買い出しと晩のおかず
毎朝、電動アシスト自転車で宇和島に往復25キロの買い出しに行き、宇和島くらいの大きさの町の暮らしやすさを考える。
大昔、私が30代半ばの頃、だから三十数年くらい昔のこと、宇和島市で「日本都市問題会議」の全国大会が開かれた。地元選出の国会議員が国土庁長官の時で次官が来て喋々していた。静岡県掛川市の街づくりにすぐれた業績をあげ、石川賞という都市計画の賞も受賞しておられた故榛村純一掛川市長が基調講演をし、田村明氏や伊藤整滋などの街づくりの有力学者も顔を揃えていた。
その頃、平成の大合併以前であるが、榛村純一氏は、人口7万近くの宇和島市の小都市として暮らしやすい町の規模と市のあり方について称揚する講演をされた。私は当時、故四方洋さんにすすめられてその会議の会員になっていた。東京に暮らしていたが故郷で開催された会議に参加し、少しこそばゆい思いで講演やシンポジウムを聴いたのをおぼえている。その後、宇和島市は周辺の3町を合併したが過疎高齢化が進み、今は合併して面積が金沢市とほぼ同じになったが、人口は四万ほどに減った。町の個性は柑橘と養殖マダイ、歴史文化は伊達家に記号化され、大きく損なわれてしまい、若い人の職場も整わず、域外への流出はコンスタントに続いている。私が帰郷して住んでいるのは旧吉田町の中心部で、もとは明暦3年に河口を埋め立ててつくられた陣屋町の面影をとどめつつ、海の幸にめぐまれた南国らしい風情のある町であった。毎年県下で最初、七月一日に花火を打ち上げ、後は眠ったような活気のない町になって久しく、高速が宇和島に通ってからは国道に軽トラックしか走ってないと揶揄されるくらい素通りの町となった。私などは静かでかえってうれしく思っていたが、2年前の豪雨災害で被災後、水道、飲み水が満足な状態に復旧するのに3ヶ月以上もかかるうちに、人口は1万を割り、旧陣屋町の商店もぐっと減った。それなのに車の数は水害後に増えたのは不思議である。この地域のキャッシュフローは年金が中心だから、コロナ禍が広がる中で、経済への打撃は、水害の時ほどは目立たない。もともと衰退がある程度進んでいたからでもある。ただ、高齢者中心の小さい暮らしを支える小さな商店が豪雨災害で打撃を受け、行きつけの魚屋さんが廃業してしまったりした。だからスーパーとコンビニに頼る日が続いていた。
水害後、床上浸水から生き延びた本の整理をしていて、腰をいため、電動アシスト自転車を今年の3月に買った。それから宇和島への買い出しを始めたがすでに走行距離は5ヶ月で3,000キロを越えた。山坂もなんなく越えられるし、キャリーバッグもついていて頗る具合が良い。宇和島はまだ人の暮らしが生きていて、小さい商店も健在である。市の中心部には田舎臭くチープな都会の装いが目立つが、住宅地の中に綺羅星のような魚屋、肉屋、雑貨屋などが生きている。それで毎日、出かけて行く。
買い出しでつくった、晩ご飯のおかずである。
魚屋さんは、ゼンゴ鯵とスルメイカ。
ゼンゴ鯵の南蛮漬け。刺身もおいしいが、小さいのをやおじさんが下処理してくれたものを、からりと揚げて甘酢と醤油少し、鷹の爪、玉葱をザク切りして漬け込む。冷蔵庫で二三日は食べられる。
スルメイカは編集グルーブSURE刊行の『海老坂武のかんたんフランス料理 シングルライフ84歳のおもてなし』を見てつくった。この本は84歳の海老坂さんが買い出しから調理まで一人でこなすのだから、私にもできようと思ってもとめた。中でもすぐできそうなのが、「イカのイタリアンソース」だった。都会にいる海老坂さんの本ではあるが、香辛料なども吉田や宇和島に売ってないものがほとんどなく、なければネットで手に入るし、行きつけの八百屋さんにはなくスーパーで1個198円もするパブリカなどは、ピーマンですませた。トマト・ペーストも使わなかった。おいしいトマトをザクに切ってニンニクと玉葱とオリーブオイルで炒めた。スルメイカは言うも愚かだがこちらのほう都会のスーパーで新鮮でおいしい。そして圧倒的に安価だと、断言してはばからない。おじさんが下処理はしてくれた。イカ墨の袋を潰さぬようにするだけだ。今のイカは甘くてほんとにおいしい。ローリエはスーパーに売っていた。庭にある月桂樹の葉を入れてやろうかとも思ったが、これは買いました。白ワインはスーバーでサントリーの1本239円のもの。
肉屋さんの牛レバーは「檀流クッキング」のレバニラ炒め。牛レバーは凍らせてあるのを冷蔵庫で解凍し、適当な大きさに切り、醤油とニンニク、生姜にしばらく漬け込み、炒める前に片栗粉をまぶしつける。ニラは2束くらいをザクに切っておき、レバーを炒めて火が通った頃にいっしょにして炒める。家人はこれだとレバーをよく食べた。
魚屋のおじさんが鯛やサワラの大きいのを下ろしたときに出たアラに塩をして干物にしたのを時々おまけで持たせてくれる。冷蔵庫にいれといておかずがないときに食べろと。酒のつまみにも絶好。
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