リングフィットアドベンチャーのスムージーから素材の組み合わせを拝借する
これはお菓子屋の宿命でしょう。
年始の健康診断、LDL(悪玉)コレステロールで驚異的な数値を叩き出しました。
例年警戒していたものの、今年はさすがに身の危険を感じ何かしなければと思ったのです。
幼い頃からゲームが好きで、楽しみながら運動できればと話題のリングフィットアドベンチャーを始めることにしました。
”自宅で手軽に運動ができる最強の健康ゲームソフト”なのだとか。
継続できる仕組みが盛り込まれ、挫折することなく続けています。
ゲームを進めていくうえで欠かせないのがスムージー。
これを使いこなすことが攻略のポイントと言えるでしょう。
・HP回復
・バトルを有利に
・経験値やコインを多くゲット
など、
効果はさまざま。
ショップやステージで素材を手に入れ自身で調合してスムージーにします。
ストーリーが進むにつれ複雑な素材の組み合わせが登場します。
この組み合わせが非常に興味深いのです。
例えば
アプリコットスムージー
アプリコット✕2 バナナ✕1
バジルミントスムージー
豆乳✕2 バジル✕1 ミント✕1
ザクロアーモンドミルク
ザクロ✕2 砂糖✕1 アーモンドミルク✕1
おもしろい。
素材の組み合わせがおもしろいのです。
そして気づきました、
”リアルで使える”
と。
そこで、菓子やデザートで使えそうなスムージーをピックアップしました。
夏らしく黄色スムージー中心で。
グレープフルーツスムージー
グレープフルーツ✕2 いちじく✕1
ジンジャーハーブスムージー
ショウガ✕2 シナモン✕1 レモングラス✕1
イエローミックススムージー
パイナップル✕2 ショウガ✕1
アプリコット✕1
アプリコットコーヒー
コーヒー豆✕2 アプリコット✕2
アプリコットコーヒーは攻めています。なかなか生まれない発想。
さっそく菓子にしたので紹介します。
グレープフルーツスムージー
フランス菓子パート・ドゥ・フリュイにアレンジ。
フルーツピューレを煮詰めた濃縮ゼリーです。
グレープフルーツ、いちじく共に淡く繊細な食材です。濃縮することで個性を高めようと考えました。
グレープフルーツとイチジクのパート ドゥ フリュイ
Pâte de fruits pamplemousse et figue
公式通り2:1の割合で忠実に表現しました。フルーツにより個体差があるため重量を計り正確に。
柑橘フルーツを扱う際、徹底していること、それは必ず果皮を加えます。
果皮はとても香りが高く、グレープフルーツであれば独特の苦味がアクセントになります。
いちじくはあえて一部皮を残し、より存在感が増す工夫をしました。
できあがりは美しい色になりました。柑橘の香りもよく出ており、いちじくのつぶつぶ食感がとても心地よいです。
いちじくのもつアントシアニン(色素成分)が加わるので本来イラストのような黄色い仕上がりにはなりません。必ずピンク色になります。
ゲーム中、ピンクグレープフルーツスムージーというアイテムもあるのでそこの区別でしょう。
ジンジャーハーブスムージー
さっぱりとしたパンナコッタにアレンジ。
ショウガが主役のスムージー。特有の辛さと香りを全面に出します。
ショウガとクリームの相性のよさはこれまでの経験から確信済み。
ショウガのパンナコッタ シナモンとレモングラスのジュレ
pannacotta gingembre, gelée de cannel et citronnelle
ショウガをクリームに煮出し香りを抽出。ジンジャークリームでパンナコッタを作ります。香りの補い程度にバニラを少量加えました。
ジュレにはジンジャーエールを使用。
ジンジャーエールはウィルキンソンがお勧め。
本格的な辛みと力強い味わいが特徴で、デザートにキレを与えます。
ショウガ果汁を加えてショウガ感をプラス。
ショウガ要素はこれで確固たる仕上がりに。
レモングラスは香りの強い根本を使います。ザクザクとカットしてシナモンとともに温めたジンジャーエールに加え香りを引き出します。
凝固剤はパールアガーを使いジュレに弾力をあたえます。
よくクラッシュして咀嚼時の分散を促します。そして香りが瞬時にひろがります。
ショウガの刺激をパンナコッタがマイルドに包み、とてもバランスのよい仕上がりに。後追いでやってくるレモングラスとシナモンのエキゾチックな香りがグッと味わいを深めています。
イエローミックススムージー
パイナップルの要素を全面に、ショウガで香りと刺激を、アプリコットで色とコクを。夏らしいシャーベットにしました。
パイナップルのシャーベット ショウガとアプリコット
Sorbet ananas au gingembre et abricot
ゴールデンパインを使用。
このパイン選びで仕上がりがほぼ決まると言っても過言ではないでしょう。
