スナイダーカットのジョーカーとバットマンの会話が最高にクールで狂気だったので解説する
ワーナーブラザースの反対を押し切ってまでスナイダーが追加撮影したジョーカーとバットマンの会話を、詳細な日本語訳と解説をつけて説明します。
◆◆◆ ネタバレ注意 ◆◆◆
スナイダーが描くジョーカーとバッツが本気で狂ってた!
スナイダーカットは2017年5月までに完成済みでしたがこの時は214分でVFXと音楽のみが未完成の状態でした。ところが後になってリリースが決定したので数千万ドルの資金を投入してVFXと音楽の追加作業が入り、さらに当初ワーナーブラザースからの条件は「追加撮影なし」だったのですが、スナイダーは2020年10月に追加撮影を敢行して上映時間は242分に増えました。そこで加えられた新しいシーンが、ジョーカーとバットマンの会話です。まずこの時点で、スナイダー自身の行動が狂気じみています。笑
そして出来上がった作品は『DC映画史上最高のジョーカーVSバッツ』なんじゃないか、と3月の公開直後に海外では色めき立っていました。なぜならジョーカーの台詞も相当狂ってるんですが、それに反撃するバットマンの言ってることがマジでキ●ガイに狂ってるんです!笑
スナイダーカットは全編を通して比較的単純な台詞回しが多い映画ですが、このシーンは例外的に詩的で、かつアメコミ要素の含みが多いので理解が大変です。このパートだけ『バットマンVSスーパーマン』みたいなことになっている、という表現で伝わるでしょうか。笑
通常の日本語字幕では字数制限や作業時間の都合などで意味が伝わりにくいことが起きてしまうかもしれないので、コスト度外視+字数制限なし+必要にあわせて解説文追記の3本立てで、ジョーカーとバッツの会話を翻訳しました。
この記事が、DC映画至上屈指の名場面を堪能する助けになれば幸いです。
なお、ジョーカーもバットマンも相手の思考や回答を先回りして悪意のある言い方ばかりするので、意訳が強めになるのでご理解ください。
全台詞の日本語訳
> Victor: ビクター:
Well, we need to hurry. よし、急ごう。
We can't be out in the open much longer. ここは空から丸見えだ。
He'll come for us. 彼に見つかる。
> Mera: メラ:
Let him come. 見つかればいいわ。
Let the bastard come. あのクソ野郎をおびき寄せるのよ。
I'll stab this through his heart for what he did to Arthur. そしたら私がこの槍で心臓を串刺しにしてやる。彼がアーサーにやったようにね。
I want to make him pay. 借りは返すわ。
> Batman: バットマン:
I understand how you feel, Mera. 気持ちはわかるが、メラ。
> Mera: メラ:
You have no idea how I feel. あなたに私の何がわかると言うの!
> Batman: バットマン:
But we have to stick to the plan to have any chance to make this right. だが計画通りに進めなければ、この目的を正しく成功できるチャンスはない。
> Mera: メラ:
Who have you ever loved? あなた、これまでに誰かを愛したことはあるの?
> Joker: ジョーカー:
Ha-ha-ha-ha. はーはっはっはっはっは。
Au contraire, my little fish stick. いやいやいや、君の予想に反してね、小魚ちゃん。
He knows exactly what it's like to lose someone he loves. コイツだって愛した人を失うことがどんなものかくらいは、よく分かっているよ。
You know like, uh, a father, like a mother... たとえば、ほら、ええと、父親とか、母親とか。
> Batman: バットマン:
Be very careful with the next thing you say. おい、言葉には気をつけろ。
> Joker: ジョーカー:
Like an adopted son. それから、あれだ、養子に取った息子とか。
Isn't that right, Batman? そうだろう、バットマン?
Maybe, in a way, that smelly old flounder is right. ただね、そこの腐ったヒラメちゃんの言ってることにも一理ある。
Because how many can die in your arms なぜなら、お前はその手で何人も殺してきただろう。
before you grow numb to death? そのくせ、お前は別に人様の死ってもんに麻痺しちまったわけでもないんだ。(なのに平気で人殺しが続けられるのは、愛を知らないからだ、と言われても仕方ないよな)
> Batman: バットマン:
That's not very careful. およそ言葉に気をつけているとは言えないな。
> Joker: ジョーカー:
And how many dead eyes can you look into これまで、お前は数え切れないほどの死人の目を覗き込んできた。
before you die inside yourself? それでいて、お前の心は死んでない。
(※直訳では人数を聞いているが、どうせ数え切れないだろうという意地悪な質問をなので意訳した)
> Batman: バットマン:
I've been dead inside a long time, 俺の心なんてものはとうの昔に死んでいる。(なので人を殺すことに何も感じないのは当たり前だ、残念だったな)
(※そんなことはジョーカーだって百も承知で「ヒーローなんだから正義の心は死んでないだろう」と皮肉を言っている、のをバットマンは無視している)
but even I have a limit. だが俺にも我慢の限界はある。
(※ここでバッツはBvSの冒頭で、少年ブルースがマーサの瞳孔が開いていく瞬間を覗き込んでいた場面を回想していると思われる)
And if you cross that line, I swear to God, I will... いいか、このまま我慢の限界を超えたら、神に誓って、俺は貴様を、、、
> Joker: ジョーカー:
Before what, Bruce? Kill me? はぁっ?何に誓うって、ブルース?俺を殺すのか?
