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サブスク時代のチキン・レース

最近の音楽ストリーミング配信サービスでのハイレゾ音源、空間オーディオ音源の配信はメジャー・レーベルとワールドワイド契約をしてるアーティストに留まらず、インディー・ロックの若手、新人にも拡大してきている。リスナー側としては歓迎するべきことではあるんだけれども、喜びつつも心配にもなってくる。サブスク全盛の今、デジタルでもフィジカルでも、音源を買ってもらうハードルは確実に上がっている。

ド新人にとっても当然そうだけど、2枚目、3枚目を出すバンドがいちばん苦しい。これはサブスクもデジタル・ダウンロードもなかった時代からずっとそうで、限られた可処分所得の中から新作を買おうとリスナーが思うのはまず、ずっと好きで出たらいつも買うアーティストのアルバム。その次に話題になってる新人、そして余力があったら1枚目を買ってみて良かった、既に知っているアーティストの新作。誰にとっても2枚目は難しく、3枚目は大きな壁になる。4枚目が出せたらそこで真価が問われる。

っていつまで経っても大変じゃんて話なんですけど実際、音楽で食っていく、レコード会社と契約を継続して作品を出し続けてそれで生計を立てるというのは大変なことだし、「いい作品を作ればファンはついてくる」なんてヌルい世界ではないのは音楽ビジネスに関わってない人にも体感できる部分だと思う。ビジネスだから当然、ある程度の戦略は必要になってくる。

サブスクに毎月メンバーシップフィーを払ってるけど音源を買わない人は当然多い。そんな中「サブスクは広く世界に知ってもらえるチャンス」みたいな肯定的な提灯記事が定期的に出るけど「サブスクは大海の中に埋もれる一滴になるドツボ」の間違いでは?といつも思う。だけどサブスクを肯定する意見を見てはモヤモヤした気持ちを払拭して、それをポジティブな事実として受け入れ、サブスクにはお金を払うけど音源を買わなくても満足してしまう人たちはとても多い。そしてそれを責めるわけにもいかない。でもその人たちに財布をどうすれば開いてもらえるのか、音楽業界は常に頭を捻っている。

実際、それはとても難しいことだとリスナーの立場から見ても思う。CDを買ってMacに取り込むよりももっと高音質で、サブスクで聴けてしまうならCDを買うのって完全にお布施以上の意味がなくなってしまうやん?と。

最近、Spotify、AppleMusic、AmazonMusic、サブスク3社の比較をするべく研究していて気付いたことがある。リリース直後は空間オーディオで配信した作品でも、しばらくしたら空間オーディオをひっこめて単なるロスレス(HD)に変換されてる音源があったりする。つまり、リリース初週からフィーチャーしてもらい、サブスク・チャートの上位に入れるために、配信元が求めるハイレゾとか空間オーディオに対応した音源を納品するけど、そっちばっかり聴いてもらっても買ってもらえなきゃ意味ないから、初週チャートの数字が出たらその後は引っ込めてもいいやという思惑なんだろうなと思う。大正解ですよ、その戦略。

私は若手、新人でいいバンドを常に探していると同時に昔から聴いてるバンドのも新作が出れば聴いてるし、久しぶりに聴きたくなったものを引っ張り出してきて聴くこともあるけども、20世紀にデビューしてン10年活動してるバンドは概ね、ハイレゾ化は積極的じゃない。モリッシーとかキュアーとか、デペッシュ・モードとか、空間オーディオなんて一切ない、ハイレゾなにそれ状態で、ギリギリロスレス(HD)までの音源しかサブスクには公開していない。レディオヘッドももちろんそう。レディオヘッドBandcampで音源を売ってるので、そっちで買えばハイレゾ音源をダウンロードできる。



でもサブスクだとそれより音質下げたものを配信している。大正解ですよ。だってサブスクの方が、お金出して音源買うより音がいいって、おかしいもの。

今の時代はサブスク配信元に首根っこを掴まれたレコード会社各社は渋々仕方なくハイレゾ音源を納品して、なんとか大海の中に埋もれることなくフィーチャーしてもらおうと頑張ってるんだろうけれど、ぶっちゃけ、盗人に追い銭だよなあと思う。どこまで要求を飲むか、チキン・レースになってるように見える。そのチキン・レースからさっさと撤退してるレディオヘッドその他のバンドは自分たちに決定権があるというのも大きいけれど、若手の新人たちがハイレゾロスレス(UHD)で空間オーディオで配信しているのを見ると「嬉しいけどやめた方がいいよ?」みたいな気持ちになる。特に、大きめのインディー・レーベルと契約してる若手アーティストたち、マタドールスネイル・メイルとかデッド・オーシャンズジャパニーズ・ブレックファーストは会社の方針でそうなってるんだろうけど、




レーベル契約無しでSNS発信を中心にフリーで活動してるようなアーティスト、Berなんかがそうだけれども、わざわざ空間オーディオとかハイレゾロスレス(UHD)で配信しているのなんかは、フィーチャーしてもらうために必要だからやってるんだろう。


でも再生回数は上がっても購買機会の損失に繋がってないかと心配になる。それでも、若手はそのチキン・レースからなかなか降りられないんだろう。

今日の1曲



今日のパンが食べられます。