アラサー、おじさんと恋バナをする

本日の第2ラウンドは、
好きな人の工場のすぐ裏のパン工場だ。
好きな人の工場は5時間までの募集しかないので、
休日に5000円以下のお給料ではちょっと足りないため、
前後に別の仕事をして貧しくならないようにしている。
これも好きな人に会うための努力なのだ。


しかしここでもわたしはまた変なおじさんに絡まれてしまった。


この現場に来るのは2回目なので、まだ要領はつかめていない。
とりあえず言われるがまま動いていたら、
突然おじさんに
「きんぴらごぼう作れますか?」と聞かれた。
料理なんてしない実家暮らしのわたしは、
「作れません」と即答した。

今日は包装の仕事のはずだ。
調理なんてさせられる仕事だったら、
迷惑をかけるだけだから初めから申込むワケがない。
え、これからきんぴらごぼう作らされるの?むりむり!帰る!

内心焦っていると、
「料理しないの?まだ20代?」と聞かれた。
どうやら雑談だったらしい。
安心したけど、
あまりにも唐突過ぎて会話のキャッチボールどころかボールじゃないものをいきなり投げつけられた気分だ。
なんだこのおじさん。
聞かれるがまま答えていると、
「主婦?」「結婚願望ないの?」と、
今時セクハラでしかない質問をどんどん浴びせてくる上、ひとり暮らしは寂しいとか言ってくる。
しかしわたしの目の前ではパンのラインが動いていて逃げられるわけがない。
しかもここのは地味に速い。
喋りながらやるの結構ギリギリだ。

おじさんはパンをオーブンで作れるという。
「ホームベーカリーとかじゃないんですか?すごいですね!」と思わず言ってしまう。
これは本音だ。わたしもホームベーカリーが欲しい時期があったから。
でもたぶんわたしのこういうところがダメなんだろう。
これを直さないときっとずっと本命には相手にされない。

おじさんはその後もわざわざ作業するわたしの横に来て、
「旅行とかしないの?」「どのへんに行くの?」
とわたしが話しやすい話題を振ってくる。
(わたしは旅行好き)
四国の八十八ヶ所めぐりの話をしていて、
空海とかなんとかの由来の話をしてきたので、
わたしはまた「知らなかった!すごーい!」と言ってしまう。

ほんとどうでもいい相手になら、
すらすらとこんなことを言えるのにな。



これに比べたら昨日のわたしと王子様の会話なんて…
(以下回想)
せっかく珍しくふたりで並んで話せたのに、
王子様「1階と3階で上がる時間違うのかと思ってた
!」
わたし「いやたしか違うはずですよ!」
王子様「いや同じなんだわ!」
(なんて返したらいいかわからなくて黙るわたし)
そしてここで同担が「明日いるんですか?」と割り込んできて終了。
盛り上がりの欠片もねえ。
お互いに譲らない、「いや!」「いや!」の連続。
これじゃダメだってわたし!!!!!
好きな人にこそ「すごーい!」とか「知らなかったー!」とか言えよ俺!!!!!
何のために口付いてんのさ!!!!!(猛省)


そんなことを考えながら手は動かして、
口ではおじさんの雑談の相手もする。

「松田聖子は尻軽な感じだから嫌い」
「中山美穂はきれい」
「石田ゆり子みたいな大人しそうな人が好き」
(ここでだからわたしのような地味な女に来るんだなと納得)
「末っ子だから甘えたい」


好きな人ともこんなふうに話してみたいよ!!!!!


彼にもきっと兄弟や姉妹がいて、
好みのタイプもあるんだろう。
死ぬほど聞いてみたい。チャンスが欲しい。
神様お願い。頼むって!!!

しかしなんで工場なのにこんなに喋る人がいるの?
誰かと喋ってたほうが早く終わるからいいやと思ってしまうわたしがダメなんだろうけど、
時計が進むのは少し速くなった。よしよし。

よくよく聞いたらおじさんは49歳。
結婚相談所とかに行ったら、
きっとこんなのばっかり紹介されるんだろうなって感じのおじさんだ。

最後には「俺今好きな人いるから」と恋バナを振ってきたので、
「なんで好きな人には好かれないんでしょうねぇ!」
とわたしも恋バナで返す。
すると、

「この年で好きな人がいるだけで幸せなことなんだ」


みたいなことを言ってきた。
それはわたしもそう思う。
同年代が子育てや生活に追われる中、
わたしは学生時代の頃と同じように、
好きな人の態度に一喜一憂してたら、
いつのまにか季節が変わっているのだから。

また妙に盛り上がりそうになってしまったところで、
おじさんは時間になったからと上がっていった。
ちょっと安心した。
一体なんだったんだあのおじさんは。
他の人達はあのおじさんに話しかけられてもろくに返事もしていなかったから、

あのおじさんはもしかしたら、

わたしにしか見えない妖精だったのかもしれない。