ぼっち弁当のすすめ

とある地方に2日連続で行く予定ができた。

泊まって来ようかと思ったが、その町には廃墟のようなビジネスホテルが1件しかなく、素泊まりでも5000円近くするので2日間日帰りで行くことにした。

交通費を考えても帰ってきた方が安いものの、貧乏な私にとってはなかなかの出費のため節約手段を考えた。


売れないバンドの追っかけをしていた時代も、チケット代と交通費はなかなか削れなかった。

だから少しでも安く済ませるには宿泊費と食費を削るしかないため、ホテルではなくネットカフェに泊まったり、レストランに入らずスーパーで惣菜を買ったりしていた。


しかし今回の行き先は自宅から日帰り圏内で、日曜日は食堂も休むような田舎だ。

スーパーとコンビニはかろうじて1軒ずつあるが、正直なところ惣菜を買うお金すら惜しい。


そこでお弁当を作って持っていくことにした。



私は普段は在宅勤務のため、お弁当を作るのも食べるのも新鮮だ。

時間的に道の駅やバスターミナルで食べることになるので若干恥ずかしいけれど、650円のカレーを買うお金すら惜しいので仕方ない。

田舎にお金を落としたい気持ちはあるので申し訳ないが、今回は交通機関に食事代以上のお金を落とすから勘弁してほしい。



1日目は家族連れで賑わう道の駅のカウンター席でお弁当を食べた。

道の駅のソフトクリームやパンは買ったから、お弁当を広げて食べるくらいいいだろう。

家族連れはみんなテーブル席を使うので、カウンター席は空いていて快適だった。

景色も良いし清潔だし、ここならまた来れるなと思った。


そして2日目はバスターミナルでお弁当を食べた。
田舎のバスターミナルなので役場の支所が入っていたり、地元民が集まれるようなホールや会議室がある。
私はここで行われる地元民とヲタク向けのイベント目当てで来たので、見たことのある人もいる中で、しかも近くにコンビニもあるのに一人でお弁当を広げるのは気恥ずかしかったが、

食べていると妙な安堵感に包まれた。




ガラス張りのバスターミナルの窓からは見事な山の景色が見える。
私が通っていた高校も窓から山がよく見えて、友達がいなかった私は、授業中も休み時間もいつも山を見て過ごしていた。
もちろんお弁当を食べる時もだ。
だからだろうか、なんだか懐かしい気分になってしまった。

そして驚いたのが、全然嫌じゃないのだ。

この孤独感とやや人目が気になる感じが妙に心地いい。 

「わたし今、全然嫌じゃない!!!むしろなんか落ち着く!!!」

と、思わずマスクの中でひとり呟いてしまう。



山が見える方角には地元の高校も見えて、もし私があの高校に通っていたとしても、きっとこうして一人で山を見ながらお弁当を食べていたんだろうなと確信した。

周囲にいた同じ趣味の人達も、絶対に私に話しかけては来ないけれど、一人でお弁当を食べている私を見て「あの人、学生の時からああやって一人でお弁当食べてたんだろうな」と思ったと思う。

それくらいぴったりフィットする出来事であった。


家に帰って母親に「一人で山見ながら弁当食べてると、高校の時みたいでなんか落ち着くわ〜」と言ったら、母は哀しい顔をしていた。 

学生の頃からずっと周囲の人達とうまくやれず、大人になってからも弁当ひとつ買えるお金もない娘。
親としては複雑なのかもしれない。



でも人間はそう簡単には変わらないのだ。
学校は社会の縮図だ。
やはりあの時からもう、ぼっちの私は出来上がっていたのだと思う。
私がどこに行っても孤立するのは必然だったのかもしれない。


しかしお弁当ならお金もかからないし、山を見るのも大好きだし、一人で好きな時に行けばいいのでこれは良い趣味を見つけたような気がする。

今年はお弁当を作って出かけるという新しい技を身につけ、さらにぼっち術を磨いていきたい。