完熟パインは必ず芳香がします。深くて甘い香り。ときにアルコール香を感じることも。完熟しているか否かの判断基準は私の場合これだけです。
パイナップルは追熟しないので収穫された時点でおいしさは決まっています。
業者さんからの納品時、基準に達していない場合は取り替えてもらうこともあります。
スーパーで購入の際もひときわ香りの漂っているものを選びましょう。
この厳選パインをジューサーでピューレにします。
皮の処理時、イボイボを丁寧に外します。とても硬くこれが残ってしまうと食べたとき口に当たり不快な思いをします。ピューレにすると黒い粒になって現れるので見た目も悪いです。
ウィルキンソンのジンジャーエールとショウガの果汁で辛さをプラス。
注意したいのがショウガの果汁。非常に強烈です。ほんの少量加えるだけで効果か現れます。ここを誤ると選ばれしパイナップルが台無しです。バランスを崩すことがないよう分量に配慮が必要です。
アプリコットは冷凍ピューレを使用。アマレットと呼ばれる杏仁香のリキュールとアーモンドエッセンスでアプリコット要素を補います。
シャーベットの仕込みで多用するのがアルコール。
ここでは辛口のスパークリングワインと合わせました。
デザートで使用するワインは基本的に辛口。理由は簡単、デザート作るのに甘口ワインではなんのメリハリも生まないからです。辛口ワインはデザートにキレを与えます。
そして、アルコールを加えるメリットは氷の結晶を細かくし口あたりを滑らかにすること。シャーベット全体のアルコール度数が上がれば上がるほど滑らかで柔らかく仕上がります。
その他、アイスクリームやシャーベットを滑らかにするテクニックとして、全体の糖度を上げる、安定剤(増粘剤)を加えるなどがあります。目的や用途、素材に応じてこれらのテクニックを使い分けています。
アプリコットコーヒー
得意のアシェットデセールで表現。
メインデザート前の小さなアヴァンデセールにしました。
口にしたとき双方の味をしっかり感じられなくてはならない。どちらかが突出しているようではこのスムージのバランスを再現できないでしょう。
過去にこの組み合わせを目にしたことがなく試行錯誤しました。
シャンティーモカ アプリコットのソースとソルベ
crème chantilly au café de l'abricot
コーヒーは主張の強い素材。この苦みと香りをいかにしてアプリコットと組み合わせるかがポイントです。
ここで考えたのは冷たいクリームに荒く砕いたコーヒー豆を一晩浸す方法。
豆を煮出すことなくゆっくり香りを移すので適度に香りが抑えられます。
このコーヒー風味のクリームで淡雪のようなムースを作りました。
エスプーマでフワッと軽く。コーヒ風味でも色は白い、不思議なムースです。
エスプーマとは、スタバで見かけるフラペチーノにホイップクリームを絞るメタリックな器具です。あらゆる素材を瞬時にムース化することが可能。
アプリコットはソースとシャーベットに。
アプリコットの杏仁香をより深めるため、ごくごく淡いキャラメルを作りピューレと合わせます。キャラメル風味にしたくないので焦がし過ぎないよう注意が必要です。
ここにアマレット、アーモンドエッセンス、バニラを少量加え、これをソースとします。
シナモンやアニスの香りをつけてもおもしろそうでしたが、本質がブレると思いやめました。
シャーベットはパイナップルと同様に辛口スパークリングワイン加えて作ります。
そしてわずかにパッションフルーツを加えました。決してパッションフルーツ風味にしたいわけではありません。酸味と発色を補うためです。
仕上げは、エスプレッソにたっぷりと空気を含ませた泡をあしらいコーヒー豆のパウダーをひとふり。
調和のポイントはコーヒー要素に空気を含ませること。ムース、泡、パウダーと、フワッと香りを感じられる程度の存在感がよいバランスでした。
こんなところにヒントが転がっていようとは
日頃日常から、菓子作りのアイデアはないかと常にアンテナを張り巡らせています。
通勤電車で見かけるポスターやランニング中の景色、映画やアニメ、音楽までも。些細な発見から新しい発想を取り入れることが多々あります。何がきっかけになるかわかりません。その意識から今回新しい菓子やデザートが生まれました。
パート・ドゥ・フリュイ、パンナコッタは安定のおいしさでした。
パイナップルシャーベット、アプリコットコーヒーは将来性を感じました。新しい発見がありました。さらに試作と調整を繰り返せば実践で使えそうです。グランシェフにプレゼンして了解をもらえれば次のメニューで提供しようと企んでいます。
リングフィットからヒントを得たことはここだけの話。
ありがとうございました。
note公式Twitterで紹介していただきました、嬉しいです。
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