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Nosutarujikku novel Ⅱ 小雪③

そこでの初めての給料日、僕は小雪さんに電話した。電話には、彼女が出た。独特の声の響きですぐにわかった。
「僕です」
「ひゃあ・・・君。元気でやっている?」
「はい、仕事にも、この街にも慣れて来ました。午の仕事にも転職もし
 ました」
「ほんとう・・・それはよかったね。で、今日は何か?」
「ええ、初めての給料貰ったので、この間のお礼をさせてください」
「無理しなくていいわよ、気持ちだけ頂いとくわ。私が奢ってあげるか
 ら・・・ちょと待ってね・・・明日の夜7時3丁目の☆☆☆でわか
 る?」
「ええ、大丈夫です、わかります」
「じゃぁ、明日楽しみにね・・・」

 当日は、牡丹雪がふりそそぐとても寒い日だった。彼女は驚くほど明るく、陽気におしゃべりをした。
「どうしたんですか?何か良いことありました?」
「ふふふ・・・まあね。旦那が外泊しなくなったの」
「へぇ・・・どうしてですか?」
「あの日、君に声を掛けられたことを話したら、随分と考えて変わった
 のよ」
「ふ~ん、男と女の仲はわかりませんね」
「馬~鹿、何知った口を利いているのよ」
「ああ、すいません。でも良かったじゃないですか」
「まあね」
「旦那さんの職業は・・・・・ああ、すいません。立ち入ったことを聞
 いてしまって・・・」
「いいのよ、髪結いの亭主といっても絵描きなの」
「なるほど、そうでしたか。芸術家タイプに弱い?」
「さあ、どうかしら・・・そんなこと考えたことないわ」
「・・・僕は、詩を書いているのですが・・・」
「ふ~ん、一度視せてみて 」
「いいんですか?ほんとうに・・・」
「馬~鹿~!」
2回目だというのに、僕たちはまるで旧知の仲みたいに、他愛もなく、しかし意味を探りながら、その意味を軽くしたり、重くしたりして会話を楽しんだ。
「じゃぁ、手紙書きますね」
小雪さんは、頷いたが言葉を発しなかった。僕はその翌日から明け方までかかって、小雪さんに手紙を書いた。


   北の街で初めて出会った人 小雪さんへ

 ほんとうに、あの日小雪さんにお会いできなければどうなっていたか・・・ずっと感謝しております。北の街での冬の生活は、否応なく僕を内面の世界へと意識を誘います。

ポーのユリイカ(宇宙論)と詩集を読みながら、詩やシナリオを書いています。
次の詩?はあなたへのオマージュであり、僕の偽らぬ気持ちを歌ったものです。
次回、お会いした時に、感想などをお願いします。

澄み渡った空 風花が舞う
雪が降るたびに あなたのことを想う
陽光の薄いレースの束の襞を遮り 風花が舞う
雪が降るたびに あなたに逢いたいと想う

風花が舞う彼方より 現れしは
雪の聖女たる小雪 あなた
雪はその聖なるものの証しと
世界の浄化を現し

あなたのその微笑みは
あらゆるものを赦し 慈しむ

だけど小雪あなたは
あるがままに振る舞い あるがままに話す
おおきな声で笑い
その瞳で世界を視て 理解し 人々を魅了する

小雪 嗚呼 この言葉の響きは
なんて甘美なのだろう
小雪 この韻律のバイブレーションは
僕のこゝろの裡で 鳴り響く

でも 僕はあなたの後ろ姿しか視ることができない

でも 僕はあなたの影しか踏むことができない

それでもいい あなたを感じられるのであれば それでいい

小雪 この言葉(ことは)の響き 永遠に響けよ!

小雪さん ほんとうに感謝して、あなたのことを想っております。

                    
 季節はクリスマスを過ぎて1971年が暮れようとしていた。
この街、札幌は冬季オリンピックの開催地で、翌年の2月3日から始まる予定であることをこの街に来て暫く経って知った。それで人手が入るので、僕のような流れ者でも職にありつけたのだと想った。外国の人達をよく見かけるようになった。

「良いお年を・・・」とだけ伝えようと僕は彼女に電話を入れた。
「お正月はどうしているの?」
「ずっとアパートにいます」
「よかったら二日の日に家に来ない。石狩鍋をご馳走してあげるから」
「ええ、ほんとうですか、いいんですか、せっかくのお正月を・・・」
「彼も是非にと言っているからいらっしゃい」
「わかりました。時間と場所を教えて下さい」
年が明けて二日の日に、僕はお酒を持って彼女の家を訪ねた。
二人とも着物姿で、僕を歓待してくれた。
彼は、その端正な顔立ち、髪型、崩れぬ姿勢、絶やさぬ微笑みで、正直画家より、図書館司書といってもおかしくない人だった。

僕たちは、よく食べ、よく飲み、よく会話をした。
最後には、花札までして遊び、終日過ごした。  
                           ④に続く

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