最初の試作ができた後、清水さんが来社しました。その時が全員での初顔合わせでしたね。初めて清水さんに会ってみてどうでしたか?

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山田:
清水さん、本当に細かいところまで見とるよね。ここのRがもう少しどうだとか、座面のラインがどうだとか…。さすがデザイナーさんだなと

増冨:
このときからよね、いくらできた!と思っても不安が拭いきれなくなるのは(笑)。常にこれでいいんだろうか?って。

木下:
松本さんは塗料について色々と清水さんに提案してましたよね。

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松本:
「模様塗料」をゴリ押ししたね。模様塗料だとキズとかほこりが目立たないし、品質が安定しやすいから。

あとは手触りもいいし、高級感が出るよね。インテリア系にはぴったりだと思った。最終的に清水さんも採用してくれたからよかった。

木下:
色々と清水さんにフィードバックをもらい、細かい修正はありましたが、板厚(板金の厚み)もここで再検討になりました。

増冨:
初回は板厚2.3㎜やったかな。誰が座ってもビクともせんやったけど、ちょっと重量が重いよね…みたいな。

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山田:
1.6㎜と2㎜でも試作したね。コンマ数ミリの違いけど、結構変わるもん。1.6㎜だと軽いけど、耐久性的にダメやった。

最終的には重量と耐久性を考えて2㎜に。

松本:
コンマ数ミリで、”見た目の印象”も変わるなと思った。

木下:
そんなパッと見で、コンマ数ミリの違いがわかるんですか?

松本:
わかるわかる。逆にわからないと、技術者としては最低よ

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4.美術館なんて、無縁だと思ってた

スクリーンショット 2021-11-24 10.20.21


木下:
本当に偶然でしたが、清水さんの展覧会が長崎県美術館で開催されることに。そこで急遽、スツールも未発表の新作として展示されることになりました。


山田:
本当タイミングよかったよねー。

松本:
話し聞いたときは、めちゃくちゃ嬉しかった。今までないから

増冨:
美術館なんて、我々とはまぁ無縁だと思ってたから。
急ぎで清水さんと展示する色とか決めたよね。

松本:
何色か候補があって、試作のとき全色塗ったけど、塗ってて楽しかった。今まで作ってきた製品(産業機器)では、考えられない色だったから。

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増冨:
こんな色の産業機器製品ないもんね。

木下:
増冨さんは展覧会始まってすぐ見に行かれたんですよね?

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増冨:
そう、すぐ奥さんと観に行った。地元の美術館に自分たちが作ったものが並べられているって、やっぱりすごい誇らしいというか。


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photo/ Ryoji Kudaka


木下:

奥様の反応は?

増冨:
チューチュースタンド*がいいって言ってました。

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チューチュー立て*:
1995年清水氏が”棒アイスをフォーマルに食べる”ために、とデザインした、遊び心溢れる作品。長崎県美術館に所蔵されている。

一同:
(笑)


5.”楕円”という未知への挑戦

木下:
美術館の展示を喜ぶ暇もなく、サイドテーブル製作に取りかかりましたね。デザイン案がいくつか出てきた中で、このデザインに決めた理由は?

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増冨:
デザイン的にもこれが一番良かったんだけど、なにより一番作るのが難しそうだったから。
誰でもつくれるものを作っても、しょうがないからね。

松本:
これできたらすごいよね!って言ってた。ただ山田さんは大変だろうな…と思ってたけど(笑)。だって支柱部分の楕円形なんて作ったことないし

山田:
いやでも、こういう加工方法でできるな、とすぐイメージできたよ。でもまぁ大変やったね(笑)

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木下:
この楕円形の支柱は、1番苦労しましたね。最初の試作は、かなりいびつな楕円形でしたよね…。

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山田:
綺麗な楕円ではなかったね。すぐにみんなに見てもらって、どう改善したらいいか意見をもらいました。

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増冨:
迷走が始まったときね(笑)。ロール曲げをいれたり、予備曲げを入れたり…。

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ローラーの圧で徐々に曲げていく


山田:
予備曲げを入れても、今工場にある金型だと、最後のところでいびつな形になってしまう。ロール曲げを入れるとまた別の問題が出てきたり…。

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曲げ機の金型
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増冨:

