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雪の日/珈琲Shop

雪と桜と、3/29の珍しい花見散歩のために二駅先の川沿いをぶらりと流した。

珍景ではあるものの、雪の重みに首を垂らした桜は寂しくもあり、花びらと雪の舞い散る風景は贅沢だった。次に見れるのはいつになることやら。

寒さの中で空腹を感じたので、歩きながら思い出した予定をこなした後、カレーを食べた。

カレー屋から駅までの道のり、年に1回程度赴く焙煎珈琲店があるので、Google Mapで営業日を確認し向かった。テイクアウトして身体を温めながらゆるりと帰りたい。この辺りには他にも珈琲店はあるが、豆の種類も豊富で自分にとっては一番飲みやすくて美味しい。ただ、あまり来ることもなく、夜遅くまでやっていないので頻繁には訪れない。

この時間帯、普段と比べると人が少ない。路地を曲がり細道に入る。自分以外に通りを歩いている人はいない。正面に、すぐに店の看板が見えた。同時に、シャーターが少し空いているのも見えた。

都知事の会見の影響で外出自粛。その上、雪。やっていなくてもおかしくない。近づくと頭を少し下げれば中が覗ける。どうやら明かりは点いているが...入ろうか迷っていると店主のお爺さんの影が見えた。

向こうもこちらに気づき、ドアを開ける。

「やっていますか?」

「今日は休みにしちゃったよ。豆を買う人に向けてやっているけど、お客さんは?」

「テイクアウトしようと思って」

「ごめんね」

「はい、ありがとうございました」

そう言葉少なく交わした後、諦めて回れ右した。

さて、どうしよう。近くに閉業した料理屋さんがあり、もしかしたら新しくお店が入っているかもしれないからちょっと覗いてみようかな、と思い、来たとは違う方向に数メートル向かう。新しい看板が出ていてので軽くチェックして、来た道に戻ろうと振り返った時に、珈琲屋の店主がドアを開け顔出していた。

目があったので、近づいてみる。

「今自分で飲もうと思って淹れているところだったので、それでよかったらどう?」

「いいんですか?」

「いいよ、自分のはもう一杯淹れるし。それ持って帰ってもらうんだったら、いいよ」

言葉に甘えることにし、店の中に入っていた。珈琲豆の香りが強い。

「すいません、休みなのにありがとうございます」

「いいよ、お客さんも誰も来ないし、丁度淹れようと思ったタイミングだったし」

「ありがとうございます」

お礼しか言えていない。

「今淹れるから。そこら辺座ってて」

そう言いながらカウンター奥に向かう。

「今日はお客さん全然来ないし、せっかくだから倉庫の掃除をしようと思って。これから埃っぽくなるから長居はさせないよ。淹れたら帰ってね」

軽く雑談した後、テイクアウト用に珈琲を渡してくれた。席に座ったまま一口飲む。

美味しい。普段、自分は珈琲をブラックで飲むことは殆ど無い。あっても水出し珈琲程度。苦いのは嫌いではないがカフェインを薄めて摂取したい。それほど強いわけでもないし、ものに寄っては腹痛をもよおすこともある。

でも、これは美味しい。複雑な味だ。最初は酸味、少しすると苦味とコクがやってきて、もう一口、味わいたくなる。それにとても温かい。熱すぎない。飲みやすい。

「とても、美味しいです」

「はい、ありがとうね」

「おいくらですか?お会計を」

「いいよ、それは自分で飲もうと思っていたものだし」

「いや、でも」

こんなに美味しいのに。

「いいから。寒そうだったしね」

「本当にありがとうございます」

「じゃぁ、これから掃除するから、早く出てってね」

数年前、初めて入った時は気難しそうで堅苦しそうな店主だなぁと感じた。素っ気なさもあり、暖かくもあり、苦くもあり。

お辞儀をして、店を後にした。

帰り道、片手に傘を持っていて、気軽にカップの蓋を開けることはできなかった。駅のホームに着いて、少しだけぬるくなった珈琲を口にしても美味しさは変わらなかった。

今日は日曜。木曜に豆を買いに行こう。

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