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ファンが無意識にマトリックス・レザレクションズを嫌ってしまう最大の理由

多くの人が「なぜ 気づかない」状態になっている本作の「弱点」について語ります。

▼正直度100%で語ります:

2021年夏に突如告知され、12月に公開された『レザレクションズ』は、直前までの盛り上がりとは裏腹に賛否両論、というか微妙に否定派の意見が多そうな作品です。

観客それぞれが自分の価値基準を持っています。そして、どんな映画にも良い点と悪い点はあるもので、本作も例外ではありません。よって不満点が出るのは理解できることです。

低評価の声を見ていくと「つまらなかった理由」として、アクションが物足りないとか、ストーリーが分かりにくいとか、映像に目新しさがないとか、過去トリロジーの自虐パロディだとか、同人誌っぽいとか、メタ描写ってシンエヴァですかとか、皆さんソレっぽい感想を述べられていますが、、、

私に言わせれば、全部ヌルイです!

もっと重要なポイントがあるじゃないですか。

Absolute honesty isn't always the most diplomatic, nor the safest form of communication with emotional beings.
完全な正直は、常に友好的な関係を築くための最適な手段になるとは限らず、また感情を持った存在にとっては危険なコミュニケーション手段ともなり得る。

"Interstellar" (2014)

映画『インターステラー』の中でロボットであるTARSが解説してくれたように、何でもかんでも正直度100%で話せば良いというものではありません。それは人間が何千年もの社会的活動をしていく中で培ってきた知恵です。しかし今回は敢えてその「正直な一歩」に踏み込みます。

好きな作品や人物をディスられるとそれだけで怒りを覚えてしまうような方は今すぐブラウザバック推奨です。以下、読み進める場合はその点ご留意の程よろしくお願いします。

▼真実を知る覚悟はできてるか?:

"Time to fly"
(飛び立つ時だ)

まだアナタも気づいていない(かもしれない)

"[♪♪♪] One pill makes you larger [♪♪♪]"
(1錠で大らかな気分になれるわ)

レザレクションズが「期待外れ」だった最大の理由。

"So, what do you think of him?"
(で、彼のこと、どう思う?)

それは、、、

"Bullet time"
(バレット・タイムだ)

ずばり、
ネオとトリニティが、めちゃ年をとって劣化していたからです。

がーん。ショックでした?👴 👵 💦

あ、ちなみに。

マトリックスの中ではなくて、現実世界の丸刈り頭の方ですよ。
マトリックスの中での2人はメイクもバッチリ決まってて、美しいです。

これは禁句かもしれないですが、、、

本作に「期待外れ」だと感じられた方の多くは、シンプルに「老いたネオ」を見せられてショックを受けたからじゃないでしょうか。そのくらいにメインキャスト2人の高齢化ルックスは他の問題をどうでもいいものにさせるほどの破壊力がありました。

観客は自身を主人公(本作の場合はネオかトリニティ)に感情移入して映画を観るので、主人公が老いて弱まっていることは、観客自身もそうなることを示されたと感じるものです。それが恐怖となり、ストレスになります。

そんなの見たくねーよ、という生物としての健全な拒否反応です。

"I believe this episode demonstrates healthy self-protection"
「生物として健全な拒否反応だよ」

▼本作の問題を正面から直視してみる:

ジョン・ウィックの人気を見ても分かるように、何歳になっても衰えないキアヌ・リーヴスの姿に多くの映画ファンは憧れを持っています。それは『レザレクションズ』の予告編でもポスターでも常に保ってきました。

しかし『レザレクションズ』の映画本編でのキアヌは年相応に衰えて、だらしない体型で、意中の女性に声をかけることすらできず、孤独にヌードルをすすり、VRボクシングでずっこけて、クスリに頼らなければ精神も安定せず、長髪の時は白髪がチラつくし、坊主になってヒゲを剃れば痩せこけた初老の男であることがよく分かってしまいました。

役柄上、映画の前半部分は目つきに覇気がなく、目尻のシワだけがクローズアップで強調される連続でした。20年前の若くて美しいキアヌが脳裏に焼き付いてる人達にとって、これはショックな映像だったでしょう。

