絵本『古井戸に落ちたロバ』
2011年に出版したイディアンのティーチングストーリー『古井戸に落ちたロバ』ですが、最近になって「ラジオ番組内で絵本の読み聞かせをしたい。」「ZOOMで行っている絵本の会で紹介したい。」「ブログで紹介したい。」など、この絵本がとても気に入っているのでぜひ紹介させてほしい!…という熱い想いのこもった問い合わせのメールをいただくことが増えております。
とっても嬉しいです。
いまコロナ禍で世界中が大変な状況ですが、この絵本ができたときも、日本が大変なことになっていました。
2011年というと思い出されるのは、東日本大震災ですがこの絵本は、震災が起こる2か月前、2011年1月に出版をしました。
絵本を作るにあたっていろいろな思い出がござますが、それは改めて別の形でお話ししたいと思います。
ここでは、出来上がってからどうやってこの絵本が広まっていったのかをお話したいと思います。
絵本が刷り上がった当初、私は、めちゃくちゃ燃えておりました。企画編集営業とすべてを自分一人で行うスタイルでやっておりますが、絵本というジャンルは自分にとっては新しい挑戦でした。
出来上がってからが勝負では遅いというのがこの業界の定説ですが、案の定、しょっぱなから出鼻をくじかれました。
見本出しで持って行った取次(書店問屋)には、
「なんで絵本を作ったんですか?御社は絵本専門の出版社じゃないですよね?」
配本担当者さんからあからさまに「おいおい。簡単に作って持ってきてくれるじゃねーか。あまかね~んだよ絵本てのはよ~。は~これ売れるのか~?配本すんのやめようかな~?」
という心の声が駄々洩れの塩対応をされました。
「え?絵本は専門の出版社じゃないと出しちゃダメなんですか?」と、至極真っ当な返答を返しつつ心の中では、「あからさまに迷惑そうな顔しやがって…。ぜってい、ぎゃふんといわせたるわいっ!」と叫びつつ、アルカイックスマイルは忘れずに!
この絵本が売れるであろう理由を説明し、なんとか担当者さんの顔をマイルド・ソルト30%減塩!!までにして、無事に配本までこぎつけました。
しかし、取次さんが言うのもある意味正しいのが出版業界の現実。
なんせ、「ゴホンといえば龍角散」ですが、「絵本といえば福音館」さんや、ポプラ社さん、偕成社さんなど、書店の絵本コーナーは、その数社がスクラムを組むように、きっちきかっりち棚を独占している状況です。
絵本はどうしても自分が過去に読んだことのある名作といわれるものや、名作を生み出している作家さんのシリーズを子供にも買ってあげるという、永久機関、不滅サイクルが発動しています。
もちろん私も子供たちには、「ぐりとぐら」「はらぺこあおむし」「きんぎょがにげた」などを自分が幼少期に好きだった絵本を読み聞かせています。これはある意味で”摂理”だと思ってます。
新参者の出版社が出す絵本が、歴史を刻む名作がひしめく棚に割って入るというのは、そう簡単なことではありません。
それを知っているがゆえに営業に赴く私のハートは、小鳥ちゃんほどのサイズ。絵本の世界を管理する書店員さんを前にして『古井戸に落ちたロバ』の説明をしてみても、「あれ、小鳥が遠くでさえずってるのかなぁ~。」というほどの反応しかありませんでした。
情けない話、児童書担当の書店員さんって、”黙っていても売れるものをしっかりと並べていれば良いのである” そんなことを思っているのではないか? という思いに駆られてしまい、どこの書店の絵本コーナーにいっても、【よそ者は入るべからず】の立て看板が立っているような雰囲気を感じていました。(はぁ~、自分が情けないぜっ!)
しかし、あまり焦りはありませんでした。ある程度想定はしていたのと同時に、【自信】があったからです。
この絵本の力を信じていたからです。
『今は知られていないだけ、読んでもらえたら!この絵本の素晴らしさが伝わっていって、絶対に多くの人たちの共感を呼ぶはず!』だと。
そんな思春期をこじらせたような、純粋な想いだけがありました。
しかし、そんな想いを胸に、腰を据えて販促にいそしもうと思っていた矢先、3月11日にあの大震災が起こりました。
世界が一変するようなあの震災によって、絵本のこともすっ飛び、テレビから伝わる恐ろしい状況に、「自分はこれこれからどうしたらよいのか?」「仕事? 会社? いや、そんな場合か?」そんな考えがぐるぐる頭の中を駆け巡り、しばらく途方に暮れていました。
1~2ヶ月が経ち、少しずつ周りの状況も見えるようになってくると、「ボランティア活動をしている人もいる。俺も行こうか?いやまて、家族をどうする? ボランティア活動に行くことも大切だけど、自分が一番役に立つことって何か…? それはやっぱり出版を通して世の中の役に立つことなんじゃないのか!?」
そう思えたとき、『古井戸に落ちたロバ』のことが、心の中に浮かんできました。
「この絵本はまだ世に出ていない…。この絵本には大切なメッセージがあるのに…。」
ただ一つ不安だったことは、この絵本はけっしてただの感動ストリーでもなく、わかりやすい教訓めいたことが書いてあるわけでもないこと。
読み手によっては、複雑な思いをする物語です。
「震災で傷ついた人たちが、この絵本をどう受け取ってくれるのか?」
「いや、いまこそこの絵本を伝えるべきだ。震災直前にこの絵本が生まれた意味はきっとある」
「よし、やろう!」
絵本ができた当初私が考えていたのは、出版記念講演会でした。
つづく
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