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AI時代の情報リテラシー

最近、調べ物をするときに検索エンジンを使うのではなく、ChatGPTのように人工知能に質問するといった選択肢を取れるようになった。

人間と会話するように何かを調べることができるというのは便利なもので、「謝罪文 例」などと検索しても結局は出てきたものを手直しする必要がある。「謝罪文を書いて」とAIに指示すれば文章そのものを教えてくれる。人工知能の学習元に対象となるものがあれば答えまでを直接導き出すことができるのである。

唯一の弱点と言えば、言語モデルの知識はそれを構築したときに固定されてしまうためニュースなどの最新の情報には無力なことだろう。例えばChatGPTは2021年くらいの情報が主に使われているとされている。新しい事態に既存の知識だけで対処できないのは人間と同じらしいが、それでも膨大な情報量を扱うことができるのは魅力である。

このような変化のおかげで発展する分野も数多くあるだろう。一方で情報の信憑性や偏りという問題点が指摘されることもある。前者はAIが間違った答えを事実のように話してしまうという問題であり、後者は提示される内容が特定の思想や団体の方へと偏っている、もしくは偏らせることが可能ではないかという懸念となっている。

今までは技術者のだけの課題であり、改善点ありと心に留めておくだけで問題はなかった。しかし研究室や論文を飛び出して世の中で使われるとなると話は別である。特に使う側の私たちは改めてその扱い方を考えておく必要があるだろう。

今回は情報の信憑性という点について考えてみよう。前提としてAIの知識のもとになるデータには誤りがないことが求められる。また、もし学習元に質問に対する答えとなるものがなかった場合、「データにない」と返答するのが理想的ではある。しかし完全に誤りがない情報を集めるのは不可能であり、先述したように最新の情報や学説と食い違うかもしれない。

このような理由で間違った答え、つまり人間で言うところの「知ったかぶり」をされると始末が悪い。我々は大抵は自分が知らないことを聞いている。当然のことだが、その真偽をすぐ判断するのは難しい。

情報の信憑性自体は今までの検索エンジンを使った調べ物でも何度か指摘されてきた問題ではある。しかし一般的なものであれば一応は複数の結果が表示されるため、いくつかの内容を見比べるなどして対処することができた。一方AIを使った対話型のシステムでは基本的に結果はひとつのみになる。また仮に同じ質問をしたとしても機械学習というものの性質上、似たような「知ったかぶり」を繰り返す可能性もある。

従来のものより信憑性が問題になるのは、人工知能が人間のように振る舞うことも理由の一つだろう。従来のように一方的に何かを教わる形ではなく、対等に話しているような対話の形式をとっていることは明らかな変化である。

何か疑わしい内容を目にしたとしよう。私たちは本や記事の上でのそれは荒唐無稽だと比較的簡単に笑い飛ばすことができる。しかし、もしそれを真剣に話す人に出会ったらどうだろうか。一対一の対話で話されるとなぜか信じてしまうこともある、というのは無数の詐欺事件が証明する通りである。もちろんAIに悪意があるわけではないが、受け取り手である人間が過剰に信頼をおいてしまうことは十分に考えられる。

回答が本当に正しい内容であるか、という判断はやはり複数の情報源を持つことでしか解決できないだろう。ただし以前と違って注意するべきなのは出典元である。確かめるために調べたサイトの情報が自分と同じように「人工知能の回答から」の引用なら意味がない。これまで以上に情報の精査が必要になるだろう。

そういった点では書籍や文献での調査と組み合わせるのがよいかもしれない。これらは公表や出版という関門を潜り抜ける必要があり、さらに内容も後から変更できないため情報の真偽には注意を払っていると考えてよいだろう。もちろん間違っている資料もあるだろうが、データと違い焚書でもしない限りは実体が残っているため見返すことはできる。論文などは出典にも厳しい。

適当な資料を探し出すことや読み解くことに時間がかかるのが難点だったが、ここはAIを使って短縮した時間を使えばよい。構想の段階での漠然とした質問を人工知能に向け、核心部分であり正確さが求められる部分に本格的な調査を集中させることもできるだろう。人間に近いというAIの特徴を活かして独りで役割分担するといった具合になる。

人工知能の台頭で大きな変化が起こることは確かだが「革新的な」人たちがいうように理想的な世の中になるのかまではわからない。変化に対して対処するためには情報に対する姿勢や対話への考え方など、今まで持っていた観念をとらえ直すことも必要になってくるだろう。これは人工知能の進歩を追いかけていくことより難しいかもしれない。しかし賢い機械に働いてもらうなら、私たちもそれ相応の努力がいるのだろう。


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