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ロシアの出自と成育歴、世界観を知るための一冊 諜報国家ロシア 保坂三四郎

ロシアの民主主義と自由主義に暗い影を落とすニュースがまた増えた。反体制派の指導者であったナワリヌイが獄中で死亡したそうだ。ロシア・ウクライナ戦争から丸二年が経とうとしている最中での出来事であった。

ロシアにおいて時の政権に対して批判的な活動家や、政治家がいつの間にか死んでいたという出来事は枚挙にいとまがない。アンナ・ポリトコフスカヤもプリゴジンも皆殺されてしまった。よくもまあ人間をバカスカ殺しまくれるなと感心してしまうものだ。

ここで一つ疑問に思う。なぜ同じ民主主義、自由経済国家であるのにも関わらずここまで徹底的な圧政が敷かれていて、それが機能するのかと。ソ連崩壊後は私たち西側陣営と同じような思想を導入したのではないのかと。社会もそれに伴って劇的な変貌を遂げているのではないのかと。

そんな疑問に痛快な答えを出してくれるような本がある。それがこちらの一冊。

今までさんざんソ連ロシアの歴史本や概説書を読んできたが、この本が一番この国をクリティカルに説明できている感じがする。

非常に重要なのは題名にもある通り、ソ連ロシアは諜報機関が国家の背骨であり、頭脳であり、手足であり、神経でもあるということだ。これを理解しない限りは現在のロシア連邦の動きや考え方に近づけもしないであろう。

ソ連は共産主義を標榜する国家であったが故、超難産かつ、常に周りの資本主義国家から崩壊を願われ、崩壊の序説につながるような工作活動をされまくっていた歴史がある。国家の経営を円滑にし、破綻を防ぐためにも諜報機関や軍事機関が超重要だったということだ。

そしてソ連崩壊後もその伝統を脈々と受け継いでいること。今でも社会のありとあらゆる組織に諜報機関の協力者のネットワークが張り巡らされている。その協力者の数は半端なく、100万人に及ぶといわれている。ちなみにナワリヌイとポリトコフスカヤ、プリゴジンは航空に関係する場所で攻撃されたり暗殺されている。もちろん航空会社のありとあらゆる場所には諜報機関員とその協力者が配置されているらしいです。というか職員が友好的な協力者として、愛国心の発露としてほぼ無料で協力するそうだ。

一番大事なのは諜報機関で、それと同じくらい大事な軍事機関、民衆や社会は少しばかり壊れたってしょうがない。だって国防のためだもの。これがロシアの論理であり、世界観であり、諸前提なのだ。

ちなみに政党も大部分が諜報機関員と軍関係者がいっぱいです。民主主義自由経済国家をお題目に掲げた、国防のためには何でもする諜報と軍関係者の国。それがロシアだ。

ソ連・ロシアの代表的な諜報機関の歴史

ソ連時代

  • チェーカー(1917-1922):ボリシェヴィキ革命直後に設立された秘密警察。反革命勢力への弾圧、外国勢力のスパイ活動の防止などを担った。

  • GPU(1922-1934):チェーカーの後継組織。国家保安機関としての役割を強化し、政治犯の逮捕・処刑、スパイ活動などを担った。

  • NKVD(1934-1946):GPUを改組して設立。内務人民委員部の一部門となり、秘密警察としての役割に加え、警察、消防、国境警備などの機能も担った。

  • MGB(1946-1953):NKVDから国家保安機能を分離して設立。国内外の諜報活動、反体制派の監視などを担った。

  • KGB(1954-1991):MGBを改組して設立。ソ連の主要な諜報機関となり、対外諜報、国内諜報、対外情報活動などを担った。冷戦時代、世界中にスパイを送り込み、西側諸国の情報収集や工作活動を行った。

ロシア時代

  • SVR(1991-現在):KGBの対外諜報部門を継承。ロシアの主要な対外諜報機関となり、海外での情報収集、スパイ活動などを担っている。

  • FSB(1991-現在):KGBの国内諜報部門を継承。ロシアの主要な国内諜報機関となり、国内の反体制派の監視、テロ対策などを担っている。

参考文献

  • 保坂三四郎著『諜報国家ロシア―ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで』(中央公論新社、2023年)

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