描線
いまきみはどの辺りをゆくのだろう パウル・クレーの描線を辿り
きみはやって来てすぐに、万年筆と万年青の区別がつかないと言う。認識論はわたしの手に負えないからと返すと、途端に悲しそうな顔をする。単に表記の話であって、万年という最初の二文字を見た段階で、それらが同一であると判断してしまうのだと言う。それなら筆と青はどこに行ってしまったんだい?そう質すとさらに悲しい顔になる。帰るそぶりを見せるので引き止める。複雑化してみるのはどうかな?わたしはポストイットに万年雪と書いてきみに渡す(ちょうど次の歌会の兼題だったのだ)、いつもてのひらに貼っておけばいいよ。きみは嬉しそうな顔をして帰っていったと思う。
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