【司法書士関連】表示登記に関する書籍の紹介

 登記の専門書といえば、不動産登記に関する権利登記や商業登記などが多いところですが、不動産について、物理的状況を記録する表題部、いわゆる表示登記(以下「表示登記」といいます。)が、どのように登記されるか知っておくことは、登記業務に携わる者にとっても有益となるはず…。
 そこで、本記事では、登記の知識を深めるべく、初心者でもわかりやすいおすすめの表示登記に関する書籍を紹介していきます。
 選定基準は、おおむね、①購入可能なこと、②定評があることの2点です。
 なお、表示に関する登記の専門家は土地家屋調査士になります。興味のある方は受験を検討してもよいのではないでしょうか。
 あと、今回も私の懐には一銭も入らないので安心してください!
 本記事は勝手ながら、これから表示登記を知りたい方にとってのおすすめ度を★(最高値★5)で示しています。


第1 入門書(初心者はこちら!)

1 横山亘『基礎からわかる表示登記』(きんざい,2017)<おすすめ度★4>

 表示登記について、もし、入門書を一冊だけ買うなら私はこちらを買います。
 著者は、権利に関する不動産登記について、「渉外不動産登記講義」(テイハン)「信託登記の照会事例1」「信託登記の照会事例2」(きんざい)でお馴染みの横山先生(現役職員の方ですね)です。
 本書は、タイトルが「基礎から」とあるとおり、まさに初めて表示登記に触れる人のための入門の一冊です。
 内容は、土地及び建物の表示登記について、表題登記(一番はじめに登記記録を起こす登記)から、分筆、合筆、地目変更、区分建物など網羅的に書かれた一冊です。本書の最後のほうには、おまけに近いですが、申請書の記載例の案内もあります。
 本書は、はしがきにもありますが、表示登記に初めて触れる法務局職員のために書かれているようですが、書店で購入も可能な一般図書です。難点としては、本書の参考文献がいずれも市販の本ではないことでしょうか。
 なお、「不動産表示登記入門」とは、元裁判官の清水湛先生が書かれた本です。
 以下、KINZAIストアからの紹介文を引用。

『不動産表示登記入門』にかわる教科書!
◆「登記することができる土地・建物とは」「実地調査とは」など、表示登記制度の全体像を俯瞰し、土地・建物の登記事項について詳説
◆登記申請情報の作成から登記添付情報・登記識別情報までを豊富な書式をふまえて詳細に解説
■各項目に根拠条文を掲載しているのですぐわかる
■さらにくわしく知りたい方のために「専門知識」で深堀りできる
■「ちょっと待った!」で重要事項を再確認できる

初学者には信頼できる研修教材として、土地家屋調査士など実務家には頼りになるハンドブックとして最適の書

KINZAIストア

2 日本法令不動産登記研究会『わかりやすい不動産表示登記の申請手続』(日本法令 ,2011)<おすすめ度★3>

 本書は、申請書記載例をベースに表示登記の手続を解説した一冊です。
 内容としては、表示登記について、申請書の記載例に沿って解説されており、やはり本書も土地及び建物の登記を網羅的に解説しています。実際に申請書例を見たい!という方はこちらがおすすめかもしれませね。
 私が表示登記を勉強するきっかけとなった一冊でもあり、感慨深い一冊でもあります…。
 ちなみに「○○登記研究会」と名の付くものは執筆者として職員が解説しているものが多いそうです。
 なお、少し古い書籍のため、どちらかといえば、上記1の「基礎からわかる表示登記」をおすすめします。
 以下、アマゾンの商品紹介文から引用。

申請書見本(32例)や登記記録(99例)を豊富に収録するとともに、各種添付書面についても詳細に解説。登記申請書の作成・提出から登記実行手続、登記完了後の手続まで、表示登記実務のすべてを一冊に凝縮。

3 友次英樹『増補版 土地台帳の沿革と読み方』(日本加除出版,2018)<おすすめ度★3>

 本書は、土地台帳の沿革と読み方を解説している一冊です。
 現在、登記所で取得することができる地図は、その約30%が明治時代に作成された旧土地台帳付属地図(いわゆる公図(こうず))であり、地図に準ずる図面(不動産登記法14条4項)です。公図は、明治期の地租改正の際に作成されたものが多く、現地を復元するほどの精度と正確性はありません(法務省HP参照)。
 実際に、現況と公図を比べても隣地との境界にずれがあることも多々あるとか…。
 つまり、現在においても土地台帳を読む機会・意義は大いにある、ということが言えますので、本書は「土地台帳とは何ぞや?」と理解するには良書といえます。
 以下、日本加除出版HPから紹介文を引用。

●幅広いレベルの方に当てはまる貴重な資料。
●平成3年の初版以来、好評のロングセラー。

<増補版のポイント>
●第1部「土地台帳」は、不動産登記法の改正に伴う変更箇所を見直し。
●第2部「参考資料」は、新たに「第1編 土地台帳付属地図(公図)」の項を設置。地図の役割にはじまり、その歴史をたどって詳しく解説。カラー刷りで写真を掲載。また、利便性を重視し、関係法令は縦組みから横組みに変更。

日本加除出版



第2 実務書(もっと知りたい方はこちら!)

