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バナナはおやつに入りますか?

空間オーディオってハイレゾですか?ってそういう話だよなあと思うのです。まあ入るんだけど、出来れば別物としてカウントしたいよねバナナと一緒で、みたいな。

Apple Musicだとロスレス、ハイレゾ・ロスレスApple Digital Remastersという表記もある。それと別に空間オーディオとしてDolby Atmos対応音源がある。Amazon Musicの場合は標準音質の上にHD、UHD、空間オーディオとしてDolby Atmos360 Reality Audioがある。なんでいちいち名前違うのつけるの、エリザベスとリズとベッツィーが同じ名前っていうの以上にわかりにくいだろと思うんですが、HDとロスレス、UHDとハイレゾ・ロスレスは同じだと思っていい。

あんまり厳密な話に持っていくと、読み進めるモチベーションは失われる一方だと思うので雑な書き方になるけれど、ロスレス=HD=CDと同じくらいの音質(CD音質は16bit 44.1kHz、ロスレスは24bit 48kHz以下のもの)、ハイレゾ・ロスレス=UHDはCDより高音質(24bit 48kHz以上でApple MusicもAmazon Music HDも192kHzまで対応)。解像度の高い音、つまり写真と同じで、輪郭がよりはっきりくっきり鮮明になるのがハイレゾ音質。

じゃあ空間オーディオってハイレゾなん?という疑問に関して言えば、CD音質から上がハイレゾで、通常Dolby Atmosや360 Reality Audio対応音源てHD以上のものばっかりだからハイレゾですよねって話でいいと思う。

Beckがペイズリー・パークでレコーディングした、ほぼ放送事故に近い「なんでこのテイクを出していいと思ったの?」みたいなプリンスのカバー「ザ・ペイズリー・エクスペリエンス」はAmazon Music UnlimitedだとHDでDolby Atmosで配信されている。あまりの事故りっぷりなのでいつ配信、販売をやめて作品を引き上げてもおかしくないため私はiTunes StoreApple Digital Remastersの音源を購入した。その購入したハイレゾロスレスの音源、Amazon Music UnlimitedのHDとDolby Atmosとそれぞれ聴き比べてみたけど、Dolby Atmosで再現された臨場感が圧倒的なのだ。圧倒的にミックスのおかしさが伝わってくる。ボーカル・マイクのリバーブのかかり方が場末のスナックのカラオケ並みなのだが、HDで聴くと伝わりにくい。購入したハイレゾ・ロスレスでも面白さが足りない。Dolby Atmosで聴いてこそ抱腹絶倒なのだ。つまり空間オーディオが提供する臨場感が上げてくる解像度という側面も、あると体感できる。

だけど空間オーディオってあくまでも、立体的な音、奥行きを感じる音、手前と奥で違う音が鳴ってる的なバーチャル・サラウンドという、音の奥行きの話であって解像度の話ではないから、ギリギリCD音質くらいの音源をDolby Atmosで空間オーディオにして配信してる音源もあったりする。

20世紀のヒット作品なんかはマスタリングし直してUHDまで解像度を上げてあるものがたくさん配信されている。20世紀の終わりまではリマスターって人工的なクリーニングって感じで、綺麗になったけどあった方がいい使い込まれた感まで削ぎ落としてて、これなら古いのそのまま聴いた方が良くない?って程度までしか技術が進んでいなかったけど最近はもっと技術が進化した結果、ハイレゾ化されることで昔っぽいこもった音ではなくなって、古臭さを感じずに楽曲そのものの良さを感じられる、普遍性を引き出す方向での解像度のアップになってると感じる。

そういう意味では若い世代に「昔のもの」という先入観をなるべく持たれずに普遍的なものとして聴いてもらえる可能性が拡大したのでいい形の進化なのではないか。なおかつ、20世紀のヒット曲はUHDまで解像度を上げたものを空間オーディオにしてるとさらに今の時代の音になる。

Amazon Music Unlimitedでは空間オーディオ再生と空間オーディオなしを選択できるので曲を聴きながら途中であり、なしを切り替えながら聴いてみると面白かったりする。例えばアース・ウィンド&ファイアのSeptemberはUHD(24bit 96kHz)で空間オーディオ(360 Reality Audio)で配信されているんだけど360 Reality Audioの音に比べるとUHDのみの音は、音が横に並んでるみたいな感覚で解像度は高いのに「昔ながらのレコーディングのサウンド」を感じさせるので面白い。解像度が上がってもなお、空間オーディオと比較するとそう感じるのだ。

