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「博士の愛した数式」小川洋子/著 を読んで、それと

 いつもありがとう、出雲黄昏です。

 
 
 少し自分の過去作を振り返って、思う。
 推敲してボリュームアップさせた部分が読み辛い要因になっている。
 
 推敲は大事、と思いつつもこねくり回しすぎて文章のリズムが悪くなっているのではと自己分析。
 いや、リズムもちゃんと意識して推敲しなさいって話しでもあるのだけれど。
 どーも苦手。
 わりとナマっぽい文章のほうが、描写は弱弱だけれどリズムやテンポが良かったりする。
 この文章なんかはナマっぽい。青臭い。素の自分の文体って感じ。
 というか単なる口語感……。
 推敲すると文章量が増えてしまう僕は、削る推敲を意識するべきだと。
 もっと痩せろ! と自分に言い聞かせるべき。
 カロリー制限。運動して痩せろと。
 そう自分の身体、もとい文章に対して厳しく当たるのが正解、
 なのだろう。か?
 沼。
 

 先日小川洋子先生の【博士の愛した数式】を読了。
 今さらながら。
 最近読んだ中でもっとも僕の心に響いた作品。
 約20年前に新潮社より刊行されたようだ。
 名作は色あせない。この言葉は至言。
 
 
 基本的に執筆中はあまり小説のインプットはしないようにしている。
 というのも、高い文学性の作品に当たると筆がバッキバキに折れるから。
 自分の作品が完成しなくなる。
 執筆中でも実用書や随筆っぽいものなら読めるのだけれど、文学性の強い小説は読むとしんどくなる。
 筆が折れても、折れた先の短い部分で書き上げるくらいの熱意がないとな……。
 
 未完の大作。
 小説書きならひとつやふたつ、必ず携えておられるでしょう。
 ご多分に漏れず、私もあります。未完の愚作。

 現在まさしく筆が折られてこの雑記を書いています。長編書けねえ。
 1万5千字で早々に停滞しています。
 そう、だからこれは単なる愚痴みたいなもんですよ。
 いや、書き進めることは可能ですけれど、よくある例の書き手あるある? ですよ。
「あれ? これ面白くなくね?」ってやつ。
 これだけならまだ耐えれるのですが、加えて
「あれ? これどっかで見たことあるな」です。既視感。
 この二重苦はしんどい。
 完成してもパクリと揶揄されること請け合い。
 作者がパクリじゃない! 本質は全然違うところにある!
 と言っても話しの流れやキャラ、舞台設定が近いと読み手からしてみれば印象は違うでしょう。
 あー、どうすっかな。
 初めから設定変えて書き直すか。
 まあアイデア被りなんてよくあることと割り切ってもいいけれど。
 比較されてしまったときに自分の文章力で勝てる自信がない。
 僕の場合商業作品と同じ土俵に立つことはなるべく避けるべき。
 
 あー、どうすっかな。
 また「気が向いたときにでも書くか」と甘える。
 ――そう、これは、
 呪いの言葉。
 そして本作は墓地に埋葬されていくのである。合掌。
 
 
 
 【博士の愛した数式】は、読み始めて数ページで目が潤んでしまうくらいの美しい文章に、震え。
 文学とはここまで美しく表現することが可能なのかと、唸った。
 唸り散らした。
 負け犬の遠吠え。でもある。
 まずこの小川洋子先生のレベルに到達するのはムリゲー。
 でも届きたい、そんな文学にいつか……。
 というのが本音。
 ではあるけれど、じゃ具体的にどうやんの?
 と、考えても結局は読んで書いてをひたすら繰り返すしかないのだと。
 日々の積み重ねよな。
 それでも、届きようがないものくらいはわかる。わかっている。
 だから尊敬の念を大切にして、近づきたいと願いつつ、自分の強みを伸ばしていきたい。
 そう、思うわけです。

 作中にオイラーの等式の美しさについて触れていましたが、実に理系っぽい解釈の美しさ。
「これがこうで、これらが同居するから美しい」
 ふむふむ、ふむふむふむ。学がなくてわからん! とはいっても、作中の主人公も同様、数学に関して知識が乏しい。
 なので主人公が読者に寄り添って共感の道を示し、アホな僕でも数学の美しさに触れることを体感させてくれた。
 これを文学で再現してしまうあたり、文学の奥深さを感じる。
 物語自体に大きな起伏はなく、意外性のある展開は少なかったように感じる。それゆえに現実性が担保されていて、物語の出来事ひとつひとつに破綻がなく、無駄な描写もないため読みやすい。
 小川洋子先生は削る推敲を意識して行う。以前にインタビュー記事で読んだ覚えがある。まさしく本作はその洗練された文体。
 見習うというと、おこがましい気もするけれど、素直に参考にしたい。
 ラストも博士とルートの微笑ましいワンシーンに、じんわり温まる。
 優しく美しい、そんな小説であった。
 

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