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「ローグ・ワン」の冒頭30分

2016年に公開された「スター・ウォーズ」の映画「ローグ・ワン」の冒頭30分を振り返ります。

記事は後半の映画全体の考察に一部ネタバレ含みますので、未視聴の方はぜひ映画をご鑑賞後にご覧下さい。

シスとジェダイの戦いを描いたメインの「スター・ウォーズ」サーガとは一線を画すスピンオフ映画作品としての第一弾で、「遠い昔、はるか彼方の銀河系で・・・」の一文のあとにいきなり本編となるなど、オープニング演出が明確に異なります。

ラムーのシーンのあと「ウォバニの収容所に収監されているジン」「キャシアンのスパイ活動」「拘束されるボーディ」「そしてK-2SOがジンを救出する」までの一連の流れは、公開年の夏に行われたトニー・ギルロイらによる再撮影や追加編集で加えられたことがスタッフらの証言により明かされています。

上図および下図の通り、特にジョージ・ルーカスが手掛けた1977年の映画第1作と比べると登場人物の多さに加えてシーンの切り替わりが目まぐるしく、現代的で複雑な構成であることが解ります。

キャシアン・アンドーがカフリーンの輪で情報提供者に接触する経緯は、この映画の5年前から直前までを描く今月末から配信開始のドラマシリーズ「キャシアン・アンドー」で明らかになるかもしれません。

映画第1作(1977)の終盤に登場した、反乱同盟軍の基地が登場。役者が変わっていますがデス・スター攻撃作戦を計画・指揮したドドンナ将軍の姿があります。

「エピソード6 ジェダイの帰還」(1983)で初登場となるモン・モスマがいかなる人物かが実写映像作品では初めて描かれます。(アニメ「クローン・ウォーズ」にはパドメの同僚・友人として登場している)こちらもオリジナルのキャロライン・ブラキストンに代わりジェネヴィーヴ・オーライリーがキャスティングされていますが、彼女は元々「エピソード3 シスの復讐」(2005)に同役で出演しており、そのシーンが本編ではカットされてしまったためこの作品で晴れて正式な出演となりました。

そして「エピソード3 シスの復讐」に引き続いてジミー・スミッツ演じるベイル・オーガナの姿が。更に屋外の駐機場にはアニメ「反乱者たち」(2014〜2018)の主人公たちの船「ゴースト」も見えます。

続くジェダのシーンには「クローン・ウォーズ」(2008〜2019)でアナキン・スカイウォーカーらに戦い方を学び、クローン戦争の時代から反乱者として戦い続けるソウ・ゲレラが登場。名優フォレスト・ウィテカーが演じます。アナキンによって鍛えられた男が、反乱軍初の大勝利のカギとなるデス・スターの設計図と物語の主人公達を結びつけるという展開は非常に感慨深いものでした。

更にデス・スター建造の場に、ピーター・カッシング演じるグランド・モフ・ターキンが現れます。実際に演じているのは英国人俳優ガイ・ヘンリーで、過去の特撮映画で使用したピーター・カッシングのデスマスクを利用して頭をCGIで蘇らせ、演者に合成しています。初見時は非常に驚いたのを覚えています。

ジンとキャシアン、K-2SOがジェダに到着。雑踏で因縁をつける強面の二人組は映画第1作の酒場のシーンでオビ=ワン・ケノービに腕を切り落とされるポンダ・バーバとその相棒エヴァサンです。このあとタトゥイーンに向かったのでしょう。

様々な作品が一挙にクロスオーバーし、特に実写の新旧3部作同士とアニメ作品の地続き感・結びつきが一層強固となった歴史的な約10分間です。

キャシアンに待つように言われたジンに、フォースを信仰する僧チアルートが話しかけるところで30分となります。映画第1作ではタスケン・レイダーに襲われたルークがオビ=ワン・ケノービと出会うタイミングでもあり、ジンの物語も動き始めます。


