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アウトドアをアフターコロナの産業として盛り上げたいーLIFULLさんインタビュー(後編)

(前編に引き続き、新経済連盟会員企業である株式会社LIFULLの皆さんへのインタビューをお届けします。)

【前編はこちら】

イノベーションが生かせない日本の制度は変えていくべき

小池さん:LIFULLでは「インスタントハウス」というサービスも展開しています。これは、東日本大震災の時に得た発想から生まれました。寒い中、何か月も避難所で生活しているという状況を目の前にして、「何ですぐに家ができないんだろう?」という素朴な疑問から、名古屋工業大学が開発しました。

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作り方は簡単で、空気の膜に内側から断熱素材を吹き付けるもので、4時間くらいで完成させることができます。冬は暖かく、夏は涼しく過ごすことができる優れものです。避難所だけではなく、アウトドアシーンでもグランピングなどにおいて今後幅広く活用されることが見込まれます。

ところで、事業者がインスタントハウスをグランピングの宿泊施設として使おうとする場合には、旅館業法の許可が必要となります。さらに、旅館業に用いる前提として、建築基準法上の「建築物」として認められなければなりません。しかし、ここで高いハードルに直面することになります。

というのも、現行法上、「建築物」に該当するには、屋根、柱、壁があることなどの要件がありますが、これはそうした基準にはぴったり当てはまるものではありません。その場合でも、国土交通大臣の認定を得れば建築物としてみなしてもらうことが制度上は可能です。ところが、その審査には2年から5年くらいかかるとのことで、スタートアップにはそんな悠長なことをやっている時間はありません。既に日本では展開を諦め、海外で展開しようとしています。せっかくのイノベーションが日本で有効に活用されない状況はおかしいと思います。こうした現行法に、必ずしも当てはまるものばかりではない新しい取組に対する許可認定のハードルが高い現状は、変えるべきではないでしょうか。

アウトドアをアフターコロナの産業として盛り上げていくために

小池さん:インスタントハウスは、グランピングやキャンプといったアウトドアシーンで活用されています。これらのアウトドア産業はコロナ禍でニーズが高まっていて、キャンプ事業全体はコロナ前と比べて150%も売上がアップしています。ところが、こうしたアウトドア産業に関してはぴったり当てはまる業法がなく、法整備は必ずしも整っているとはいえません。これまで多くのキャンプ場では、「場所を貸しているだけ」という整理でサービスを提供してきました。ところが、今流行っているサウナなどをその場所で提供しようとすると、公衆浴場法にひっかかってきます。こういった法律はそもそも都市部を想定した規制です。キャンプサイトがあるような地方の山間部などの田舎にまで一律に当てはめる必要があるのか疑問です。今のところは、テントサウナは持ち運びができる備品扱いで、提供者側は体験を提供しているだけ、という建付けにしていることが多いです。しかし、グレーゾーンになってしまっていることには変わりはありません。このようなグレーな状況だと、特に大手は参入しにくく、産業全体としての盛り上がりに欠けてしまいます。業として法的にきちんと位置付ければ、資本がのっかってきます。新たな産業を生むためには法的にクリアな状態にする必要があると思います。

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小池さん:今、テントハウスは個人としてやるなら良い、業としてやるには旅館業上の許可が必要という整理になっています。しかし、実際には線引きが難しいですよね。こうしたグレーな状況を解決するためには、公衆浴場法や旅館業法、建築基準法といった様々な「業法」に、地域活性化を目的とした場合の但し書き、特記事項を作っていく形で規制緩和をして欲しいと思います。今は、自治体に問い合わせても、法律にしばられて動きがとれない状況ですが、法律で明確に緩和措置を行うことで、各自治体の現場も動きやすくなります。

インスタントハウスで言えば、宇都宮で半年かかって運用が認められましたが、その時も「非建築物」として整理しました。先ほど言ったように大臣認定には最大5年かかることもあり、「建築物」として認められたことはありません。インスタントハウスは15年の耐久性がある素材を使っていますが、使用中に紫外線を受けることを想定すると3年から5年持てばよいという想定で作っています。建築費は160万円程度と安価なので、避難所やアウトドアなど、様々な活用のシーンが想定できます。既存の法律における「建築物」とは異なる新しい建物として、その活用の範囲や可能性を広げるためにも、きちんとした法的な裏付けがあるといいと思います。

中嶋さん:今の区切りにはまらない事業というのが現実論としてあるんですよね。キャンプやグランピングの施設については新しく産業のカテゴリーを作るのがいいんじゃないかと思います。過去には、按摩やマッサージについて業界団体が出来て新しい産業区分として定着していったこともあります。

小池さん:キャンプについては禁止条例がある自治体もあるんですよね…。寝具を提供することが旅館業になるのですが、これまでキャンプは持ち込みなので対象外という仕切りになっていました。それが、グランピングだとベッドが据え置きなので寝具を提供していることになります。もういっそ、グランピング条例とか作って正面から認めてみたらいいんじゃないかなと思いますね。

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3.新しい観光におけるLIFULLさんの強みは?

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渡辺さん:やはり、Homesの事業を通じて、住み替えについての確実なデータを持っているところですね。データがあるから、人々の移り住みもキャッチすることができます。今は地方に分散していく傾向があるのですが、そういった人々の動きにあわせた新しいマーケットをいち早く提供できるところが強みかと思います。

私たちはビジネスを通じて社会課題を解決しています。ローカルや分散については課題が多いのですが、そこに30年以上取り組んできているというのは大きな強みだと思っています。現場目線のプレーヤーとして、社会課題を発見し、最新のテクノロジーを駆使して解決のためのソリューションを提供していく。全国660の自治体とそれができるのは大きいですね。

空き家バンクについては自治体のニーズの高まりに比して空き家が足りないのですが、それはプレーヤーが少ないことが要因だと思います。地方の不動産は値がつかなくて、取引価格にして100円くらいになることもあるため、空き家を扱う不動産が出てきません。自治体職員とかNPOとかが仲介することになるのですが、プレーヤーの数はまだまだ足りていないのが現状です。そこで、LIFULLでは、空き家バンクを運営するプレーヤーの育成など、地方創生のための様々な講座を提供し、人材育成にも取り組んでいるんですよ。

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インタビュー後記

LIFULLさんは代表取締役の井上高志さんが新経済連盟の理事として積極的に関わっていて、「社会課題をビジネスとして解決していく」ことへの情熱を日々事務局としても感じています。今回のインタビューでは、一人一人の社員の皆さんも本当に熱い思いをもって日々の業務に取り組まれていることがひしひしと伝わってきました!

政府もずいぶん前から地方創生には取り組んでいるはずですが、あまり進展していないような印象があります。コロナ禍で人々が移住に目を向け、「地方分散型社会」への大きなうねりが生まれている今、LIFULLさんのような熱意ある企業の後押しができるような法制度に変えていきたいですね。新経済連盟も政府への働きかけを通じて貢献していきたいと思います!

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