代々木八幡の住戸について

藤本綾+信田匡康/チンドンのマンション住戸改修を拝見した。代々木八幡のご自邸である。

各種高度制限に切られた最大ボリュームの最上階にあり、その階には一住戸しかないのでペントハウスのように独占的であり、縦動線と設備シャフトの残余である住戸はC型のような平面であって、壁面もところどころ傾斜している。さながら岩山の頂上のような立体感と眺望であり、都市から削り出された豊かでワイルドな場所だった。

奥行きが小さい同心円状のC型平面には、さらに同心円状の壁で分節されて、そこにはメラメラと銀色に光るトタンが貼られている。トタンの内側は水回りと寝室で、トタンの外側はいわゆるLDKと仕事場である。この外周部は全面がテラスを介して都市風景に開かれている。

トタンの壁には錠がつけられている。錠を締めれば外周部を他者に貸し出せるから、だそうだ。設計者のお二人は「プランニングをして、こどものリクエストで虹色のように仕上げて、錠をつけたら貸せるようになった」と仰っていたが、訪問させて頂いた身からすると「公私併存と外部性を住戸にもたらすために鉄板の壁を立てた」という恣意が感じられた。

改修前のスケルトン状態で、すでに廃墟スタジオとしてポップアップストアやコスプレ撮影スタジオとして貸し出してみたとのことだし、改修して住み始めてからも他者への時間貸しをしている。仕事場で仕事をしている横で、他者が違うことをやっているそうだ。やはり公私併存と外部性を住戸にもたせる恣意があるとしか思えない。

ここは区分所有法に基づいて所有されている集合住宅の一住戸であるが、ここで繰り広げられているプログラムは居住だけではない。都心5区の強烈なポテンシャルとシェアリングエコノミーの浸潤により、住戸の完結性は解体されている。51C以降・不動産証券化によるnLDK住戸の規格化や、規格化住戸やその集合による家族の閉鎖性を批判したのは過去のことである。


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