  ここからは、さらに実務的な表示登記の内容にも踏み込んだ書籍を紹介していきます。

1 青山修『不動産登記申請MEMO-土地表示登記編-』(新日本法規出版,2010)<おすすめ度★2>

 著者は、ご存じの方も多いはず、「不動産登記申請MEMO」シリーズの青山先生です。
 本書も権利登記編と同様に表示登記に関するポイントを網羅的に記載されいています。
 以下、新日本法規出版HPから紹介文を引用。

簡潔なQ&Aでわかる!

◆知りたい疑問をすぐに解消!
土地の表示登記に関して実務で直面する疑問にQ&Aで端的に回答。図や表を多用して、わかりやすく解説しています。

◆ビジュアルな紙面!
ポイント箇所のカラー化や、見開き時に読みやすいレイアウトなど、見やすく、使いやすい紙面にしています。

◆関係通知を掲載!
巻末に関係通知を掲載し、参照の利便を図っています。

新日本法規出版


2 青山修『不動産登記申請memo-建物表示登記編-』(新日本法規出版,2008)


3 藤原勇喜『公図の研究(五訂増補版)』(株式会社朝陽会,2018)<おすすめ度★4>

 公図といえば新井先生とこの方ではないでしょうか。多くの著書を執筆されている元法務省民事局職員及び元公証人の藤原先生です。私も「倒産法と登記実務」の本を持っています。
 本書は、公図及び地図について、豊富な先例・判例を載せて解説しています。もっと公図について知りたいという方は本書は必読だと思います。
 また、地図や共有地などにも触れられていますので、物権法改正の影響を受けた改訂も今後あるかもしれません。
 なお、本文は約580ページありますので、なかなか分厚い(商業登記ハンドブックと同程度)ので読むには根気がいるかもしれませんが、情報量に比して価格が安い気がします。
 以下、Amazonの商品紹介文から引用。

公図に関する“判例”を大幅増補!公図は、なぜ重要視されるのか?「公図は権威ある資料」(東京地裁判決)だから。法令、判例、学説、先例、実例などを網羅。

4 新井克美『Q&A 詳解土地台帳』(日本加除出版 ,2022)<おすすめ度★3>

  本書は、土地台帳に関してQ&A方式で解説した一冊です。著者は、「判決による不動産登記の理論と実務」も書かれている元地方法務局長及び元公証人の新井先生です。
 おすすめ度が★3なのは価格が初心者には高いからです(汗)。
 以下、日本加除出版HPから紹介文を引用。

一筆ごとの土地の履歴情報がまとめられている土地台帳。
表示登記実務、筆界特定、訴訟、所有者探索 等において、
それを読み解くために必要な知識を網羅した全129 問。

●豊富な土地台帳の実例に基づいて、その読み解き方を詳細に解説。
●地租改正から土地台帳制度、登記簿・台帳一元化に至るまでの沿革に加え、申告・登録手続や記載内容を詳解。
● 所有者不明土地問題に係る調査や、筆界調査に携わる実務家必携の1冊。

<設問抜粋>
Q:土地台帳様式の変遷はどのようなものか。
Q:土地台帳副本を市町村で保管しているのはなぜか。
Q:地租改正における「丈量」はどのようなものか。
Q:「脱落地」・「未定地」とは何か。
Q:土地台帳が法務局に移管された経緯はどのようなものか。
Q:税務署から引継ぎを受けた帳簿は廃棄されたのか。
Q:登記簿・台帳一元化とは何か。
Q:未登記国有地を払い下げた場合は土地台帳所有者欄にどのように登録されたのか。
Q:分筆の登録は土地台帳にどのように記載したのか。
Q:併用申告とは何か。
Q:土地台帳に市町村名が記載されていないのはなぜか。
Q:「めがね地」とは何か。
Q:分筆地の地番はどのように付番したのか。
Q:社寺は土地台帳にどのように登録されたのか。
Q:土地台帳事務における境界確認はどのようなものか。
Q:「縄延び」とは何か。
Q:「畦畔」とは何か。
Q:畦畔の丈量方法はどのようなものか。
Q:公図上の点線,朱色線,着色表示は何か。
Q:「開墾」とは何か。
Q:沿革欄に「道路成」とあるのは何か。
Q:土地台帳の所有者の変更登録はどのようなものか。
Q:共有者はどのように登録したのか。
Q:国有地は土地台帳に登録されたのか。
Q:土地台帳に登録されている未登記の国有林野は登記簿・台帳一元化作業において表題部を新設したのか。

日本加除出版


5 寳金敏明『改訂版 境界の理論と実務』(日本加除出版,2018)<おすすめ度★5>

 noteで紹介するのは2回目ですが、個人的にとてもおすすめの一冊です!
 表示登記とは少し離れますが、土地の境界について解説した本で本書の右に出るものはないと思われます。
 本書は、分量も多く、価格も高いですが、その文章は平易でわかりやすいものとなっています。初めの一冊として本書を選んでも個人的にはよいと思います。
 本書の目次は見ているだけでなんだかワクワクしてきますので、ぜひ手に取っていただきたいものです。
 以下、紹介文と目次を日本加除出版HPから引用します。

土地境界に関する唯一の理論書
新たな裁判や実務動向を踏まえた、待望の改訂版!