You won't kill me. I'm your best friend. いやいや、お前は俺を殺すことはないね。俺はお前の親友だからな。
Besides, who's gonna give you a reach-around? というか、俺がやらなくて他に誰がお前にリーチアラウンドしてやるんだ?笑
(リーチアラウンド=後ろからセックス(入れるのは肛門でも可)をしつつ手で相手の性器をいじること:つまり男同士でも可能。笑)
> Batman: バットマン:
... (無言)
> Joker: ジョーカー:
Anyway, you need me. とにかく、お前には俺が必要なんだ。
You need me to help you undo this world you created by letting her die. 俺がいなければお前は、元に戻せない。お前が彼女を死なせてしまったばかりに招いたこの世界をな。
> Batman: バットマン:
... (無言)
> Joker: ジョーカー:
Poor Lois, 哀れなロイスよ!
how she suffered so. いったい彼女はどれだけ苦しんだのだろう。
[Sighs] (ため息)
I often wonder 俺さあ、時々ふと気になるんだがな
how many alternate timelines do you destroy the world because お前いったい何回このタイムラインを繰り返して世界を滅ぼしてきたんだ?
frankly, you don't have the cojones to die yourself. というのも、率直に言って、お前は世界のために自己犠牲を払うようなタマじゃないからな。
(※そうして失敗する度に、バリーが時間を巻き戻して再挑戦をくり返していると思われる。最初にバッツがメラに「計画通りに進めないと『正しく』はできない」と言っていたのも、このため)
Hmm? だろ?
So as usual, I'll be the bigger man. そこでだ、ようやく至極まっとうな手段として、ついに俺様がヒーローになるってわけだ。
[blows air] ポンッ
A truce, Bruce. 休戦(トゥルース)しようぜ、ブルース。
As long as you have this card, a truce. お前がこのカードを持っている限りは、休戦だ。
But all you have to do is to tear it in half だが、お前が望むならこのカードをまっぷたつに破れ。
and I'm happy to discuss with you in any way you like, 俺は喜んでお前との議論に戻るとしよう、どんな内容でも付き合うぜ。たとえば、、、
why you sent the Boy Wonder to do... なぜ、例のわんぱく坊や(ロビン)に任せたんだ?
A man's job? 「大人にしかできない仕事」を?
(※この台詞はBvSでバットケイブに保管されていたロビンのコスチュームにつながる。大人にしかできない仕事とは「ジョーカー殺し」のことであり、この時ロビンは逆にジョーカーに殺された。ちなみにジョーカーはこの時ウェイン邸も焼いてしまったとされている)
> Batman: バットマン:
You know, it's funny that you would talk about people who died in my arms なあ、面白い話があるんだ。俺の腕の中で死んだ奴らといえば、
(※反撃スタート)
because when I held Harley Quinn, and she was bleeding and dying, ハーレイクインも俺の腕の中で血まみれになって死んでいったよ。
she begged me with her last breath 彼女は俺に懇願していた。それが彼女の最期の言葉になった。
that when I killed you, で、その願いの内容だが、、、俺がジョーカーを殺すときは、
and make no mistake, I will fucking kill you, 絶対に、間違いなく、ブチ殺してくれ、だとよ。
that I'd do it slow. それも、ちゃんと時間をかけてゆっくり殺して欲しいんだと。
I'm gonna honor that promise. 俺は必ず守ろうと思う。彼女との約束を。
> Joker: ジョーカー:
... (手が震えている)
Oh, you're good. おおおお。いいねえ。
You almost had me. お前、もう少しで俺イクところだったぞ。
Ha-ha-ha-ha-ha. はーはっはっはっはっは。
解説
最初に出てくる「養子に取った息子」とは原作コミックからバットマンの相棒のロビンであることが分かります。BvSでロビンはジョーカーに殺されたことが示唆されている(バットケイブに保管されていたロビンのコスチューム)ので、バットマンからすれば「貴様がそれを言うか!」という状態ですね。
続くジョーカーの質問台詞は、直訳すると「何人その手で殺したか」「お前は自分の心が死ぬまでに何人殺せるか」と人数を聞いていますが、これは「どうせ数え切れないだろう。お前は人を平気で殺せる男だからな」というジョーカーの意地悪な質問です。
