塾講師の教え
ぼくが小学生の頃、塾に通っていた。
ある日、塾講師が話した忘れない雑談がある。
「雑誌にうんこがクサくなくなる薬の広告があった。この広告はおかしい。うんこはそもそも臭いものなのだから、それにコンプレックスを感じること自体が間違っているから」
徹頭徹尾その通りである。
それからと言うもの、僕は家のトイレに置いてある消臭スプレーも使わなかったし、換気扇もつけないライフスタイルを始めた。
家族から非難が殺到したが、無視を決め込んだ。
今思えばこれがぼくの反抗期の始まりだった。
なにも間違っていないと信じていたし、小学校を卒業して塾をやめても、僕はこのスタイルを貫いた。
でも、心のどこかで腑に落ちない変な違和感を感じていた。
20代の大人になった僕は、女の子の部屋にいた。
初めて訪れた女の子の部屋。部屋は白い家具で統一されていた。ドキドキが止まらない。
しかし、実を言うとらドキドキの原因はお腹のゆるゆる具合だった。
お腹が痛くて痛くてうんこせずにはいられない状況だったのだ。
けれど、すぐには「トイレ借りるね〜」とは言えなかった。
「男は清潔感が大切」と言われるように、トイレにうんこのニオイを残したら女の子に嫌われる。
僕は葛藤した。
うんこすべきか、せずるべきか。
もうそこまでジリジリとした感覚が迫っている。汗も止まらない。
その時、ぼくはひらめいた。
そうだ、うんこの着水と同時に便器のレバーをひねることで、ノーバウンドでうんこを下水へと送り込めばよいのだ。
水泳の飛び込み選手のイメージだ。
うんこにダイナミックな動きを与えることで、臭いをトイレに残さない。
ざっと見積もったところ、ケツから着水までのうんこの滞在時間は2〜3秒といったところだろうか。
ぼくはトイレを借りることにした。
僕は便座に座り、左手を流すレバーにセットした。
3…2…1…ブバチュウ!!
うんこの着水と同時にレバーを捻った。
(結論から言うと、飛び込みうんこの作戦は失敗に終わった。お尻からうんこが出た瞬間に、トイレ全体にくさみが即充満するので、まるで役に立たなかったのだ。トイレのドアを何回も開閉して、換気することで事なきを得た)
10年以上の月日が流れ、あの時の違和感がハッキリした。
やはり、うんこの後トイレが臭いのは恥ずかしいのだ。
あの時先生の教えを聞いた時の高揚感は、「論理的な解を得た」という知的興奮ではなく、「うんこのにおいは恥ずかしくない」というただの男気的な価値観にあてられていただけだったのだ。
そして大人になった今なら言える。
酒井先生、あなたは間違っています。
それでは!
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