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男性にも女性にもなりきれない女の苦悩その5

その4の続きです

ある日の飲み会で、下ネタに大笑いする私を見て

「十六夜さん、そういうキャラだったんですか⁈えっ?そのキャラ…えっ?」

他部署の名前もしらない年下男性が、私と同じ部署の同僚の席に座り、視線を送って来ていたのは知っていた。

「メル友になってもらえませんか」

はじめてのコンタクトは彼からだった。
恥ずかしそうに目を伏せる姿が可愛い、そう思ったけれど、それ以上の気持ちは芽生えなかった。
当時はまだLINEは主流ではなく、メールでのやり取り。
たわいもない彼からのメールに差し障りのない返事をする。そんな日々が続いていた矢先だった。

彼は、真剣な面持ちで仕事に打ち込む私の姿にある種の幻想を抱き崇めていた。
それが一夜にしてガタガタと音を立てて崩れて落ちていったのだ。

国民的人気アイドルがトイレに行かないとでも??

十六夜は、いつもクールに決めていて大笑いしないとでも??

人は良くも悪くも幻想の中に生きる。
大なり小なりそういうものだと思う。私も例外ではない。その幻想から現実に引き戻された時の落胆ぶりは計り知れない。

ご愁傷様…

心の中で呟く

年上男性と付き合ったこともあるが、普段から同年か年下から好かれる事の方が多かった。それは、年上への苦手意識のある私としては好都合だった。

年下の彼が望むのは"カッコイイ大人の女"。

私が目指すのも"カッコイイ大人の女"

需要と供給は合っていた。

しかし、そこに心休まる時はなかった。
仕事でクタクタになっている時の格好悪い自分、弱い自分、甘えたい自分…
そんな自分たちが影を潜めて泣いていた。

「いつもの十六夜じゃない。そういうの好きじゃない。それに、"お前"って呼ぶのやめてほしい」

当時付き合っていた彼氏に、そう言われた。

弱音も吐けないのか…

それに、私、彼のことをお前って呼んでいたんだ…気づかなかった…

いつから、こんなに言葉遣いが悪くなったのだろう。
幼少期に男の子と遊んでばかりで、男になりたかったことは確かだけれど、家族間では、やたらに"お"をつけていた気がする。

お洗濯、お寝巻き、お縁日、お掃除、おトイレ、お、お…
それに、お箸やお碗の持ち方は非常に厳しく躾けられたはず…

なのに…何故…

親しくなった男性を"お前"と呼んでいたことにすら気づかないほど、私の中に浸透していた男言葉。

奥底に眠る意識が、言葉まで変化させてしまうのだろうか。

自ら口にしていた言葉に衝撃を受け、それ以来、自分の言葉遣いには気をつけるようにしている。

問題は他にもあった。

いわゆるケンカの時に、何故そんなに冷静なのか、何故黙り込むのか、何を考えているのかわからない、そうやって恋人から一方的に責められることの方が多かった。

これって男女が揉めたときに、女性から男性に向ける言葉に似ていないか?

私は、男性ではない。自分のことを"俺"とか"僕"と言ったこともない。
でも、責められるたびに、女性になりきれないような、中途半端な位置にいるような気がした。
見た目は完全に女性で、男性に間違われることもない。それなりに身だしなみには気を付けている。

しかし、後に、考え方そのものが、男性寄りであることを思い知ることになる。

その6に続く

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