これに対してバットマンは「心なんてとっくの昔に死んでる」と返します。だから人を殺しても平気ということになりますし、お前のことも殺せるぞと脅す効果もあります。このときバットマンはジョーカーの質問に形式的には答えているように見えますが、実際はすでにバットマンの心が死んでいることはジョーカーだって百も承知で、その上で「ヒーローなんだから正義の心は死んでないだろう」と皮肉を言っていたのを、バットマンが無視している形になります。つまり答えはYESでもNOでもジョーカーに好きなように言われる質問だったんですね。
心が死んでる=正義のヒーローなのに心が死んでるってダメじゃん。
心は死んでない=正義のヒーローなのに平気で人が殺せるって変だよね。
ロビンのことを言及されても冷静をキープできたバットマンですが、それでも彼が感情的になってしまったのは、ジョーカーの「死んでいく人の目を覗き込む」という言葉で、まさに「BvSの冒頭で少年ブルースがマーサの瞳孔が開いていく瞬間を覗き込んでいた場面」を回想していたからでしょう。
ジョーカーの「いくつのタイムラインを犠牲にしてきたのだろうか」については、ZSJLのクライマックスでフラッシュが時間逆行を見せたので、バットマン達が失敗する度に、バリーが時間を巻き戻して再挑戦をくり返していることを示唆する台詞です。最初にバットマンがメラに「計画通りに進めないと『正しく』はできない」と言っていたのも、このためでしょう。この辺りはトム・クルーズの映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』に似た感触がありますね。
ジョーカーの「大人にしかできない仕事」は「ジョーカー殺し」のことです。ジョーカー殺しに失敗したロビンは逆にジョーカーに殺されました。ちなみにジョーカーはこの時ウェイン邸も焼いてしまったとされているようです。だからBvSで廃墟だったんですね。(私はてっきり両親との思い出が辛いからブルースはガラス作りの新居に住んでいるんだと思っていましたが、それにしては確かに屋敷は痛みすぎでした。笑)(ここらへんノーランの『バットマン・ビギンズ』で家が焼かれた記憶とかもあるから混乱しやすいですよねぇ。笑)
感想(批評)
コミックブックの世界ではよく出てくるテーマだと思いますがジョーカーとバットマンは表裏一体の関係です。それをスナイダーは見事に短い会話劇だけで表現していると思います。この深みのある台詞の応酬こそDCコミックの醍醐味であり、スナイダー作品との親和性でしょう。
『ダークナイト』でノーランが2時間かけてやったことを数分でやっているからメチャクチャ濃厚な仕上がりになっています。しかもノーランがバットマンの本質として善意と人間性を描いていたのに対して、こちらのバットマンは完全なる闇落ち状態です。
この会話を画面いっぱいの超クローズアップでゆっくりゆっくり演じ続けるなんて相当すごいことです。そりゃあアカデミー賞を獲るような実力のある俳優を起用する必要があるってもんですよ。スナイダーのVEROでも監督本人が『アーミー・オブ・ザ・デッド』で作ったカスタムメイドのカメラを嬉々として構えている写真をシェアしています。笑(↓)
「超ちかくで仕事させてくれてありがとう、ジャレッド」
死んでいく人々の瞳をずっと覗き込んでいるという描写がゾッとします。ここにあまりピンとこない人は、戦争で多くの人を殺して苦しんだ人の逸話などを探して読むなどしましょう。人を殺すということが、どれだけ人の精神にとって苦痛となり重荷になるか。大多数の人間は心を病んでしまうと言います。それを日常的にこなしているバッツの精神状態というのは、想像するだけで恐ろしい話です。
さらにジョーカーの煽りを受けて、肯定も否定もせず、お返しにハーレイが死んでいく様子を教えてあげるバッツが鬼畜すぎます。BvSで改心してZSJLで悟りを開いたブルースに何があったのでしょうか。笑
ハーレイはハーレイで「プリンちゃんのことも確実に殺してね」「ゆっくりゆっくり殺してね」「約束してね」って息も絶え絶えに言ったのでしょうか。頭おかしいでしょ。たぶんバッツが首を絞めていたのかな。そうじゃないと瞳を覗き込みながらは殺せないですよね。エアー監督の『スーサイド・スクワッド』で水中からでも襲いかかってきたくらい凶暴な彼女のことなので、バッツが瀕死の彼女を抱きかかえて遺言を訊くみたいな状況ではなかったと思うんですよねー。
もう登場人物が全員揃いも揃って狂っていて最高です。笑
はっきり言って、映画の前編でステッペンウルフが斧の一振りでアマゾンやアトランティアンを血飛沫を上げながら惨殺するシーンより、こちらの方が私はずっと怖かったです。これだけでR指定に認定したいわ。
最後に
私はバットマンの原作コミックをあまり多く読んでない(読了してるのはダークナイトリターンズとキリングジョークの2点くらい)ので、何か気づいた点や意見があればお気軽にコメントなどいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
了。
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実は基本を押さえたいならダークナイトリターンズとキリングジョークだけで十分じゃね?と思っている節もある(暴露)
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