男性にも女性にもなりきれない女の苦悩その4
その3の続きです。
「今日のパンツ何色?」
これが、直属の上司と2人きりの車内で言われた最初の言葉だった。
新人社員の私は、セクハラなんて言葉も思いつかず、何色のパンツを履いていたかも思い出せず、とにかく上司の質問に答えなければと焦って「えっと…多分、グレーだったと思います」と生真面目に答えていた。
その後の会話は全く憶えていない…。
今考えればおかしな話だ。
そんな環境で仕事をしているうちに、免疫がついたのか、年上男性嫌いは、いつの間にか克服していた。
いや、正確にいうと克服したのではなく、なんとなく年上は好きではないが、近くにいても吐き気はしない、という程度にまで回復したのだ。好きになれないことに変わりはない。
小学生の時のロリコンおやじ事件だけでなく、中学、高校、専門、大学と、自分が女であることで不利益を被ったことは数知れない。
その度に、女は不利だと感じてきた。
しかも、お肌や髪の手入れに時間もお金もかかる。
それでも、私は女だから世間から期待される役割も女だ。
会社の上司は、私に 雑用を頼んでこない。
「お茶くらい自分でいれろ」
心の叫びが聞こえていたに違いない。
女として期待されるであろう、ステレオタイプの役割を担いたくない私は、無言の拒絶オーラを放ち、年上男性とは極力無駄話をしないようにしていた。特に、上司に対してはそれが顕著だった。
だから社会人になってからも近寄りがたい人、気軽にものを頼めない人として位置づけられていた。
ある日、誰よりもエネルギッシュで部下に厳しい職人気質の上司と言い合いになった。
「俺に歯向かってきたのは、十六夜が初めてだ」
そう言い放つ上司の目が、不思議と嬉しそうだったのを覚えている。
若気の至りで歯向かう私を何故か気に入ってくれ、この日を境に仲良しコンビとなった。
この上司とは、家族ぐるみで今もなお、交流がある。はじめて仲良くなった年上男性だった。
「十六夜さんて、変わってますよね」
女性の多い職場で決まってこう、言われた。
何故なら、女性特有の話題に興味がないからだ。
流行りのスイーツ、高級バッグ、話題のお店…
お昼休みにファッション雑誌を広げて、次のボーナスはどのバッグを購入するか、女子トークは盛り上がる。
「十六夜さんはどれが欲しい?」
目をキラキラさせながらしてくる、この質問は拷問だ。
バッグに何十万もかけるよりも、旅行や習い事に使いたい、その思いを呑み込んで、やっとの思いで指したのはそこに載っていた男性向けのマグカップ。
その場が凍りついた。
嘘がつけなかった。
欲しくもないバッグを指差して笑うことが出来なかった。
「ほんと、十六夜さんって変わってる。なんでこんな変なカップが欲しいの?」
「色気ないよね」
その場にいた女性陣から笑われた。
その笑いに合わせて適当に自虐ネタを盛り込み、変わった人、おかしな人というキャラクターを演じる。
一度、そのキャラが確立すれば、周りは私にステレオタイプの女を期待しない。その方が楽なのだ。
その場限りの嘘をつくと毎回嘘をつき続けなければならなくなる。その方が何十倍も苦痛だ。
その5に続く
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