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夢を諦めるタイミング

悲しいタイトルを付けてしまったが、とても大切な事なので記事にしようと思う。

芸能界を目指す者、実際に芸能界に身を置く者は数え切れないほどいる。

しかし、お金を稼ぎ、それで生計を立てる事が出来るのは、ほんのひと握りの者だけである。

当然、一度ドラマに出ただけでは一生食っていくのは無理だ。

生活をするためのお金を稼ぎ続けなければならない。

大変、厳しい業界だ。

私の作品に出演してもらったり、プロデューサーとしてキャスティングをしたり、演技講師をしたりしていく中で、多くの役者たちがデビューをしたり、売れていってくれた

しかし、それ以上に多くの夢敗れた若者たちを見送ってきた

安定しない業界だ、保証なんてない。

この業界を去る若者を引き留める権利もない。

「辞めます」と言われたら「そうか、わかった」と言うしかないのだ。

「もったいない」「もっとがんばれよ」と言う人もいるかもしれないが、その人を含めて誰も人生の責任を取ってくれない。

それぞれに事情や理由がある。仕方がない。

この業界を辞める理由は様々だが、大きく分けて「お金」「才能」「年齢」だろう。

お金

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ハッキリ言うが、芸能界は売れないと悲惨だ。

アルバイトで生計を立てている者がほとんどだ。

私も10代、20代の初めはアルバイトで食い繋ぐ日々を送っていた。

アルバイトをして、汚くて狭い部屋に住み、貧乏飯を食いながら、劇団の稽古や養成所のレッスンを受ける事になる。

新品の服なんて、なかなか買えない。

美容院にも行けない。

安いメイク道具を使う。

友達と食事に行く事もできない。

お金が無いと、見た目も心も荒んでいく。

友人の結婚式にもご祝儀の3万円が払えないので、参加する事が出来ない。

年齢を重ねても給料が上がる業界じゃない。

売れれば10代でも大金を稼ぐ事が出来る。

売れなきゃ30代、40代でもアルバイト生活だ。

そんな日々に嫌気がさして思うのだ。

「もうこんな生活をしながら、芝居を続けるのは無理だ」と。

仕方がない事だ。お金を稼がなければ、それは仕事ではないのだから。

ちなみに本当にお金のない時期は、全く仕事がない時代ではない

月に2.3回程度の仕事がある時期が最もお金が無いのだ。

「明日、キャストが足りないから来てくれ。」

「いまプロデューサーがお前を呼んでいる。」

「明日、午前中にオーディション入ったから。」

突然の電話だが、そんなチャンスの話を断れるはずがない。

アルバイトを休むしかない。

アルバイト先に電話をして、店長に嫌味を言われる。(最初は快く休ませてくれるが、何度も続くと当然だが疎まれる)

芝居の仕事で、一日拘束されて3000円。

アルバイトに出られれば一日で8000円。

貧乏になる一方だ。

そして、私の経験上、この中途半端に話がくる時期が最も長いのだ。

辞めたくなるのも無理はない。貧乏は辛いのだ。


才能

 

才能というのは非常に見極めが難しい。

さらに言えば、才能があったとしても売れるとも限らないのが、この芸能界だ。

「才能アリ」「才能ナシ」の判断をする前に、才能を伸ばせる環境にいるのか。

才能を開花させるための正しい知識はあるのか。

下手な役者から芝居を教わっているようでは、いくら才能があろうが、努力をしようが、才能なんて開花するはずがない。

一流になりたいのなら、一流の人と付き合わなければいけない

そして、一流の人と付き合うようになったら分かるはずだ。

「いくら努力しても追いつけない人がいる」と。

そこで、やっと気付くのだ。

自分には才能がないのだ」と。

まだ、そんな出会いもない内に、正しい努力もせずに「才能が無いから辞める」というのは個人的には、いかがなものなのかと考えている。

偉そうに言ってしまったが、これは私の体験談である。

もう随分と昔の話だが、私が「俳優になりたい」と決意をした映画がある。

ある俳優(今では大ベテランの某有名俳優)が主演していた映画だ。

その映画を観た、当時高校生の私は雷に打たれたような衝撃が全身に走った。

それから、俳優として努力をしてきた。

なかなかブレイク出来ずに貧乏な暮らしをしていた24歳の私に大きなチャンスがやってきたのだ。

それは、「私が俳優になると決意した映画で主演をしていた某有名俳優の作品に出られる」という話だった。

胸が高鳴った。こんなチャンスが巡ってくるなんて、と。

本番まで、いつも以上に稽古に励んだ。

そして、某有名俳優と仕事をした。

目の前でお芝居を見る事が出来た。

なんと、私にアドバイスまでくれた。

しかし…結果は大惨敗。

自分の下手さ加減に涙が出た。

「今までの稽古はなんだったんだ。」

「人より上手いと思っていた自分が恥ずかしい。」

運良く、その仕事で某有名俳優と仲良くなる事が出来た私は、色んな現場に呼んでもらう事があった。

そこで、私は芝居のアドバイスをたくさんもらった。

しかし、アドバイスを受けても上手くならない。

素晴らしい環境にいるはずなのに。

そして私は思ったのだ。

「私には才能がない。」と。

某有名俳優を夢見て役者になりたいと思ったが、某有名俳優の天才的な芝居を見て、私は芝居から足を洗おうと決めた。

その時のアドバイスや教訓があったからこそ、いまの私がいるのは間違いないのだが。


 年齢


人生には年齢が大きな節目のひとつになっている。

25歳・30歳を境に夢を諦める人が続出する。

同年代の活躍や出世、成功や結婚を目の当たりにする度に自分の立ち位置に悩んでしまう。

私自身、25歳で役者としてブレイクする事が出来ずに非常に悩んだ結果、26歳で役者から裏方に転向した。

更に30歳、40歳と年齢を重ねる毎に夢を追う人の数は激減していく。

学生時代の友人が言う。

「まだそんな事やってるの?」

「テレビには出れた?」

「そろそろ安定した職に就きなよ」

「良いよなぁ、夢があって好き勝手出来るやつは」と。

そして当然、自分が年齢を重ねた分、両親も老いていく。

その姿を見る度に自問自答をする。

「このままで良いのだろうか」

「本当に成功する事が出来るのだろうか」

「親に晴れ姿を見せる事が出来るのだろうか」

「出世や成功をしている友人を見返す事が出来るのだろうか」

「同窓会に参加する事が出来るのだろうか」と。

成功出来ないまま歳を重ねると、辞めるのが怖くなっていく。

「いま辞めたら、今までの苦労は…」

「いま辞めて、就職をして、イチからのスタートか…」

年齢を理由に夢を諦めるのは悔しい事だ。

40歳、50歳でブレイクする人もいる。

夢を諦めるというのは、その全ての可能性を投げ打ってしまわなければいけない。

辞めるのにも勇気がいるのだ。

最後に

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人生は無限では無い。有限だ。

一度見た夢を叶える事が出来ずに、夢を諦めた後も人生は続く。

諦めた後の人生の方が長い。

そこで、新しい夢ができる事もある。

私も役者という夢を諦めて、大きな挫折を味わった。

しかし、現在は脚本を書いたり、監督をしたり、プロデュースをしたり、演技講師をしたりする仕事に非常に満足している。

私はたまたま同じ業界にいるだけだ。

必死に努力をした結果、その分野で報われなくても、その努力は必ずどこかで役に立つ。

夢を追っている者に言える事は、ただひとつ。

夢はいつまでも追えない。しかし、夢を追っている内は全速力で走り続けろ。


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