デス・スター開発史

映画作品第1作「スター・ウォーズ」(1977)に初登場し、反乱軍の活躍により破壊された帝国軍の究極兵器デス・スターはいかにして作られたのか。2002年に公開された新3部作の2作目「エピソード2 クローンの攻撃」(2002)にその設計図が初登場します。元々は分離主義者が対共和国用兵器として作ったものでしたが、それ自体もまたパルパティーンの計画の一部だったのかもしれません。設計図はダース・シディアスの手に渡り、銀河帝国成立と同時期に着工となります。

デス・スターはいわば超巨大なライトセーバーです。その核となる稀少なカイバー・クリスタルを帝国軍は各地から集めます。「クローン大戦」「クローン・ウォーズ」にも登場したジェダイと縁の深いイラムは「ジェダイ:フォールン・オーダー」の時点で大規模鉱床開発が行われていて、最終的に帝国の復興を目指すファースト・オーダーによってスターキラー基地として利用されてしまいます。


「ローグ・ワン」の善と悪

本作はジェダイとシスの戦いでは無く、普通の人々の戦いを描いています。

銀河帝国軍に抗う反乱同盟軍という図式はありますが、旧3部作のように両勢力がはっきりとした善悪に分かれているのではなく、各々の中に善と悪を抱えています。このテーマは続3部作にもその傾向が見られます。(特に「エピソード8 最後のジェダイ」)

『ヒーローと悪党を分かつものは、モラルの有無だ。』
「クローン・ウォーズ」 シーズン5 16話冒頭より

帝国軍の内部にありつつデス・スターの弱点を作ったゲイレンと、帝国を離反して彼のメッセージを反乱軍にもたらしたボーディは善なる存在でした。一方、反乱同盟軍のドレイヴン将軍の先制的な思考と行動は、事態を混乱させます。同盟軍の会議では司令部の面々が惑星破壊兵器の証拠が明らかになってもジンやゲイレンを疑い、終始ネガティブな反応を見せます。こうした善悪の境界が組織ではなく個々の人間の内側にあるという描写はルーカスの思想を反映していると言えます。

ですがやはり旧3部作に近いビジュアルを実現しながら、キャシアンの情報提供者殺害に始まる反乱軍のダーティな側面やデス・スターに臆する様子が描かれた事については、正直なところ個人的に疑問に思うこともあります。本来はソウ・ゲレラ(パルチザン)だけが担う部分だったのではないでしょうか。

終盤の展開は大幅に変更された?

スカリフ戦では「ラダス提督が艦隊連れてブッ込んでなければシールドゲートが封鎖されることなくアンテナからすぐに銀河中に送信できたのでは・・・」とツッコミを入れている方もいます。

ジン「父が仕掛けた導火線がある。銀河中に火の付け方を知らせた。」

このことに関しては「銀河中に〜知らせた」のくだり(ここも再撮影箇所)はジンのクレニックの隙を引き出すためのハッタリで、アンテナの送信は(シールドのせいで)もともと限られており、まずはスカリフ軌道上の艦隊に送信しなければなりません。艦隊が来ていなければ手詰まりでありK-2SOの判断は一応は的確です。

追記(2022/09/23)
映画と小説を細かく見直したのですが、私もまだちょっと誤認していたところがあり、やはりラダス提督が来たせいで本来の「脱出する予定だった計画」がご破算になったという事でした。あの音楽と反乱軍の船が次々ハイパースペースから飛び出してくる格好いい画についテンションが上がりますが、小説版では艦隊が来たためにジンが罵詈雑言を並べて希望を失いかけるという心理描写があります。

