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イズモ・アネクドーツ

 こんにちは、出 雲太(いず うんた)です。

 村上春樹さんが翻訳したビルクロウさんの著書に「ジャズアネクドーツ」というエッセイがあります。ジャズミュージシャンのエピソードてんこ盛りのこのエッセイ集は、いろいろと考えさせられることが多いです。

 アメリカという国はあまりにも広大であり、その広大な国に住んでいるとお互いの共通認識として、ユーモアというものが必要となるのでしょう。アメリカンジョークという言葉が存在するように。

 この本に登場するジャズミュージシャンはみな、笑うのが大好きです。逆に言うと、そこには笑わなければやっていけない現実があります。だからこそ彼らの語るユーモアはとびきり上質です。


 さて、出雲の逸話の宝庫と言えば「出雲国風土記」にとどめを刺すでしょう。

 神様達の逸話は、古事記や日本書紀に引けを取らないけれど、こちらのほうは出雲の地理誌としても優れていて、地名の由来はかなり面白いものがあります。

 若い頃は感ずるところが少なかったけれど、歳をとって面白さに気付いたのが中海に浮かぶ大根島の古い地名です。

 みなさん、大根島は御存じでしょうか。

 東西3km、南北2kmの小規模の島で、19万年前に火山活動でできた島です。牡丹が有名で、海外にも輸出している人気商品があります。

 観光名所としては由志園が有名です。




 この大根島、もともと古代は別の名前で呼ばれていました。


「蜛蝫(たこ)島」です。


 タコ?


 タコが何の関係があるの?

 そう思うのも無理ありません。実際、僕も若い頃は何て名前を付けてくれるのかと驚いたものです。そしてその由来を聞いて二度びっくり!

 「出雲国風土記」に「昔、日御碕にタコがいて、そのタコを鷲が捕まえてこの島に持ってきたから「たこ島」となった」と書いてあります。

 「たこ島」がなまって「大根島」になったそうです。

 当時、住んでいた住民から反対運動はなかったのでしょうか。


 しかし、歳をとってみると、この名前の由来もなかなか味わい深いものがあるなぁと気づきました。

 鷲がタコを加えて空を飛んでいる様子を想像してみてください。相当、グロテスクに見えませんか。

 タコだって逃げたいから必死で足をくねくねさせて、鷲にまとわりつきます。鷲も飛ぶのに必死で、見る側からは蛇行飛行しているようにみえたかもしれません。

 島の住民は「いったいどこからタコを捕まえて飛んできたのだろう」と騒ぎになります。すると隣村でもその鷲を見たという人があらわれます。そしてそのまた隣村でも同じことを言う人があらわれます。

 なんといっても日御碕から大根島までは40~50kmあります。鷲とタコは数村を乗り越えてはるばるやってきているわけです。大勢の人の目に留まったことでしょう。そして、しまいには日御碕で鷲がタコを捕まえるのを見たという人があらわれます。

 なんと、あの鷲とタコは日御碕からここまでやってきたのか、と島の住民は思ったことでしょう。

 ひょっとしたら、鷲は力尽きて死んでしまったのではないでしょうか(鷲が生きていたら鷲島になったのでは?)。タコの勝ちです。

 娯楽の少なかった古代においてこの珍事は村中のエピソードになったに違いありません。

 ちなみに「出雲国風土記」の島根郡朝酌郷のところに邑美冷水(おうみのしみず)という場所の記載があります。そこでは「東と西は山で険しく、南は海で広々とし、中央に沢があり、泉が流れている。男も女も、老人も子供も、時節ごとに集まって、いつも宴会する地だ」とあります。

 大根島から船で渡れるから、住民たちも寄り集まったに違いありません。そして焚火を囲みながら、鷲とタコの珍事を面白おかしく語ったことでしょう。

 そしてこの逸話は伝説となったのでした。

 どうですか、「たこ島」 

 ここで食べるタコ焼きはきっと格別な味がするでしょう。

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 こちらでは出雲神話から青銅器の使い方を考えています。

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