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僕の暗黒 過眠症

(続)

最初に睡眠障害を疑ったのは25歳くらいだったか。
学生の頃は単なる居眠りで済まされていた。でも22で商社マンとなったとき、入社直後の研修、入社後の本格研修、会議、あらゆる場面で居眠りをした。
どんなに夜しっかり寝ても駄目だった。昼間の強烈な睡魔。一度睡魔に襲われると、奴は僕が落ちるまで何時間でも追いかけてきた。当然周りからは「何寝てんだよ」という評価がくだる。
どんなに一生懸命仕事をしようとしても、そんな僕の気持ちを暗黒は軽く踏みにじってきた。立っていようが人と話していようが、緊張の場面だろうが、暗黒にとっては関係ない。数えきれないくらいの悔しい思いをした。

この暗黒のせいではないのだが、訳あって僕は仕事を変えることになった。ある職人の世界。それが今の仕事。
仕事を変えても暗黒は変わらず襲ってきた。最初に病気を疑ったきっかけが何だったのかあまり記憶にない。たぶんインターネットも普及してきて、自分で調べた気がした。睡眠障害の病気があることを知ったとき、間違いないと自分で確信し、同時に「治るのかも」と大いに期待した。

行ったのは東京の睡眠クリニック。一泊の検査をして「ナルコレプシーまではいかないが、入眠スピード的にも過眠症だ」と言われた。ただこの時、ナルコレプシーまでいかないと言うのは、若干違うと思った。なぜなら数回の睡眠検査する際、一度だけまだ寝てはいけないのにすぐに眠りに入ってしまい、検査士に起こされたのだ。この時に完全に目が覚めてしまい、その直後のテストだけ入眠スピードが極端に遅くなった。このロスタイムが足を引っ張り、ナルコレプシーまでは至らないと判断されたのだ。とは言え、過眠症と診断されたのだから、何か治療する術を教えてくれるのかと、とてもとても期待をした。
しかし残念ながら、薬をもらうだけであった。
確かにこの薬は昼間の眠気が嘘のように抑え込まれた。最初のうちは充実した日中の時間を過ごせることがとても嬉しかった。でもその反動で夕方仕事から帰る頃はいつも以上にぐったりした。薬はたしかに僕に明るい未來をくれそうであったが、薬に頼るのは嫌だった。薬がないと駄目な生活なんて。
だから別の方法を選らんだ。隙を見ては寝るという単純な方法。幸いこの病気も手伝い、いつでもすぐに寝れる脳だったので、本当にちょっとした1分2分でも寝るようにした。瞬間的に落ちるだけで暗黒を誤魔化すことができたから。昼寝は当たり前。これが僕の薬に頼らない生き方だった。

でも毎日いつでもちょい寝ができる時間があるはずはなく、昼寝が出来ない時は本当に怖かった。いつ暗黒が襲ってきてもおかしくなかったから。勿論そういう時は毎回襲われたのだが。この恐怖は決して他の人には理解してもらえない。
暗黒を持っている人の日常は、一日中が恐怖なんだ。朝起きたら「あー、今日は車の運転があるのだろうか。ちょい寝できるのか。居眠りしてもバレないだろうか」と毎日考える。昼間は恐怖と闘い、夜には「少しでも早く寝ないと」と気持ちが焦る。沢山寝たところで暗黒は容赦なく襲ってくるのにリスクを減らすために睡眠時間は確保した。

この朝の思考を45まで仕事の日は毎日繰り返した。毎日毎日朝起きて繰り返したんだ。誰にも理解してもらえない苦しさ。家族でさえも理解はしてもらえなかった。理解してもらおうなんて思わなくなった。絶対にわからないから。

ただ、僕は諦めるのが嫌だったので、自分なりに自分の身体を研究した。食べ物が原因なのかと疑えば、遅延性のアレルギー(これは普通に生活していてはほぼ影響がないアレルギー)が自分にはあるのかを調べ、数か月食事を変えた。水分が不足しているのかと思ったら、意識して水分を摂った。身体の柔軟性が脳への血行不良なのかなと考えて、柔軟運動を沢山した。布団に問題がないか、パジャマに問題がないか、睡眠環境も色々試した。20年経ったころ、何か新しい発見を求め再度1泊の検査を別の病院でやったが、結果は同じだった。20年ちょい、毎日悩まされる生活の中で諦めることなく沢山の事を試した。その間、医療が進歩して治療法が見つかることを願ったが叶わず。

そんな中、今度は自分がADHDだと診断された。ただ、僕の場合は生活上そこまで問題にはならない程度だったし、これについては脳に電気刺激を送って治療するrTMS療法というものを一部のクリニックで受けられた。なのでこの治療を受けることにした。そしてこの時初めて、「ADHDの人は日中強い眠気があったりする」と知った。「えっ?ここで繋がるの?」と衝撃的に驚いた。そして凄く凄く期待した。

まず10回治療をした。3回目くらいから明らかに朝の目覚めが違ってきた。そして10回を終えたとき、このクリニックを受診したきっかけとなった、頭のグチャグチャは収まっていた。そして日中の暗黒も鳴りを潜めていた。数か月良い状態が続き、3ヶ月経ったところで、何となくまた暗黒が出てきた気がして更に10回治療をした。この2セット目の10回を終えてから半年以上経つが、暗黒は落ち着いている。

日中眠気が来ても、少し耐えるとなくなっている(これが一番驚いたこと)。運転も怖くなくなった。大事な会議も起きていられるようになった。念のため昼寝をできる時はするが、その時に夢を見なくなったし(これは過眠症等の症状)、そもそもすぐに眠れなくなった。暗黒が僕の中から去って行った。喜びながらももしかしたらまた暗黒が戻ってくるかもしれないとは思っている。でも「また治療をすればいい!」。こう思えることがどれ程心を軽くしてくれているか。

脳というものを、研究している方は沢山いる。睡眠の病気を研究してくださっている方も沢山いる。でも、これはそういった方達には否定されるかもしれないが、僕が思うに、そんな理屈では測れない物なのが人の身体にはあるということだ。

1泊の検査を20年空けて2回受けても「眠りの質」について言われることはなかった。でもrTMSを受けたら明らかに朝の感じが変わった。そして昼間が変わった。つまりそれは、夜の眠りの質が変わったことが、昼間に影響した気がする。勿論rTMSで脳が活性化した影響で、日中の脳の活動が変わったことも間違いないはず。

もし、僕と同じく暗黒に悩まされている人がいるなら、是非諦めずに試して欲しい。治るか治らないかは、偉大な脳が決めることだけど、何かが変わる可能性はそこにはある。何もせず、人の理解を得られず、毎日苦しんでいるのなら、まずはやってみて欲しい。これが僕から暗黒を持つ皆に発信できる選択の道です。

次回は、rTMS治療中における、僕の感覚の変化を伝えられればと思います。


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弓 てつひろ
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