仲間について
年齢も30も近くなってくると、あらゆる環境や立場を超えて、人は、たくさんの仲間に支えられているんだなと感じます。
そう感じたのは、ヤンキースの田中将大投手のニュースでした。
2020年7月4日、田中投手がチーム練習の打撃投手として参加していたところ、同僚打者の打球が、いわゆるピッチャー返しの状態で田中投手の頭部を直撃したとのニュースです。
その打球の速さは180キロにも及んだといいいます。
田中投手は脳震盪を起こしてマウンドに倒れ込みました。
すぐにチームメイトや監督、チームドクターがすぐさま田中投手のもとに駆け寄りました。
そして、周囲が一丸となって田中投手を治療し、思いやる様子は、田中投手とチームの間で築きあげてきた、日頃の信頼関係や友情を感じさせるものでした。
なにより印象的だったのは、その現場を撮影していたカメラマンに対して、ヤンキースの同僚が抗議していたことでした。
主砲ジャッジは「誰しも仕事があるのは分かるが、球場でけがして倒れた人間をズームして撮影し続けるのは納得できない!(中略)田中のために祈る!」
トーレスも「人々に仕事があり、俺たちの一挙手一投足を全て見せたいのは分かる。だが、チームメートに起きたあの瞬間をさらすのは、俺たちには適切なことだと思えない。ネットのいろんなメディアであの動画を見るのはひどい気分だ。あの瞬間をさらすのはやめろ」と怒った。
仲間を晒し者にすることに対して抗議する、プロフェッショナルの礼節です。
田中投手のような一流のスターには、人種や環境を超えて、いろんな仲間がいるんだと感じました。
高校時代のある出来事です。
ぼくの学校では昼休みにバレーボールをすることが多く、その日も校庭に出てバレーボールをしていました。
ぼくはバレーボールなど、まったく好きではなかったのですが、クラスで浮きたくないので渋々参加しました。
卓球部に所属していた経歴からわかるように、運動神経にハンディキャップを抱えていたぼくは、クラスメートに叱られながらも、とにかく一生懸命パスをつなぐ・確実に入れるプレーを心がけていました。
試合をしていると、ボールがぼくの方に飛んできました。
やや高めのボールです。
「このボールを取れないと、またクラスのみんなにお尻を蹴られてしまう」
そんな焦りにも似た緊張感に駆られて、ぼくは後ずさりのジャンプをしながらトスを上げました。
空中でバランスを崩し、背中から落ちてくのを感じました。
ぼくは、無意識に後ろに手を出しました。
グギッ!!
着地と同時に、左手首が曲がるのを感じました。
悶絶するような痛みでした。
痛みと同時に貧血のようなめまい・吐き気が一気にこみ上げてきました。
※ショック症状というらしいです。
ぼくはその場で地面にへたり込みました。
試合は中断し、クラスメートが集まってきます。
「じゃがいむーん、大丈夫か??」
「ごめん、ちょっとやばいかもしれない・・・保健室行こうかな・・・」
「おぉ」
目を開けると、クラスメートが輪になってこちらを見ています。
倒れたぼくを覗き込み、見飽きたら他の人と順番に交代して見ています。
それにしても、誰一人ぼくを介抱する気配が感じられません。
事故発生から5分ほど経ちました。
それでも痛みは一向に引かず、貧血のような症状も続いていたので、仰向けになり一歩も動けない状態です。
そのとき、クラスメートの森下が言いました。
「じゃがいむーん、もうさ、そういうの大丈夫だからさぁ」
大丈夫??
大丈夫ってなんだ・・・?
そうです。こいつは、ぼくが怪我をオーバーリアクションして、ここぞとばかりにみんなに優しくしてもらおうとしていると思っているのです。
まるで、みんなの注目を浴びたいがために、急に霊が見えると言い出し、起死回生を図るクラスの地味な女子。
まるで、お客という立場を利用し、ここぞとばかりに女の子の店員に話しかけまくるさびしいジジイ。
森下は、ぼくを彼らと同じカテゴライズしていることにめちゃくちゃ腹が立ちました。
反論したかったですが、そんな元気はありませんでした。
ぼくは黙って片手でハイハイ歩きで、校庭の木陰に移動しました。
即座にバレーボールが再開されていました。
「骨折かもしれないな・・・がんばって保健室行こうかな・・」
そんなことを考えていると、柔道部の佐々木くんが大変な笑顔で駆け寄ってきました。
「大丈夫か!?じゃがいむーん!」
安心しました。
ようやく助けてくれる人が現れました。
佐々木くんは柔道部なので、骨折などのケガの対処に慣れているかもしれないと期待しました。
「ありがとう・・・左手首が折れてるかもしれない・・・」
小さな声で佐々木くんに伝えました。
すると佐々木くんの少し黒目がきゅっと小さくなり、ニッと黄色い歯を見せて笑いました。
その瞬間、ぼくの左手首をグリグリグリッ!!と高速で回し始めたのです。
アァアアッッーーー!!!
ぼくは絶叫し、地面を転げました。
佐々木くんはその様子を見ながら腹を抱えて、笑い転げています。
佐々木くんはサディストなサイコパスでした。
彼は満足するまで笑うと、どこかへ去っていきました。
助けてくれると思った唯一の人も、ただのサイコだったので、あきらめて一人で保健室に向かいました。
ここから保健室まで100メートル位あります。
その長い道のりをフラフラ歩いていきました。
最後は朦朧としながらハイハイ歩きで保健室に入室しました。保健室の先生が驚いた様子で迎えてくれまし。
ぼくは事情を説明すると、
「よくここまで一人で来れたねえ・・・」
保健室の先生に褒められたのが、この出来事で唯一うれしかったことです。
保健室登校する生徒の気持ちがわかった気がしました。
先生に患部を見てもらった結果、骨折かもしれないので、救急車を呼んで近くの病院に行く、ということになりました。
すぐに救急車が学校にやってきました。
学校の中庭まで救急車が入ってきます。
ちょうどお昼休みだったので、中庭はたくさんの生徒でごった返していて、救急車は野次馬の生徒に囲まれました。
野次馬は、カメラ付き携帯電話で、ストレッチャーに乗せられたぼくを、バシャバシャ撮っていました。
救急隊員も、質の悪い生徒にびっくりしたことでしょう。
なんとか病院に着いてギブスで固定してもらい、ことなきを得たのでした。
後日、サイコの佐々木くんが、ぼくが救急車に搬入されていく様子をケータイで撮影した動画を見せてくれました。
動画に映っていたぼくは、焦点が定まらない様子で
「あぁ、あぁあ、」とうめきながら救急車に乗せられていました。
佐々木くんが「メールでも送っておくよ!」と言い、黄色い歯を見せてニッと笑いました。
ぼくは「ありがとう!」と言いました。
親切心で話しかけてくるのが怖いと思いました。
高校を卒業して10年近く経ちますが、当時のクラスメートとは、もう誰とも会っていません。
あれ?
田中投手の記事を読んでさっきまであんなに胸が熱くなっていたのに、もう嫌な気持ちになっています。
みなさんにとって仲間とはなんでしょうか?
それでは!
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