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晴れの日に傘を買った。(日記:2021,05,09)


晴れの日に傘を買った。
なんということはない、母の日のプレゼントだ。
私は今一人暮らしをしているから、あまり母の顔を見ることはない。正直すぐに帰れる距離なのでしょっちゅう帰っていないことはないけど、それはそれ。雰囲気って大事だ。

いつも会っては生意気な事ばかりいう星宮だからこそ、こういうイベントごとは大事にしたい。俗に言う「好感度調整」というやつだ。
まぁ冗談なんだけど。

やっぱり、1年間の感謝というのは伝えておきたい。何故なら明日も母が生きていてくれるとは限らないから。
星宮の仕事は間接的にだけど命を守る仕事だ。正確には命を守る為に必要なものを手助けする仕事。
そんなんだから、「まだ若いから」とか「昨日まで元気だったし」なんて言葉が薄っぺらく感じる。

本当に、人っていつ死ぬか分からない。
もちろんそれは星宮だってそうで。握りしめた傘を手渡す瞬間だけを楽しみに帰っている途中、車に轢かれてしまうかもしれない。綺麗な傘はみっともなく折れてしまって、真っ赤だったのに黒く変色して母の手元に届く可能性も0じゃない。だからちゃんと買おうと思った。

渡せない距離の人は送ってもいいと思う。今の時代Amazonが指定住所まで届けてくれるし、運送会社だって運んでくれる。当然「母の日なんて祝えるか!」 って人もいると思う。そういう人は、誰でもいいから大切な人をちょっとだけ大切にする日にしてくれたら嬉しい。

さて、初めて高い傘を買った星宮の話に戻ろうと思う。
今回まぁまぁ有名な百貨店でそこそこ良い傘を選んできた。傘の相場なんて分からないんだけど、いつもは500円のコンビニ傘かせいぜい1000円程度の柄物しか使わない星宮にとって、綺麗な赤い傘はほどほど高いハードルだった。

開いてみて、びっくりするほどの発色に面食らった。「これが1万円オーバーの傘か……」と素直に思った。視界いっぱいに広がるダークレッドと細やかな模様。クルクル回してみると模様が不思議といなくなって、ちょっとだけ明るくなった赤がダンスを踊っている。
きっとあれはフランメンコだったと思う。とても鮮やかだった。

これをもう良い歳をしている母が差すのかと考えて、良く似合うだろうと嬉しくなった。母は上品な人だ。色々苦労してきて、家の誰よりも働いている。
喜んでくれるだろうか。プレゼントはあげる側のエゴだから「派手ねぇ」と溜息を疲れたって構わないのだけど、喜んでくれた方が私も嬉しい。

今日は白い雲が暇そうにしている晴天で、街で傘を持っているのは私だけだった。少し特別になった気分で箱に入れられている傘を抱えて歩く。
でもあまりに暑いから近くの喫茶店に入って、甘い珈琲を頼んだ。母は仕事中だ。本来は休みなのに仕事に行っている。ここでゆったりと母を待つのも良いかもしれない。

そうすればきっと、私も車に跳ねられない。

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