映画ではフラッシュバックを多用するので嫌でも思い出します。

20年前に若者達がネブカドネザル号でクソ不味そうなお粥を食べている画はジョークになりましたが、本作のヨボヨボな悲壮感でまくりキアヌが食べていたらガチの老人介護施設みたいで笑えません。なので本作ではわざわざ箱庭の家庭菜園とイチゴを用意してショックを緩和させていたくらいでした。

20年前に若者達がザイオンの広場で野生的なリズムで踊り狂っていた様子はダイナミックかつエロティックでしたが、本作のジジババ達がそんなことしたらすぐに腰を痛めてしまいそうです。ザイオン(Zion)のZとNを取ってアイオ(Io)という名前らしいですが、亜鉛(Zn)の摂取不足で元気がなくなったんじゃないですか?笑。

あの凄腕船長ナイオビの姐御が老後は静かにイチゴ作って暮らしてるんですぜ。

最後にトリティが覚醒して空を飛べるようになって、初めて現実世界に帰還して2人が見つめ合った時のキャリー=アン・モスの姿もまた(依然として綺麗ではありますが敢えて失礼な物言いをします→)確実にババアの領域に突入したことを実感させる容姿でした。やろうと思えばナチュラルメイクでもっと美しくすることはできたはずなのに、すっぴんで年相応にシミがある素顔を惜しげもなく見せていました。(もしかしたら見窄らしく見せるために敢えて老いた感じに特殊メイクしていた可能性もありますが)

そして現実世界でネオとトリニティが初めて手を取り合った時の2人の手は、非常に老けていましたね。ガリガリのシワシワで。顔と違って、手はメイクや美容整形が難しいので年齢を隠すことがほぼ不可能なパーツです。それが超クローズアップになることで、2人の手に刻まれた年齢をまざまざと見せつけられるのでした。

予告編になかったので自分でイメージ図を描きました。
実際のトリニティの腕はもう少し太かったです。笑。

お爺さんとお婆さんが優しく手を取り合っている画を見せられても、若い世代からしたら正直「なんだかな〜」となるでしょう。こちとら世界に衝撃を与えたあのSFアクション映画を観にきてるんだぞ。しかも第1作の時は同じく船の中で花火をバックにキスしていた2人なんだぜ。すごいクールでかっこいいじゃん。それが、薄汚い船の中でジジイとババアが手を繋ぐだけたあ、ずいぶん地味な画に落ちぶれたもんだな、マトリックスさんよォ!といった拒否反応が(無意識に)起きた人は少なくないと思います。(それなりに長い人生を送ってこられた方には老いてもなお愛し合う2人の姿に、違ったサムシングが見えていたと思いますが)

第1作のシーンが脳裏をよぎると尚更に時の流れを感じます。
"Nothing comforts anxiety like a little nostalgia"
「ノスタルジーほど不安をなだめてくれるものは無い」
なお仮想世界で手をつなぐシーンでは逆光マジックを使って老いを隠していました。

▼賛否両論?なぜ「気づかない」のか:

否定的な意見を表明するのは怖いものです。既にネットリンチが始まっている時は怖くないですが、まだ評価が固まってないが「好きな人が多い」ことだけは分かっているコンテンツに対しては、下手な発言で顰蹙を買ったり絡まれたりしたら面倒なので心理的ブレーキがかかります。それに誰だって「嫌な奴」だと思われたくありませんし。

言うまでもなく『マトリックス』はレジェンド級の超ビッグネームです。まだ観てない人の楽しみを奪うのも良くないですから、SNSではみんな言葉を選んで控えめに書くか、全く書かないかのどちらかになるでしょう。第1作が大好きだったなら心情的にも低い点数をつけたくないでしょう。作品が難解だったから自分だけが理解してない可能性もあります。つまり、表面に現れている以上に本作に不満を持った方は多いと思われます。

ただ、キアヌ・リーヴスはナイスガイだし、みんな大好きだからそこに言及するのは危険です。キアヌ老けたよなあ、そんなこと怖くて言えません。

しかし映画に満足できなかった気持ちはなんとか解消したいので、それで映画の他のダメなところを探してそちらに責任転嫁しているのではないでしょうか。

▼なぜ監督はこんな表現をしたのか?:

ネオの哀れな姿をここまで晒すのは、監督や広報担当が仕組んだ一種のサプライズだと言えるでしょう。予告編とかプロモーション動画などに出てくるキアヌはどれも長髪・ヒゲ・ロングコートで老いを隠しています。