ただただ奇跡的に作戦は成功。
フォースの導きと言えばそれまでなのですが。

艦隊の奇襲のせいで閉じ込められたため、アンテナから送信するプランBに切り替えますが、シールドにより送信が行えません。これを打破するためK-2SOとキャシアンが「シールドゲートをダウン/穴を開けなければ」と発言するのですが、これの意味するところも曖昧で「軌道上のゲートステーションの制圧し、開放する装置を下げる(ダウン)こと」を指示したのか、または「ゲートステーション自体を破壊してシールド上に落とし無理矢理に再開放せよ」ということなのか、結果としては後者の形になりますがゲートステーションはあくまでゲートステーションであり(発生装置ではない)墜落させられたスター・デストロイヤーで破壊されてもシールド自体は健在でした。墜落を続けるスター・デストロイヤーがそのままシールドを突き破り、奇跡的に受信できたという事になります。
なお小説版ではジンがタワー頂上に登っている段階で既にスター・デストロイヤーが墜落していてシールドは破られています。(追記ここまで)

誤解を生むようなプロットになったのは当初の脚本(データを物理的な形で持ち帰る)から「データを軌道上の艦隊に送信する」展開と「悲劇的な結末」に変更した影響と考えられます。


初期の予告編ではジンがデータテープを持って逃げており、映画と同時期にリリースされたゲーム「スター・ウォーズ バトルフロント」(2015)のスカリフDLCでもビーチの防衛戦を突破してデータテープを船に持ち帰るのが勝利条件でした。本来はジンとキャシアンは(他のメンバーも?)生き残る予定だったと思われます。

おそらく製作総指揮・原案のジョン・ノールや監督のギャレス・エドワーズは古き良き「スター・ウォーズ」のような、シンプルに「ヤッター!」と喜べる結末を描こうとしたのではないでしょうか。

追記(2023/02/01)
以下の2017年の記事を発掘しました。これによれば、やはりもともとハッピーエンドの予定で、それは原案者ジョン・ノールの共同脚本を担当したゲイリー・ウィッタによれば当初ディズニーに忖度した結果だったとのこと。

最終的な脚本はクリス・ワイツによって大幅に変更。氏のインタビューによれば当初のアイデアではジンとキャシアンの結婚式まで描かれていたそう。(追記ここまで)

しかし終盤の展開は最終的な映画の状態に変更されました。
序盤の変更も含めこうした変更はディズニーのダメ出しとキャスリーン・ケネディ社長の夫フランク・マーシャルがプロデュースする「ボーン」シリーズの脚本家トニー・ギルロイによって加えられた可能性が高いように思います。

それでも結果として「ローグ・ワン」は(アンチ・ディズニーファン/アンチ・ケネディファンを含む)多くのファンに支持される作品になりましたので成功だったと言えるのでしょう。

変更箇所の詳細は下記の記事が解りやすくまとめています。
ちなみにラストの無双シーンも追加変更箇所と言われています。

トニー・ギルロイによるドラマシリーズ「キャシアン・アンドー」も“最終的な「ローグワン」”のスタイルが強く反映された作品になりそうです。


私は個人的に反乱軍が帝国軍をやっつける痛快な作品が観たいのです。
「ローグ・スコードロン」や「レベル・アサルト」のようなゲーム作品にはありましたが、映像作品としてはまだ無いんですよね。

「ローグ・ワン」公開前後の状況

小説版のススメ

「ローグ・ワン」は映画の内容を反映した小説版もお薦めです。

小説も内容の濃さを反映してかなり厚みのあるものですが、「ターキン総督との確執が垣間見えるクレニック長官のしたたかな交信記録」「ゲイレンのデス・スター設計変更申請のやりとり」「同盟軍の集めた情報」や「ウィルズの守護者の記録」などの文書が合間に挟み込まれています。

また、思わずクレニックに共感してしまいそうになる彼の苦悩や、K-2SOが最期の時に何を思考していたのかといった描写もあり非常に読み応えがあります。映画を追体験しつつ更に深く「ローグ・ワン」の世界を堪能できますので興味を持って頂けましたらそちらもぜひ。(電子書籍版あります)


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