そう。ロール曲げ機の特性上、Rの角度がかかってきたところで、曲がり始めのところが折れるんよ。”カクン”と機械に入ってしまい、折れ線が出てしまう。

木下:
最初の試作を清水さんに見てもらった時も、この支柱について、たくさんフィードバックもらいましたね。

増冨:
こっから何度も支柱だけ作ったねー。色々と仮説立てて、検証しながら何本も作った。ほんと心折れそうやったあの時期

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支柱の試作。ミリ単位の違いで大きく変わってしまう。


松本:
曲げるピッチをミリ単位で変えたり、色々と試しましたよね。

山田:
正直、もう無理かな…って思ったこともあったし。

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6.今あるもの・設備で、創意工夫する

木下:
支柱製作に、2週間くらい費やしましたよね。

増冨:
やっぱりうちはプレス機で自動的に成形するわけじゃなくて、1つ1つ手作業で成形するけん、時間はかかるね。

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山田:

諦めかけたときに、松本さんの一言で道が開けた。自分は機械加工の作業者として、目の前のことに一杯で、気づけんかったけど、松本さんは客観的に見てる部分があって、私が気付かなかったところに気付いてくれて。

それで松本さんのアドバイスを参考に加工したら、本当にできた。ありがたかったね。

松本:
今まで何十パターンも検証してきたのを、初めから見てるから。この工程の担当じゃない分、冷静に見れていたのかも。

増冨:
本当チームみんなで作り上げた感じがあったね。行き詰ったときに、フォローしてくれる仲間がいるってことはすごい心強かった。

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松本:
工程関係なく、全員が当事者意識を持って、やってたから

増冨:
それがあってやっと打開できた。正直もうダメかなって思ってたから、できた時は本当嬉しかったよ~。

松本:
やっぱりすごいなぁと思った、正直。その後、溶接もしっかり仕上げてくれたし。

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綺麗な溶接面



増冨:
溶接面ってどうしても人の目につきやすいから、かなり慎重になるよ

木下:
でも塗装も大変じゃなかったですか?支柱の隙間が数ミリしか開いてないのに。

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支柱のわずかな隙間もしっかりと塗装



松本:
こんな隙間を塗ることが普段ないんでね。でも塗装ガンの先っぽだけ入れば塗れるとは思ってた。粉体塗装だから、支柱の中にもしっかり塗料が付着するってこともわかってたし。

増冨:
塗装に関しては、ほぼほぼ問題なかったもんね。クオリティー高いんだなと改めて思った。

木下:
お金をかけて最新鋭の設備を入れてれば、支柱の成形も早く解決したかもしれませんが、”今ある設備を使いこなしてつくる”ということも、今回技術力の一つだと感じました。

山田:
これ用に金型を買えばもっと早く出来てたかもしれんけど、そうじゃなくて今あるもので、工夫してどうにかカタチにしたい、っていう一心でした

松本:
今回プロジェクトのコンセプトも「今あるもの、設備で作る」っていうのがあったから。

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木下:
色んな困難を経て、ようやくスツール、サイドテーブル完成しました。

12月5日から東京の21_21 DESIGN SIGHTで行われる『REMOTE WORKS @21_21』01:清水久和(S&O DESIGN)で販売されます。

来場されるお客さんに”この商品のここを見てほしい”みたいなのありますか?(笑)

山田:
うーん、やっぱりテーブルの支柱かなぁ。

松本:
やっぱり板金(金属の板)で作ってる感が無いような、丸みを帯びたフォルム全体を見てほしい。

増冨:
ここっていうよりこの商品をたくさんの人に見てほしいですね

松本:
そういえばスツールの黄色は、ぜひ見てほしいかな。黄色って色付きが難しいんですよ、場合によっては青く見えたりもするから。

でも塗装を2コートにして、綺麗な黄色を出せたので見てほしい。

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木下:
最後に、このプロジェクトは“新たな板金の可能性”を追求するというのがコンセプトです。今回やってみて新たな可能性は感じましたか?

松本:
今回改めて思ったのは、可能性は無限大だなと。発想力があれば、カタチにすることはできるはずなんで。今回、本当に手ごたえありました。

増冨:
確かに手応えありましたね。あと個人的にチャレンジしてみたいのは、「異素材とのコラボ」はやってみたいかな。例えば木材との融合とか。

山田:
意外と色々できるなと思ったね。何度も言うけど、板金で楕円形が作れたのはすごいこと。

木下:
これからも楽しみですね。今日はお忙しいところ集まって頂きありがとうございました。

一同:
ありがとうございました。


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EETALプロジェクト最初の商品『SUITE FURNITURE』シリーズは、12月5日より21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にて開催されるREMOTE WORKS @ 21_21』01:清水久和(S&O DESIGN)で販売開始されます。その他、EETAL公式ECサイトでもお買い求めいただけます。是非一度ご覧になってください。


EETALプロジェクト、最初の共創パートナー清水久和さん(プロダクトデザイナー)との出会いはこちら↓↓↓


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