そこで他のアーティストの作品も空間オーディオと空間オーディオを切ったハイレゾ・サウンドで聴き比べてみることにした。全てAmazon Music Unlimitedで配信されている音源。

フォールズ
Life Is Yours (2022年)
UHD(24bit 48kHz) 空間オーディオ(Dolby Atmos)
空間オーディオで聴くと細かいいろんな音が手前から奥から湧いてくるので空間オーディオ向きのバンドだと思う。とはいえ、Dolby Atmosを切ってUHDで聴いてもそれほど差を感じないんですよね、最近のレコーディング・サウンドのトレンドが既に空間オーディオ意識した立体的なサウンドを目指してるから。

フランツ・フェルディナンド
Hits To The Head (2022年)
UHD(24bit 96kHz)
このアルバムはUHDのみで空間オーディオでは配信されていない。その代わり96kHzなのでそれなりに解像度は高い。フォールズを先に聴いてからフランツを聴いてみると、空間オーディオになってないのにそれに通じる立体感を感じた。これはフランツ独特のサウンドメイキングのせいだと思うけれども、本作はベスト盤なのでTake Me Outみたいに古い曲(2004年)はハイレゾ化されて解像度が上がっていても「空間オーディオで聴いたら面白そうだな」と思ってしまうくらいには奥行きや立体感は足りてない。

ジャックス・マネキン
Everything In Transit(10周年記念版) (2015年)
UHD(24bit 192kHz) 空間オーディオ(Dolby Atmos)
2015年に10周年記念としてリマスターしてリリースされたので2005年のアルバムですね。Amazon Music HDは24bit 192kHzまで対応と謳ってるわりに、96kHz以上の音源て実は中々見つからない。私が聴いてるロックの音源の中でこれが唯一、24bit 192kHzでしかも空間オーディオ対応(Dolby Atmos)。2005年のアルバムとはいえ、リマスターされたのが2015年だからなのか、正直言ってDolby Atmosで聴いても、空間オーディオ切ってUHDで聴いてもほとんど違いがわかりません。もちろん、多少はあるんですよ、奥行きの違い。だけどぶっちゃけ「空間オーディオありでもなしでもどっちでもいいよ」くらいの差でしかない。

マイルス・ケイン
Coup De Grace (2018年)
HD(16bit 44.1kHz)
空間オーディオじゃないのに、ギリギリHDのCD程度の音質なのに、奥行きを感じる不思議なサウンドなのよね、マイルス・ケイン。特に9曲目のSomething To Rely Onなんかはすごく立体的な音作りになっている。

こうして聴き比べてみて段々わかってきたのは、ロックに関して言うと何ビットだとか何キロヘルツだとかDolby Atmosだとかって以前にバンドの演奏力やサウンドメイキングのスタイル、センス、その時代のレコーディング・テクノロジーのトレンド、サウンド・エンジニアの技量と、バンドとのヴィジョンの共有がどれくらい厳密に取られていて、それがきちんと実現されているかどうか。これが満足度に関係してきて、数値はまあ視覚的な満足感を満たすものかなあということ。フランツのTake Me Outもリマスターされたら空間オーディオになってなくても満足度は上がるんだと思う。今のサウンドのトレンドに合わせて立体感を意識したマスタリングになるんだろうから。フランツ・フェルディナンド、アークティック・モンキーズからマイルス・ケイン辺りの流れっていうのは今の時代を先取りした立体感のある独特なサウンドを目指していたと、振り返って実感する。アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーとマイルス・ケインが一緒にやってたザ・ラスト・シャドウ・パペッツもそう。

私は音の革新性という部分に非常に鈍感なタイプなので、アークティック・モンキーズやフランツ・フェルディナンドが出てきた時も「なんかすごい新しい」「すごいのはわかる」みたいな雑な感想を持って聴いていたし、取材で会っても通訳なので自分の言葉で語るのではなくライターさんが手を替え品を替えどんどん載せてくる数々の「すごい」の言い換えをそのまま訳せばいいだけだったので「すごいのはわかる」と思いながらひたすら、敬意を持って訳していただけだったけど、20世紀発の天才たちと同じく、00年代発の彼らは、凡人の私たちよりずっと遠くが見えてる人たちだからすごいんですねと今更ながら答え合わせをしつつ今日もせっせと聴いています。


↓はフル試聴出来るようにSpotifyから貼ってるのでハイレゾ音源じゃありません。実際のハイレゾ音源は文章中にリンクを貼っています。特にBECKはハイレゾ音源での試聴推奨です。








今日のパンが食べられます。