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事実や価値観に目を向けさせる問い

問いづくりの教科書(仮)マガジン、30本目の記事です!
♥をくれた皆様に感謝いたします。

今日は2人称の問いの中の、相手に事実や価値観に目を向けさせるための問いについてです。

人は気づいていない事実や価値観を持っている

2人称の問いを華麗に使いこなす仕事の一つに、コンサルティングがあります。コンサルタントは問いを使って、今起きていることを白日の元にさらし、さらに隠れた原因を突き止め、根本的な解決策に導きます。

ところが、今起きていることや感じかたをそのまま認識する、あるいは思い出すというのは、思いの外難しいものです。

見えないゴリラという実験

心理学のチャブリス博士とシモンズ博士は、“見えないゴリラ”という有名な実験を通して、人は問われることによってはじめて目の前の事実を認識できる、ということを示唆しました。

6人を白と黒のシャツの2チームに分け、一緒に各チーム内でボールをパスしあいます。そのとき「白のチームは何回パスを回しましたか?」という問題が提示されています。ボールがパスされていく動画の途中、突然ゴリラが登場し、去っていきます。

動画が終わると、何回パスしたかという問題と答えに続いて、「あなたはゴリラを見ましたか?」と問われるのです。

実験の結果は、動画にはっきり映っていたにも関わらず、最初に問われなかったゴリラについて約6割の人が「そんなものがいたのか」と、認識すらされないのです! 問われていた白いチームの方にだけ、意識が向いていたということなのでしょう。

認識するために必要となるのは”問い”

だからこそ問いが重要になってくるわけですし、それをしっかりと使いこなせる人がプロと呼ばれることになるわけです。

発展途上国支援などの国際協力コンサルタント、中田豊一さんはこのような“事実に目を向けさせる問い”を使って、さまざまな事象を明らかにし、共有する対話を“メタファシリテーション(対話型ファシリテーション)”としてまとめました。

対話型ファシリテーションとは

ここで活躍するのは5W1Hの中でも、WhyとHowを除いた、When、Where、WhoとWhatの4つです。つなげると「いつ、どこで、誰が、何を(した、見た)」を明らかにしていこうということになります。

中田さんが支援する現地の人たちは「子供たちの下痢が多くて……」と困っていました。その困りごとに対して、いきなり「なぜ」を問い、「どのように」解決するかを検討した結果、「きれいな水がないから」「井戸を掘る」という支援を中田さんは行いました。ところが1年後、その井戸は全く使われていなかったのです。こんな経験から、対話型ファシリテーションは生まれたそうです。

つまり、「子供たちの下痢が多い」という表明に対して、全く事実を確認せず、いきなりなぜを問いかけた結果、実際にはあまり必要のないものを作ってしまったわけです。その原因の一つに、いきなりの「なぜ」「どうして」の問いがあったということなのです。

このとき、実際にここで指している子どもたちが「どこ」の「誰」で、「いつ」下痢になるのかなど、事実を明らかにする問いを投げかけることができたらどうでしょう? 意外にも「下痢が多い」のはこの周辺ではなく、山向こうの集落のできごとのことを指していたかもしれないのです。

Whyを使わないアプローチをするメリット

途上国支援でなくとも、このWhyを使わず、When、Where、Who、Whatで問いを投げかけるアプローチは有効です。

「なぜ」という問いは、人々の感じかたや価値観を探ったり、原因分析によって効果的な改善策を見つけたりする場面では、非常に有効です。

しかし、問われた側がまだ明確に言語化できていなかったり、その答えにあたる情報を正確に持っていなかったりする情況では、うまく機能するとは限りません。

こんなときに、When、Where、Who、Whatで問いを投げかけるアプローチを思い出してみましょう。

自分の価値観に目を向けさせる問いの例

例えば、「通勤途中のパン屋さんの前を通る際、焼きたてのパンの匂いがするときに幸せを感じる」という表明があったとしましょう。

いきなり「なぜパンの匂いで幸せを感じるのか?」と聞かれても、明確な理由が思い当たらない場合は「なぜと聞かれても困るなぁ……」というのが正直な感想になってしまいそうです。こんなときにでも、下記のような問いかけができたら、その人の感じかたについてもう少し詳しく知ることができるでしょう。

・パンの匂いがするのは朝ですか? 帰宅時もしますか?
・もし帰宅時も匂いがしたら、同じ様に幸せを感じますか?
・その幸せを感じるときは、いつも一人ですか? 誰かと一緒でも幸せと思いますか?
・パンではない他のどんな匂いなら、同じレベルの“幸せ”を感じますか?
・そのパンの匂いを感じると、何かイメージするものがありますか? それは何ですか?
・実際にそのパン屋さんでは、よく買って食べていますか? 誰と一緒ですか?

「なんでできないの?」では解決しないことを、気づかせる問い方

同じように「なんでまた忘れ物したの?」や「なんでできないの?」というWhyの問いかけも、「その理由がわかっていたら、もっと早く改善できているよ」というのが本音でしょう。このような場面で「なぜ」を繰り返しても、その「なぜ」は機能しそうもありません。

忘れ物なら「どんな時に忘れ物をするのか」「何を忘れやすいのか」「忘れないときはないのか」「その違いは何か」などを問えば、もしかすると具体的な解決策につながる原因に迫れるかもしれないですね。

このように、一般的には強力で汎用的と思われている「なぜ」を封印することで、より事実や価値観に目を向けさせ、それらを共有できる場面もあるのです。

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