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空の果て、世界の真ん中

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歯車の塔の探空士のリプレイ小説です。 2021/11/11〜継続中
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2022年1月の記事一覧

空の果て、世界の真ん中 2-10

空の果て、世界の真ん中 2-10

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く10

固唾を飲んでいた聴衆が一斉に息を吐く。
緊迫のクライマックスは
ジーノの意図通りに伝わったようだ。

ラニがロープ一本で飛び降りた噂は
それなりに広まっていたが、
理由は噂によってまちまちだった。

カロンが決闘をした話は
わりと知られていたが、
相手と勝敗は判然としなかった。

そして幽霊船と分身する忍者の噂。
こちらもバラバラに流布されてい

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空の果て、世界の真ん中 2-9

空の果て、世界の真ん中 2-9

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く9

ゲラゲラと笑う聴衆。

忍者というエキゾチックな存在。
得体のしれない秋津洲の神秘。
分身の術という驚異の技。

そんなイメージをぶち壊す
間抜けで滑稽な喜劇。

拙者ァ! ござる!

真似をして笑い合う客たちは
新たな登場人物を気に入ったようだ。

忍者の噂と幽霊船の噂、
両方盛り込んだ甲斐があるというもの。

ジーノはエールを飲み干し、
上機

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空の果て、世界の真ん中 2-8

空の果て、世界の真ん中 2-8

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く8

物語は最も噂が錯綜している
シーンに突入した。

歴史家なら無視したかもしれない。

熟練の戯曲作家ならもっと
シンプルな展開にしたかもしれない。

以前のジーノならわかりやすく
王道で無難な話にしただろう。

だが、彼は選んだ。
千差万別の噂の中からこの筋書きを。

未だに迷いはあるものの、
何故かこの組み合わせにこそ
整合性を感じた。

感覚

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空の果て、世界の真ん中 2-7

空の果て、世界の真ん中 2-7

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く7

つまり、連中はよりにもよって
幽霊船で旅してるってことか!

無人塔で見つけた大昔の船だもんな、
そりゃワケアリ物件だろう。

聴衆は端からフィクションだと思って
聞いているので、そんなことありえない
などという野暮なことは言わない。

グラフトの連中、こんな噂になってる
なんて思ってもみないだろうな。
帰ってきたら仰天するんじゃないか。

笑い

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空の果て、世界の真ん中 2-6

空の果て、世界の真ん中 2-6

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く6

今度は幽霊船か。
感心したように客が言う。

前回が超技術の船で、今回はオカルト、
斬新な展開じゃないか、やるなジーノ。

ジーノはエールを飲み笑顔を見せる。
幽霊絡みは噂が錯綜しているため
情報の取捨選択が大変だった。

どの噂を採用するかで話の筋が
大きく変わっていただろう。

今回脚本としてまとめた話は
本当にちらりと聞いただけの
メジャー

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空の果て、世界の真ん中 2-5

空の果て、世界の真ん中 2-5

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く5

ジーノは一旦語りを切ると、
聴衆の反応を窺う。

早く続きを。
みんなの顔にそう書いてある。

内心、胸を撫で下ろす。
『始まりの船』と違い、この話は
ジーノの想像で補完している部分が多い。

ほぼ事実通りとは神ならぬ身のジーノには
知りようのないことだが、
彼にとっては紛れもなく創作だ。

散々こき下ろされてきた自分の作品。
それらを超え、作家

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空の果て、世界の真ん中 2-4

空の果て、世界の真ん中 2-4

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く4

ジーノとマリオがエールをぐびぐび。
飲み干せば何も言わずとも
おかわりが渡される。

語り手の小休憩の間、
聴衆は先の展開を予想する。

インペリアルフローレスグラフトを
盗んで飛び去ったのは何者か。

無人塔前で襲ってきた船の仲間か?
シティに潜入してるってのか?

でもグラフト動かせるんだぜ?
転移石以外の鍵があるってことか?

誰も自信を持

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空の果て、世界の真ん中 2-3

空の果て、世界の真ん中 2-3

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く3

今回ジーノは物語を編むに当たって
入念な情報収集を行った。

フロンティアから来た者を探しては
片っ端から噂を聞いて回ったのだ。

また、偶然にも古いゴシップ新聞から
右館エンフィールド家の風変わりな嫁
という記事を見つけた。

ローラの祖母が秋津洲出身の
青い花を持つフローレスだと
裏を取ることができたのだ。

コッペリアに育てられた
青い髪の

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空の果て、世界の真ん中 2-2

空の果て、世界の真ん中 2-2

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く2

ここまでの話は航空ギルドでの
出来事である。

すでに出回ってる噂と大した差は無い。
問題はここからだ。

ジーノも断片的な情報を繋ぎ
物語を創作するのに苦労した。

だが、客が聞きたいのは
作家の苦労話ではなく冒険譚だ。

余計なことは言わずに
ブーン兄弟は台本のページをめくる。

名前も聞いていない古い船。
ウィッカ社のアルバトロス級。

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空の果て、世界の真ん中 2-1

空の果て、世界の真ん中 2-1

空の果て、世界の真ん中
第2話、約束は遥か遠く1

立ち込めるのはふたつの煙。

肉を焼く煙にいぶされながら安酒をあおり、
歓談しながら紫煙をくゆらせる人々。

ここはシティ中層のありふれたパブ。
喧騒が煙と共に充満している。

近頃この界隈では『始まりの船』と
呼ばれ物語が流行している。

ブーン兄弟という売れない役者と
戯曲作家が語る朗読劇だ。

それはインペリアルフローレス号の連中、
そう呼

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