オィディプスとアンジェラ Ⅱ
アンジェラは静かに王に近づく
ア ン 王様 医官の話では命には別状はなく 傷ついた左目
は完全に失明されましたが右目は急所が少しズレていて
以後の処置によっては光が微かには視える程度の回復は
可能かもしれないと・・・故にこの一週間は絶対安静される
こと毎朝毎夕包帯を代えて消毒及び薬を塗布することが肝要
とのことです
王 一週間か・・・長いな・・・しかし闇に慣れるには丁度良いか
も知れない 旅の支度もしなければならないし・・・
ア ン それは、私めにお任せを。オイディプス王におかれましては
・・・」
手を振りアンジェラの言葉を遮って
王 いいか、現実を視よ 私はもう王ではない 盲しいた私はただのしょ
うがい者 奴隷以下の身分で身過ぎ世過ぎをなさればならぬ
ア ン お言葉を返すようですが・・・それでも王はしょうがい者がな
んたるかをわかってはいません しょうがいを生きるというのは
そんな簡単なことではありません 生半可な覚悟では生き切れ
ません
王 わかっておる 覚悟は出来ている 確かに運命(さだめ)に抗って
人は生きてはいけない
だがその運命を抗い切るなかで必ずや運命は変えていける筈だ
もう一つの物語を今から生きる それだけの意志はある
ア ン それを聞いて安心しました もし差し支えなければ・・・お願いで
すから私をず っとお側において下さい
王 良いのか、ほんとうに?
ア ン はい 王様には奴隷の身から救って頂いて 取り立てて頂きました
何処までもご一緒するのが義と存じます
王 忠ではなく義か?お前らしいな・・・遠い妹が確か言葉が不自由
であったなアンジェラとは確か双子の兄妹
ア ン はい その通りです 生まれついてのもので言葉が語れず それ故に
悔しい生き様を強いられて 今は祖母と一緒に行商の旅を続けて
いる筈ですが・・・定かではありません
王 私が名も無き者の群れの中で生きるのは 私の運命を白紙にし
て私自身が無となり 虚となり、空となりたいからである
ア ン されど・・・
王 もう言うな・・・これ以上は・・・一週間後に話すことにしたい
今は眠りたい
盲しいた人間がどんな夢を視るのかそれが知りたい
ア ン わかりました では一週間後にまたお話を・・・・・ゆっくりお
休み下さい
アンジェラは何故か清々しさに胸を張って自室に戻った Ⅲに続く
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