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30年日本史00027【旧石器】記者会見のさなかの発見

 平成12(2000)年10月27日13時から、予定通り東北旧石器文化研究所・鎌田理事長の記者会見が始まりました。報道陣は50名程度。遺跡の真ん中で鎌田理事長は、
「本来、藤村が説明をすべきなんですが、彼はまだ掘りたいと言っております」
と声を張り上げながら、今回の発掘調査の意義について説明を始めました。その横で、藤村は黙々と竹べらで土を掘り続けていました。
 10分後、「おお!」という歓声があがりました。藤村が石器を掘り出したのです。記者たちの目の前での発見でした。説明の途中だった鎌田理事長は「ええっ、出たの?」と駆け寄りました。見ると、5個の石器が埋納されていました。その日の早朝に埋めたばかりの石器です。
 報道陣の驚きをよそに、藤村はさらにそこから数メートル離れた場所を掘り始めました。「また出るんじゃないか」と期待した報道陣はカメラを構えます。数分後、また8個の石器がきれいに並べられた状態で現れました。まさに神業です。
 鎌田理事長は、
「上高森遺跡は、60万年前、何らかの祭祀的な営みが行われた場所だったと考えられる」
と発表しました。
 さて、毎日新聞取材班は、11月4日19時に藤村の単独インタビューを行うことになりました。場所は仙台市内のホテルです。直接取材するのは山田キャップと山本記者。向かいの部屋に真田報道部長と高橋記者が待機しています。
 山田キャップは、取材の目的について
「藤村さんの業績を聞きたい」
とだけしか話してありませんでした。山田キャップが、藤村が以前発表した「遺跡発見学の提唱」という文章について質問したところ、藤村は遺跡発見のコツについて上機嫌で説明し始めました。山田キャップは、なかなか本題を切り出せずにいましたが、19時45分頃、
「藤村さんに見ていただきたい映像があります」
と用意していた言葉をぶつけました。藤村は
「えっ、何ですか」
と尋ねましたが、山本記者は黙々とビデオカメラをテレビに接続しました。
 テレビには、上高森遺跡で藤村が石器を埋める90秒の映像が映し出されました。藤村は両手を拝むように顔の前で重ね、映像を見終わると、深いため息をついて天井を見上げました。
「何をしていたのか、説明していただけますか」
と尋ねる山田キャップに対し、藤村はずっと押し黙ったままでした。
 10分後、ようやく言うべき言葉が見つかったのか、藤村は語り始めました。

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