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第36回「第1回下田ワーケーション研究会~ワーケーションは変異する(後編)」

 ワーケーションの担当課長のHさんは、下田市のワーケーション推進イメージとして、「Work&Vacation」以外のテーマを提案した。

「まずは、Work&Social Contribution(地域課題解決)、そしてWork&Innovation(新規ローカルビジネス発掘)、最後にWork&Collaboration(市役所と市内関係者との連携、交流)です。今後は、下田スタイルのワーケーションを確立できればと考えています」

 正直言って、「Work&Vacation 」の寄り付きはイマイチ感を拭えない。「Living anywhere commons」のワーケーション施設ができて、手探りで1年近く進めて来た中で、もうひと押しほしかった。

 ただコロナ禍が広がる中で、都市部に本社を置く大手企業にとって、これまで考えられてきた災害被害に加えて、感染症予防策もこうじなければならなくなっている。

 リスクを回避するためには、ワーケーションはかなり重要な対策となり、リモートワークが一気に進んだことも相まって、ワーケーション導入への機運は高まってきている。

 企業側にしてみれば、使い勝手のいい地方の町が、ワーケーション導入にはもってこいである。

 もとより光回線が通っている下田は、ネット環境はいい。東京から直行特急列車で2時間半の立地もまずまずである。観光地なので、宿泊施設は整っている。

 下田の吉佐美に立地するホテルジャパン下田は、会員制の高級ホテルだが、昨今はこんな現象が起こっていると、研究会で支配人が発言した。

「家族でお越しになるのに、二部屋ご予約されるお客様が増えています。一部屋は家族用、もう一部屋は仕事用にご利用になられています」

 会社の幹部ならこんなホテル利用もあるだろう。

「ですから、今後、ワーケーションへの取り組みも、社内で考えていこうと話し合っているところです」

 ワーケーションは、観光地下田が、観光地だけではない利用を促進し、交流人口を増やすという大きな目標がある。

 そこへ向けてライフルは、今回の研究会で「1万人のファンづくり構想」を発表した。

 人口減の時代の中で、この3年で1万人の新たな関係人口を作ろうというのだ。

 ①下田ファンを2,000人、②旅行者を3,500人、③単なる関係人口1,000人、④移住、多拠点移住者100人、⑤ワーケーション2,400人、⑥支援者、投資家1,000人である。

 僕の担当する空き家バンクは④に該当するが、1年弱ですでに30人をカウントしているので、今後3年で100人は、かなり低い数値目標である。我々の年間目標は50人なので、我々だけでも150人になる。

 ②もワクチンが開発されてコロナが収束に向かい、外国人観光客対策ができれば、簡単にクリアできそうな数字だ。⑥が一番問題で、お金持ちは少ないのが世の常である。数字全体をもう少し精査する必要がありそうだった。

 そして地元としては、ワーケーションに留まらず、この町をになう次世代の人たちを作る必要にかられている。それには、やはり、首都圏を中心にした大都市部からの人の流れをつくらなければならない。

「その大動脈こそがワーケーションなんですよ」

 そう語るのは、東急エージェンシーから出向し、下田市のシティープロモーションアドバイザーの役目に就いているhさんである。彼は下田のワーケーション事業の推進役の一人だ。

 下田は人口2万人の小さな町だが、年間250万人の観光交流人口があり、100万人の宿泊客がいる。そこにワーケーションで新たな大動脈を築き、都市間循環を太くする。

 そこで提供するのは、地域課題だ。地域課題を解決するとは、すなわちビジネスに発展させることであり、そのためには、市役所と市内関係者との連携がなくてはならない。

 日本は今や、単なる先進国ではなく、課題先進国と言われる。高齢化、人口減少、地方の衰退、空き家、耕作放棄地対策等、下田にいるだけでも、日常的に諸問題と直面している。

 それらを解決できれば、今後同様の問題が起こると予想される中国や東南アジア諸国のいい先例となり、問題解決にはITやAI、IOTといった新技術が役立ってくるはずだ。

 その拠点づくりがワーケーションと言えなくもない。そしてその拠点は、下田では江戸時代に御番所があった場所(写真)に建てられる。歴史的にも意義が深そうである。

 多くの社会問題は、ミスマッチから生じている。下田の過疎化も、町が全体的に地盤沈下を起こしているのではなく、必要なところに人材が足らないミスマッチが、多くの原因となっている。

 次代の社会問題を解決するのは、起業や企業の大きなテーマだ。

 その実験場として、下田はいいですよと、Hさんは訴えたいのかもしれない。

 なるほど、ワーケーションは変異する。

 ワーケーションは、まだ霧の中にある。しかし変異した先に明かりが見えているのも間違いない。

 僕たちは、そこに向かって、歩き出したところだ。

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