認知症の話1 それぞれの至高の時間
至高の時間。
自分が疲れた時に気兼ねなくリフレッシュする時間が、きっと皆さんにもあって、それは皆さんにとってとても大切な時間だと思うのです。
認知症を介護する人にとっても、それは同じなのです。
介護をする人(以下、主介護者)にとって"自分の時間を持つこと"がとても大切なことだといわれています。
例えば、介護とは積極的なかかわりがない人々でも、仕事や学校、人間関係、やらなければならない煩雑な作業などが溜まってくると、段々イライラしやすくなったり、気持ちに余裕がなくなってなんとなく不安定になったり、なにより疲れますよね。
そうすると、普段気にしないで流せるようなことでも引っかかってカチンときてしまったり「私が悪いのかしら」とネガティブモードに陥ってしまったりして、それが人とのやり取りでも滲み出てしまって、人と接することが辛くなるなど悪循環に陥りやすくなります。
主介護者の場合、認知症の方への対応やその周辺とのやりとりの中で、常に気を張っていたり、やることなすこと報われない気持ちになったりして、このようなイライラモードやネガティブモードに陥りやすくなります。
認知症の方本人のことを大切にしたい、でも本人は忘れちゃうしこっちの気持ちをわかってくれない、本人のことを思って言っているのに、なんならこっちが悪者扱いされるし、もう知らない、好きにすればいい、でもご近所さんに迷惑をかけることがあったら申し訳ないし・・・
上記は一例ですが、たくさんのジレンマを主介護者は抱えやすい状況にあります。
そうするとどうなるかというと、そのジレンマの矛先が認知症の人本人に向いてしまったり、本人との関係に疲弊して関わることを避けたりしやすくなります。
はっきりお伝えしたいのは、これは認知症の方が悪いわけでも主介護者の方が悪いわけでもなく、状況がそうさせてしまうのです。
どんな人でも、仕事にしろプライベートにしろ、緊張や我慢する状態が続いていたら疲弊して、冷静な判断ができなくなりますよね。
その緊張や我慢の空気が体の中にパンパンに充満して、逃がしどころのない状態が続いてしまったら、辛いですね。
認知症の方側の話になりますが、認知症の方は、確かに"忘れる"ことはたくさんあります。
ただし、"誰とどこで何をしたか、どんな話をしたか"という出来事は思い出すことはできなくても
"楽しかった!"
"なんだかイライラした"
"傷付いたし、怖かった"
といった様々な感情は残ります。
これについては、また詳しくお話したいと思っています。
そのため、認知症の方とよく接する主介護者の方が悪循環に陥っている状態になると、認知症の方本人も悪循環に陥り、双方で大きな悪循環を作り上げる構造になります。
そうすると、自力でその悪循環から抜け出すことは容易ではありません。
大きな悪循環に陥ることを防ぐためにも、なるべく早く、個人的な悪循環に陥る前に、緊張や我慢、不安、もろもろの溜まりにたまった心の中の重い感情から解放する、リフレッシュの時間を作ることがとても大切なのです。
リフレッシュ、はどんなことでも大丈夫で、大切なのは「認知症の人中心に回っていた時間から離れて、自分のことだけ考える時間」を持つことです。
ゆっくり眠るもよし、家事に専念するもよし、趣味に没頭するもよし…
主介護者の方が"楽しかったー!""スッキリした!"という気持ちになれたら最高です。
そうすると、認知症の方への複雑に絡まってしまった気持ちが少しほぐれて、穏やかな気持ちで接しやすくなります。
その穏やかな気持ちは認知症の方本人にも伝わり、どんな話、なにをしたかを時間が経って忘れてしまっても"なんだか楽しい時間だった""あの人の顔をみると、なんだか安心する"と、こちらでも悪循環に陥ることを防ぐことができます。
自分の時間を持つために、認知症の方に関するすべての時間を主介護者一人だけでどうにかするのではなく、主介護者以外の人の協力や、社会的なサービス(デイサービスやショートステイなど)を導入することもとても大切なこととなります。
人に任せて、自分が楽していいのかしら、と罪悪感や申し訳なさを抱く主介護者もいらっしゃいます。
しかし、長期的な視点でみて、認知症の方本人と長く穏やかで、お互いに気持ちの良い関係性を持続していくには、ちょこちょこと自分の時間をもって気持ちよく接することができる心の状態を維持していくことがとても大切なのです。
そのためにも、周りの人が、"主介護者が自分の時間をもつこと"の大切さを知ってあげて、その時間を作ることを肯定してあげてください。
できたら、その時間を作ることを手伝ってあげてください。
ここでも大事なのは"可能な範囲で"です。
誰かが無理したら、その人が辛くなってしまいますからね。
できる人みんなで、無理のない範囲で分担することができたら、それが理想です。分担する内容や時間も、その人の得意不得意、時間の都合等あると思うので、相談しながら臨機応変にやっていけたらとても良いです。
身近な人だけでなんとかしなくてはいけないわけではありません。
身近な人が無理をしない、そのための医療機関と介護サービスです。使っていきましょう。
本当は、認知症の方のことを大切に思う気持ちがあるのに、辛い状況がその気持ちを曇らせてしまうことが、本当に悲しいことだと感じています。
時間はもとには戻りません。
いつか、一緒に過ごした時間を振り返ったときに、思い出す時間が幸せなものであってほしいと願います。
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