ためしに「matrix resurrections」など英語で検索をかけてみてほしいのですが、現実世界のくたびれた顔のネオの画像はほとんど出てきません。長髪のかっこいいキアヌばかりです。ワーナーは意図的に隠しているし、メディアもワーナーからの要請に従っているからでしょう。

つまり映画館で初めて観て、ショックを受けてほしかったのです。

過去のマトリックス・トリロジーとは何だったのか、と問われれば、さまざまな回答があると思いますが、私は「ものの新しい見方」を提示する映像作品だったと言いたいです。こう表現すれば「俳優の美しさ」を除くほぼ全ての回答(ビジュアル、ケレン味、世界観など)を含むことができます。

そして、たまたま1999年はその要素が「CGIとスローモーションを駆使した圧倒的なビジュアル」と「仮想現実」で、私たちはそれらにショックを受けたのでした。しかし、2021年では両者は当たり前のものになっています。

では、2021年のレザレクションズではどんな新しいものを見せたのかと言うと、それは「高齢化社会」と「人生で何を始めるにも遅すぎることはない」というテーマでした。

1999年の第1作『マトリックス』が、インターネットが当たり前になり始めて「仮想現実」への希望と恐怖が人類の意識に現れ始めた時世に、まさにその恐怖を具象的な映像で表現して世界中の人類にショックを与えたように、2021年の『レザレクションズ』では先進国が向き合いつつある「高齢化社会」の問題を、実際の俳優の老化というこれ以上ないくらいに具象的な映像表現を駆使して突きつけてきたのです。そして実際に少なくない批評家と映画ファンがショックを受けました。

なんということでしょうか、マトリックスは22年経ってもマトリックスでした!これは称賛すべき偉業だと思います。

▼監督が伝えたかったメッセージとは?:

(ドレスがカプセルになってる!)

本作はウォシャウスキー監督自身が男性から女性にトランスフォームした後の作品なのもあってか、救世主がネオからトリニティにバトンタッチされるという結末になっていました。

さらに、劇中にはバッグスとレクシーが同性愛者であることがさり気なく示されていました。(『インデペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督がゲイであることを表明した後に制作した続編『リサージェンス』では登場人物のゲイ描写を入れたのと少し似ていますね)

ボット集団に囲まれる車から救出されたレクシーがバッグスとただならぬ表情でハグするのと、最後にネオとトリニティが現実世界で初めて手を取り合うときにも画面中央でイチャついてる2人が映っていました(ピンボケなので非常にさり気なくでした)。このシーンの画像はさすがに予告編の中には出てこなかったので自分で描いてみました。↓

イラストでは強調していますが、このような位置でハグしていたのは間違いありません。
ある意味で、本作の監督のメッセージを最も象徴的に描いたシーンでした。

老人と同性愛者の共通点は、どちらも社会的弱者であるということです。そしてこの二つの属性をラナ・ウォシャウスキー監督は持っています。監督は若くもないですし、マッチョイズムで構成された「普通のオトコ」でもありません。

そういう意味では、本作は監督が世間や常識に押し潰されそうになっている人達に対して、「君達(私達)はもっと自由にやれるよ、だから夢の実現に向けて進もう」という応援と慈愛のメッセージが込められていたと私は解釈しています。(一部で「本作はマトリックス過去作の幻想を否定する作品」などと言われている方もいましたが、完全に逆の立場かもしれませんね。マトリックスの夢と冒険の物語は今も続いていますから。)

ここまで監督自身のパーソナリティや作家性が反映された映画を、大作SFアクション映画でやってのけてしまった監督に敬意を表します。最近のスーパーヒーロー映画と比べればVFXの迫力が劣るのは間違いないですが、文学的な映画としては非常に優れた1作だと思います。

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あとコチラでは、本作のあらすじをシンプルに書き出しました。
この難しい物語を簡単に書きほぐして(?)いますので、宜しければ。
あの感動をもう一度味わいたい人も是非どうぞ。

あと、本文でも少し触れたのですが、
マトリックス過去トリロジーへの私の意見はコチラになります。
それぞれの公開時に意味のある作品になっていて面白いシリーズですね。

もう一度書きますが、最後まで読んでくれた人は、
この記事に高評価を押していくのを忘れないでくださいね。
最後まで読んでくれたなら絶対スキやろ。笑。

了。

この記事で引用している本編の画像は全て公式予告編のものです。

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