●初版発行から10年間に蓄積された裁判例の解釈・判断基準を踏まえ、実務に与える影響を分析。

目次

第1編 境界の基礎知識
第1章 境界概念の多様性
境界の種類と淵源/所有権界と筆界の関係/占有界・地上権界等/公物管理界・行政界/各種境界の相互関係
第2章 境界の移動
所有権界の移動/筆界の移動
第3章 境界標
境界標の基礎知識/私人が設置する境界標/官公署が関与して設置する境界標/所有権界・筆界・境界標の相互関係/境界標の損壊
第2編 境界判定の手法
第1章 境界判定の手法の概要
境界判定の基本/所有権界の判定
第2章 筆界判定の証拠資料等
筆界判定に際して調査・探索すべき資料等/法務局備付けの地図及び地図に準ずる図面等/登記記録及びその添付書類等/他の官公署及び民間の保管する地図・図面等/地形地物/占有状況/写真・証言等の物証・人証/慣習・慣行
第3編 境界立会
第1章 立会・承認についての基礎知識
第2章 所有権界についての立会・承認の適格を有する者
和解の効果を生じる協議についての立会・承認適格/単なる事実の確認にとどまる場合の立会・承認
第3章 筆界についての立会・承認の適格
所有権者・抵当権者等の筆界調査における立会・承認の適格/登記実務における立会・承認/地籍調査,国交省公共測量作業における立会・承認適格/筆界確定訴訟における当事者適格/「相隣地」といえるか否かの判定
第4章 機能管理者による官民境界明示等における立会・承認の適格
第5章 隣地の所有者の判定
共有地/無番地の土地/道路・畦畔等/水路・ため池等/海岸付近/譲与地/所有者・地番・所在が不明な土地/筆界調査における「承認印」をめぐる諸問題/立会・承認手続に関するトラブル
第4編 境界に関する協議
第1章 民間相互の境界協議
第2章 公有財産についての境界協議
第3章 国有財産についての官民境界確定協議等
官民境界確定協議等の手続/官民境界確定協議等の法的性質/官民境界確定協議等の対人的効力/国交省型の境界明示等
第5編 筆界特定・筆界認定等
第1章 筆界特定
筆界特定制度の沿革等/筆界特定手続の申請/筆界特定の審理/筆界特定の成果/筆界特定の法的効果/筆界特定制度と他の筆界判定手続との関係/筆界特定に対する不服申立て/筆界特定と所有権界・占有界との関係/調査士会ADRとの関係
第2章 分筆・地積更正・地図訂正等における筆界認定
境界の形成・認定に関する登記官の権限/筆界認定の手順/分筆・合筆
第6編 地籍調査
第1章 地籍調査の目的
第2章 地籍調査の一般的手順
第3章 地籍調査の効果
第4章 地籍調査の今後に残された課題
第5章 都市部の地籍調査における特則
第7編 境界に関する裁判
第1章 境界に関する私人間の裁判
第2章 所有権確認訴訟(所有権の範囲の確認訴訟)
第3章 筆界確定訴訟
裁判の入口論/当事者・参加/ 訴えの併合・変更/審理/当事者による自主的解決/判決主文/判決の効力/時効中断(時効期間の更新)との関係
第4章 筆界判定に対する行政訴訟
第5章 表示登記に係る民事訴訟

日本加除出版

第3 おまけ

 登記簿は、表題部と権利部を合わせて構成されていますので、閉鎖登記簿をみるときはその沿革も知っている必要があります。 また、昔は表題部(土地台帳)と権利部(登記簿)が別々に管理されていました。
 そうした沿革というのは、上記で紹介した書籍でも触れられていますが字面だけで理解することはなかなか難しいものです。
 そこで、土地台帳及び登記簿について、次の表のとおり、まとめてみました。若かりし頃に作ったもので正しいかはわかりませんが、1枚に収めるのに苦労しました。何か訂正等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
 なお、使用はフリーですが感想・報告いただければ嬉しいです。


第4 おわりに(忙しい方はこちら)

 「結局、何冊も紹介してるけど買えばいいのはどれなの?」という方に向けて私が独断と偏見で選ぶ本は、次の2冊です。

① 横山亘『基礎からわかる表示登記』(きんざい,2017)

② 寶金敏明『改訂版 境界の理論と実務』(日本加除出版,2018)

  以上です。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 次の記事は何にしようかな…。