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ゲームクリエイターと任天堂ファン必読「任天堂を復活させた男レジー」書評

2024年5月に発売された書籍、レジナルド・フィサメィ著「崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男」(以下、レジー本)を2度読んだ。

ずばり、これは任天堂ファン、業界関係者であれば必ず読んでおくべき、とても貴重な本だ。

ただし、この本を一冊の本として考えると駄作である。休日に読書を楽しむ意図なら、別の本にするとよい。なぜなら、(これはどんな経営者や資本家の自伝もそうだが)本著はレジーの主観的かつ利己的なセルフ・ブランディングが多分に含まれており、ノイズやミスリードが多すぎるからだ。

一方、そうしたノイズやミスリードをうまく避ければ、本著は有益な情報に満ちている。特に、2000年代以降の任天堂について、当事者、それも責任者の一人による資料は非常に貴重だ。任天堂は故・山内溥が現役だった2000年前後までは、比較的メディアにもオープンだったので当時の任天堂の戦略や思想にかんする資料は豊富に残っているが、故・岩田聡がトップに立つと、自社のブランディングを推し進める課程でメディア露出を避け、以前のような戦略や思想を知る手段が減った。つまり、岩田時代以降の任天堂について知れる資料は、ただそれだけで貴重なのだ。

ましてレジーは、ニンテンドーオブアメリカ(NOA)のCOOを2006年から2019年、すなわち任天堂の露出が大幅に減った時代において、その代表的な立場を過ごしてきた人間だ。しかもNOAは京都の任天堂本社から地理的・政治的に距離があり、そのためか従来の任天堂社員・役員と比べて驚くほどオープンに当時の任天堂の状況や、それに対する客観的な意見を述べている。(恐らくだが、この本を読んだ任天堂の社員は苦い顔をしたと思う)

また、任天堂を象徴する伝説的な経営者、岩田聡がどのような人物であったかをうかがい知ることもできる。岩田聡はすでにほぼ日刊イトイ新聞の『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』の中でも人物評があるが、ここでの「岩田像」が糸井ら「身内」による極めて好意的な印象で描かれた一方、レジー側は「親友、メンター」と言いながらも、岩田の厳しさや難しさも指摘しており、『岩田さん』のB面的に読むこともできる。


こうしたゲーム業界人や任天堂ファンにとって必読とも呼べる「レジー本」だが、日本国内におけるレジーの認知度の低さと、特に2000年代以降の任天堂に対する理解の少なさから、本書の存在も知られていなければ、本書の「読み方」を解説する適切な書評も見当たらない。

そこで今回は、「レジー本」をおよそ1万字に及ぶ長文書評の中で、レジーによるミスリードを適切に批評しつつも、その中で見えてくる2000年代任天堂の本質を考えつつ、その情報の真価(インテリジェンス)を解説したいと思う。



レジー、ニンテンドーオブアメリカ、その再定義

厳しいことを再三いうことになるが、本自体はかなりつまらない。これはあくまで「書評」として触れる必要があるだろうし、単純に内容を鵜呑みにする読者がいては危ないので、この点についてあらかじめ注意したい。

そもそも経営者はプロの作家ではないから文章はつまらないのは仕方ない。ところが、具体的な経営に関する思想や判断という部分においても、驚くほどつまらないというのは、むしろ興味深い発見であった。


改めて説明しておこう。レジナルド・フィサメィ、通称レジーは、ニンテンドーオブアメリカのCOOを2006年から2019年務め、実質的に南北アメリカ大陸における任天堂の代表を13年に渡って務めた人間だ。当時の任天堂はWii・DS→WiiU・3DS→Switchというハードを三世代にわたり投入してきた上に、レジー本人もE3やNintendo Directといったプロモーションに積極的に現れたことで、日本はともかくアメリカの任天堂ファンにとっては岩田聡や宮本茂、それ以上に認知された人間である。

(かのvideogamedunkeyにこんな動画も作られているほど人気がある。)


そんなわけだから、レジーのパブリックイメージは非常に強い。筆者ですら現役時代からレジーの活躍はよく知っていたし、アメリカにおける彼の人気も聞いていた。

しかしここで疑問が湧く。果たして、レジーは実務や政治において一体どれだけの役割を果たせていたのか?経営者としての岩田、ディレクターとしての宮本の能力を、疑う者はもはや世界にいるまい。ただレジーは岩田や宮本に並ぶほど大きな貢献を成し遂げられる能力があったのか、そもそもレジーが君臨するニンテンドーオブアメリカにそんな権力があったのか。これに関しては、日本国外のことということもあって現実的な根拠がまるでなく、2000年代以降の任天堂を語るうえで大きな疑問だった。

だからこそ「レジー本」の発売は待望していたし、発売前より予約していた。そしてついに、そのレジーとNOAにかんする「真実」を掴むことができたのである。


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以下、有料部分の中では

・レジー本の書評、特にNOAとレジーは任天堂にどう影響を与えたか
・2000年代任天堂を知るレジー本の「3+1」の論点=「日本国内市場の衰退+WiiUの失敗+プロモーションの変化+???」
・「P&Gマフィア」としてみるレジーの評価
・改めて、2000年代以降の任天堂はどう変化したのか

など、「レジー本」を何倍も理解するための様々なヒントや考察について説明しています。ゲームファンや業界人として確実に知っておくべき、2000年代以降の任天堂の重要な認識が多数含まれているので、興味があるかたはぜひ購読ください。
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