EP015. あなたが声をかけてくれたから友達ができた
「久しぶりだね、この公園…。」
「ねぇねぇ、覚えてる?」
彼女が何かを思い出したように聞いてきた。
「ほら、昔よく二人でこのブランコに乗ったよね。」
「そうだねー!懐かしいなぁ…。」
私たちは小学校以来の友だち。とっても仲が良い。彼女は親友で大切な人だ。
「今までずっと黙ってたけど…。実はね、あなたと会う前にとっても苦しい時期があったんだ。」
「えぇー、そうだったの?」
彼女はゆっくり頷いて、ぼそりと言った。
「あなたがいなかったら、きっと、今の私はいない。」
「そんなぁ、大袈裟なこと言わないでよ。」
「本当なんだよ。」
彼女は真剣な眼差しを私に向けた。
「今日って何の日か分かる?」
「えぇーっとねー…。んー、分かんない。」
「今日はね、私たちが出会った日なんだよ。忘れちゃってたのー?」
「ごめーん、そうだったっけ…。んー、でもそんな感じもする。」
なんだか湿っぽい空気になりそうだったので、ちょっとふざけて言ってみた。
「今日はどうしてもこの公園でありがとうが言いたくて、ここを待ち合わせにしたんだ。」
「ありがとうだなんて、なぜ?」
「あの日に…。」
彼女は涙で言葉を詰まらせながらも続けた。
「私ね、小学校に入学したときからいじめられてて、ずっと『ぼっち』だったんだ。あなたが生まれて初めてできた友だちなんだよ。」
彼女が言うには、消極的でおとなしい性格が災いし、小学校に入学した当初からいじめに遭っていたらしい。学校には行きたくなくて毎朝泣いて嫌がった。それでも両親は厳しく「気持ちが緩んでるからだ!」と、有無を言わさず登校させられていた。
学校では視力が低いフリをして、席替えの度にできるだけ前の席になるように先生にお願いしていた。そうすれば授業中だけは先生の目に触れるからいじめられなくて済む。休み時間だけ耐えればいい。
下校時間になるといじめっ子たちに捕まる前に急いで教室を出た。そして、暗くなるまで街の外れにある大きな公園でいつも過ごしていた。校区外だから彼女を知っている子は来ない。両親は共働きだったので咎められることもなかった。
その公園で私たちは出会った。
「あの頃ね、私、もうダメだなーって思ってたの。両親は私の話を聞いてくれないし、私には存在価値がないと思ってた。きっと消えてしまっても誰も悲しまないんだろうなって。本当に消えちゃおうと思ってたの。そんな時にあなたと出会えたんだ。それで『私でも仲良くしてもらえるんだ。私にも価値があるんだ。消えなくても良いんだ。だからもう少しこの世界にいてみよう。』って思えた。だからね、今私がここにいられるのはあなたのおかげなの。本当にありがとうね。」
「そんなことがあったんだね。私…、全然気付かなかったよ。でも嬉しい。私こそありがとう!私もあなたがいたから楽しい時間を過ごせてるんだよ。あのときから今もずっとそうなんだ。本当にありがとう!」
できるだけ元気を出して言った。
心の中を悟られないように。
実はその頃、私もすごく辛かった。
友だちができなくて、聞きたくないことを言われて、孤立した『ぼっち』だった。毎日が辛くて仕方なく、自分の存在価値を疑って、消えることばかり考えていた。
そんな時に公園で一人ブランコに乗っている彼女を見かけた。
その姿はとっても寂しそうで、まるで自分を見ているようで、どうしようか迷ったけど、声をかけずにいられなかった。知らない子に声をかけたことなんて一度もなかったのに。
「あなたが声をかけてくれたから友達ができた。」
彼女が言った。
私は何も返せずにいた。
とても言葉では表し切れない感情が心を支配していた。
そして、いつの間にか彼女を抱きしめていた。
あの時に声をかけて良かった。たった一言、思い切って声をかけたことが私たちを救ってくれた。勇気を出して本当に良かった。
「ありがとう。私もそうなんだよ。同じ気持ちなんだよ。」
彼女を抱きしめながら、心の中で何度も何度も叫んだ。
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